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第二話 変わらない日常(2)

 僕はただじっとしていた。大きな振動と音が響く。今は軍用ヘリの中で作戦区域まで運ばれている途中だ。このヘリには第一分隊が乗っている。人数は10人。最前線の第四小隊の中でも最前線の部隊だ。皆作戦時用の軍服を着ているがデザインは迷彩柄ではなく黒一色でコートの様なデザインである。ざっと見ると何かの宗教団体の様である。

 今回は僕と今目の前にいる副隊長こと蘭が先陣を切り一点突破で敵の一個分隊を3つに分割させる。その状態で残りの分隊と叩くという作戦だ。少し後ろに残りの分隊が乗せてあるヘリが3つ。因みに陽射と広田隊長は第四分隊で後方担当だ。


「そういえば蘭」


「ん~? なにー?」


「寝癖がすごいけどどうしたの?」


「えっ? えっ!? ええぇぇぇぇえ!?」


 その瞬間ヘリ内が笑いに包まれた。声を上げている者から口を抑えて笑っている者までいるが、おかげで張り詰めた空気が柔いだ。確かにおかしい髪型だ。両サイドの髪が斜め上を向いた状態で動物の耳の様になっている。それが頭を動かすたびにキュルンッと揺れる。因みにヘルメットは付けないのが今の常識になっているので隠すこともできない。


「やばい! 可笑しすぎるぅーー!」


「はぁーはぁー、それで戦闘するかと思ったわ!」


「蘭さん! プフッ 戦地に行く前に俺を笑い殺す気なんですかー?」


 皆が笑いながらしゃべっている。


「なんで皆もっと早く言ってくれなかったのさぁー? それでも戦場を駆ける兵士ですかぁー?」


「いや、スタスタと行っちゃうものだから言うタイミングがなくて・・・・・・」


「それを私の部屋まできて教えるのが兵士じゃろー! 仲間じゃろー!」


「兵士は関係な・・・・・・あっ。そろそろかも」


「??」


 その瞬間陽射の力を感じた。第一連隊第四小隊は大体戦場が海面で行われる。そのため水面を歩く能力が必要なわけだが、そんな能力は特別な者を除いて皆持ってない。そこで付与能力のある陽射が小隊全員に水面歩行が出来る能力を付与する算段が通例になっている。

 そろそろ戦闘区域だ。僕は立ち上がりヘリのドアを開けた。


「ではお先」


「あ! ちょっと! 私も!」


 続いて蘭も飛び降りた。

 


◆変わらない日常(2)



 風の術を使い高度300mから着地した。前方を遠視能力で見ると2km先に一個分隊程度のアドバンが見える。


「奴らの数は?」


「12・・・・・・いや、後ろにもう一体いる」


 アドバンは顔以外全身薄い鎧のような状態で現れる。奴らに思考能力は無く、ただ殺すという埋め込まれた感情のみで行動する。顔はクローンな為全員同じで欧米男性系。皮膚からは淡い光を発している。眼球は死人の様に真っ白で髪は色素が抜けているのかガラスの様に透明だ。そしてその後方300mにいる奴は恐らくこの分隊のリーダー的なものだろう。腕と足だけ鎧がなく筋肉で盛り上がっている。


「いつも通りって感じねー、さっさと終わらせて帰ろ」


「じゃあ行こうか」


「アイアイさー!」


 神力(しんりょく)を足に集中させ、そして二人で一斉に走り出した。神力は能力者たちの力の源。これを上手く使い身体能力を強化している。強化した足なら2kmなんてあっという間だ。

 まずは両手を胸の前で合わせた。そして右手を手刀の形にし、雷の神力を送り込み放電させる。手からはバチバチと音がする。雷は刺突属性が付く。突っ込んで行くには相性がいい。蘭は一本のナイフを取り出した。ナイフに風が集まる。風は切断属性が付く。蘭が好んでよく使うのだ。

 距離が近づき蘭がナイフを投げる。ナイフはかなりの渦巻いた風を纏って飛んでいる。あれを喰らっても耐えられるやつはそうそういないだろうな、と頭の隅で考えていたら敵の真ん中辺りを通過していき案の定吹っ飛んでいった。ナイフは後方にいるゴリマッチョの横を通り過ぎて行き、やがては見えなくなった。全くどこまで飛ばすんだよと思いつつ、隣を見た。すると「あ! おしい!!!」とか言ってる。蘭のヤツ、狙ってたんだな。いきなり大将は取れないものだよ普通。にしてもあのゴリラ・・・・・・ピクリともしないし・・・・・・

 敵は二分割されたところで、僕が分割された片方のど真ん中を通過する。右手を前に突き立てて全力で走った。その最中、二体ほど胸の辺りに手が突き刺さったが突っ込む丸太の様な役割を果たし、敵を吹っ飛ばしながら走り続けた。すると敵は三分割。


「おっしゃー! 作戦どーりーっ!! さっすがはオリジンの一人ね! なんかスカッとする!!」


 相変わらず元気いっぱいな蘭。でもどちらかというと彼女の攻撃の方がスカッとする感じなんだが、、と思っていたら、


「何黙ってんのよ!!大声で喜びなさいよ!このバカ!!」


 と敵を挟んで反対側にいる蘭が叫んでいた。全く・・・・・・この脳みそ筋肉バカめ・・・・・・

相変わらず戦場でギャーギャー騒いでいる蘭を無視して腕に刺さっているアドバンを抜き取る。念のため右手を首に突き刺して体と引き離しておく。そして状況を確認。作戦通りだ。

 そしてすぐに後方からの攻撃がきた。遠距離の第四分隊と中距離の第三分隊だろう。射撃属性の水攻撃だ。水の弾やら水柱が飛んでいき両サイドのアドバン達に一斉攻撃で固まっていたところを完全に離した。その頃にちょうど残りの分隊が到着して本格的に戦闘が開始する。まぁいつものパターンだ。

 アドバン達が一斉に襲いかかってきた。奴らから一番近い者が狙われる傾向にある。そして一体のアドバンが僕の方へ走ってきた。

 まずは右手に槍を構築した。念じるだけで思った通りの武器が現れる。これは先天的な能力で自分でもわけがわからないが使えるから使っているだけである。接近戦が得意な僕は槍に風を纏わせ切断力を上げる。そして向かってくるアドバンへと走った。奴は攻撃の為その左腕を大きく開き爪を立てている。最接近した時左腕が振り下ろされる。槍を全力で振りその手を弾く。金属音が響いた。そして回転しながら体勢を低くしその勢いで足の関節部を切る。が右手が槍の柄の部分に当たり防がれてしまった。奴の左手が襲いかかる。それにカウンターを合わせ、素早く体を回転させながら左腕付け根を切断する。


「グッ、ガアァァァァァ!!!」


 意味不明な奇声を上げたが奴は凶相でこっちを見ている。血が飛び散る。だけど僕が見ているのは奴の目だけ。そして奴の真上へ飛んだ。空中で逆さの状態。頭めがけて槍を思い切り振り上げ、頭を首から真っ二つにする。血が飛び散り顔に少し掛かってしまった。血の匂いだ。そして戦場の匂いでもある。この匂いは嫌いだ。何せ4歳の頃からしっているっているし、もううんざりだけども・・・・・・

 着地の体勢を取りながらそこで戦況を見る。隊員二人がそれぞれ離れたところで危機的な状況を確認した。片方が首を掴まれ持ち上げられていて、もう片方がアドバンとつば競り合いの状態で確実に押し負けている。どちらかにいっても片方が間に合わない。そう考えていると、つば競り合いの方のアドバンが高速の水の矢で吹っ飛んだ。やったのは弓を持っていた隊員だ。これで大丈夫だ。

 片方との距離は3mぐらい、海面に着地し、即座にその距離を一歩で詰める。


「うぐっ・・ぐあぁ!」


 男が苦しそうな声を上げている。でももう大丈夫。

 僕は後ろからアドバンの首を切断。そこから血が噴水の様に吹き出し、掴まれていた男は海面に落ちた。

「ハァ、ハァ、・・・・・・ワリィな、夜空」

 そう言いながら息を切らしていた。


「大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ!」


「そうか・・・・・・」


 それだけ言って僕は手を差し伸べると男は手を掴み立ち上がる。男の左太腿を見ると肉がえぐられていた。アドバンの攻撃方法は引っ掻く・殴る・蹴るの格闘戦だ。奴らは肉体改造を施され筋力が以上に高い。引っ掻かれたら肉は勿論、骨まで砕けてしまうほどだ。だからこの男は運がいい。


「第四小隊の所まで引き返せ。そこで手当を受けるんだ」


「いや待ってくれ!俺はまだ・・・・・・っ!?」


 男は急に言葉をなくした。理由はわからない。だけど僕は黙って男を見ていた。ずっと見ていた。威圧しているわけではない。ただ生きて欲しいと思ったからだ。


「わかったよ・・・・・・」 


 そう言って前線から一人片足で飛びながら後退した。そして状況確認、また離れたところで一人倒れていた。そこへアドバンが一体向かっている。あれはマズイかも。でも今はここを動くわけにはいかない。彼がここから離脱するまで・・・・・・

 だから僕は槍を左手に持ち替え右手を出した。手は銃の形に中指を加えた状態で。指先に神力を集める。使う属性は雷。バチバチと音を立てて、人差し指と中指の間で雷が収束する。そして親指をそのまま人差し指に置いた。それがこの術の放ち方・・・・・・

 収束された雷がアドバン目掛けて撃たれた、それはレールガンのように。大きな音を立て目標に向かい直進する。射線上にいたアドバン達は上半身が無く、裂け目は焦げていた。それもそのはず、超高電圧を喰らった体が存在できるはずもない。一撃必殺の術であるため狙っていなかった奴らも射線上にいただけで殺してしまった。少しだけ後ろを見るとさっきの男は第四分隊の所にいた。前に向き直ると、もうアドバンはいなかった。あれだけ騒がしかった海上が今は波の揺れる音しか聞こえない。どうやらさっきので最後だったらしい。今日もあっさり終わった。


「さっすが夜空ちゃん! 相変わらず強いぞー! クールだァ!」


「「「「おおぉ!!!」」」」


 今回はそれが戦闘終了の合図。蘭の声と共に隊員達が雄叫びを上げた。これはいつも隊員たちがやっている恒例行事の様なものだ。そしてまたもや彼女が、


「もっとよろこべー!夜空のおかげなんだぞー!」


 離れたところで叫び続けてる。完全にスルーで行くことにした。まぁ最後に倒したのは僕だったが、あれはマグレであって僕が殺さなくても他の誰かがやってたと思う。

 ふいに後ろから「無視するなーーーー!!!」の声と共に衝撃を喰らって吹っ飛んでしまった。振り向くと蘭が仁王立ち。顔が目だけ笑った不動明王だ。


「夜空君? 何デ無視スルノカナ?」


 何故か片言だ。これは怒ってる間違いなく怒ってる。だってあんな顔みたことないもの! 初めてみたもの! いかん! 取り乱してしまった。とりあえず謝っておこう。


「まぁなんだ・・・・・・神力使いすぎて疲れてしまって返事ができなかったんだ。すまない・・・・・・」


「なぁんだ!そうなんだぁ~。こっちこそごめんね! 疲れてるのに話しかけまくって」


「いや、いいよ・・・・・・」


 適当な言い訳が通用してしまった。全く素直な人だ。神力なんて全然使ってないのに。まぁこんな性格だから皆に好かれているんだろうと思う。


「あ、そういえば」


 僕はある方向を見て全員そっちを見た。最初は300m後方だったのに今は100mぐらいにいる奴がまだ残っていた。あのゴリマッチョが残っていた。完全に忘れてた。でもなぜだかこちらを向いているだけで何もしてこない。


「どうしよー。あんな奴相手にできる元気残ってないよー!」


 元気とかそういう問題ではなかろうに。やらなきゃ駄目だろ。


「いいじゃん。ここで筋肉勝負していきなよ」


「はぁ? 筋肉? 何それ??」


「肉体筋肉対脳みそ筋肉バ・・・・・・間違えた」


「誰が脳みそ筋肉バカじゃーー!!!」


 いきなり回し蹴りが僕の顔面に来た。それをしゃがんで避ける。そしてもう片方の足も飛んできたが、さすがに掴んで止めた。


「いやいや、こんなことしてる場合じゃないと思うけど」


「あ! そっか!」


 単純だ・・・・・・


「まぁいい。僕が行く。他にまだ神力に余裕がある人はいるか?」


「私が行くよ」


 現れたのは陽射だった。どうやら迎えに来たらしい。が状況を読んで立候補してくれた。


「私と夜空の二人なら倒せると思う」


「さっすがオリジン! 頼りになりますっ!」


 と手を合わせる蘭。本当に何やってんだ。作戦中だぞ。


「じゃあ皆は私の後ろで待機。夜空が直接戦闘、私は援護で行くから」


「わかった」


 そうして一気に突っ込もうとしたら、いきなりアドバンの真下から光の柱が立った。


「・・・・・・」


 マズイと思い走り出す。後ろでパンッと鳴った。陽射が術をかけるため両手を合わせたのだ。掛けた術は加速。今一番欲しかった付与だ。

 そしてアドバンに最接近し切りつけた。が、手応えが無く、消えてしまった。念のため辺りを見回したがどこにもいない。しくじった・・・・・・判断が遅れてしまった。奴は恐らく戦場観察が役目だったのだろう。人類の戦力を知るために。

 あの光の柱は転送される合図だ。生かして返さないよう急いだのだが間に合わなかったらしい。


「・・・・・・」


 切りつけたが何もなかった空間をただ見つめる。僕は少しだけ後悔した。逃してしまったあのアドバンのことを、そして蘭との無駄な会話を・・・・・・

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