第一話 変わらない日常(1)
空を見上げる。そこには大きな音を出して飛んでいった戦闘機が見えた。外の空気が吸いたくて屋外に来てみれば、いきなり騒音をばらまかれた。あれは一体なんなのだろう?
「あれはね、OF-50だよ。新型の無人戦闘機。一週間前に配備されたんだよ」
声のした隣を見ると姫神 陽射がいた。全くどうして僕の心の声を読んでくる。陽射には絶対隠し事が出来ないな、と思いつつまた空を見上げる。
「たぶん出来ないと思うよ」
「・・・・・・」
ちょっとだけ間が空きフッと心の中で笑ってしまった。まあいいか。どうせ無人戦闘機とやらは失敗に終わるのは目に見えてる。アドバンには物理的要因での攻撃は通用しないとわかっているのに軍上層部はなんで作るのかと疑問に思ってしまうが、人類の歴史において無駄なことは常に付き纏っているからこれも文明発達のためと思えばそうかもしれない。
でも無人戦闘機考案にあたっての考えはいいと思った。何でも21世紀なんだから無人で敵を排除できてもいいんじゃないかとか、人類を守るために人類を使っていては意味がないとか、中々に先を見据えていて人命尊重の意見ではないかと思ったが、まぁ無駄だ。そんなのが出来るなら僕たちみたいな能力者はいる必要ないだろ。全く・・・・・・
「ずいぶんと長い説明ねー」
「・・・・・・」
全く・・・・・・
◆変わらない日常(1)
あの無人戦闘機はどうせダメだろうと思い艦内に戻った。ここは海の上、空母艦だ。中は以外に広く作られており、娯楽が出来るほど空間が空いた部屋まである。収容人数は500人程度。つまりはかなり小さめの空母である。現在この空母には一個中隊ぐらいの人数がいる。
横には陽射がいる。廊下を歩いていると同じ部隊の隊員がしっかりした挨拶をしてくる。でもこれは僕にではなく隣にいる陽射へ向けられたものだ。中々どうしてか陽射はすごい美人だ。気配りもでき超が付くほど優しいと評判で、当に大和撫子の写鏡だと言われている。でも金髪だ。おまけに部隊でも医療術がすごいということで好かれている。でも金髪だ。
「まぁ!嬉しいこと思ってくれるのね!」
「・・・・・・」
なんでこんな女が僕の隣にいるかというと・・・・・・何でだ??
「あのさ、もう僕の心読まないでくれる?」
「うん、いいよ。でも読んでるわけじゃなくて何となくわかるって感じなんだよ」
「なんだそれ・・、じゃあ口に出すのはもうやめてくれないか」
「うん、わかった。」
そう言って陽射は前を向いて僅かに微笑んでいた。まぁいいやと思いながら僕も前を向く。僕たちの所属する部隊は正式名をあげれば地球連合海軍アジア支部作戦部第一艦隊第四小隊である。この部隊は小隊の中でも最前線で戦っており、中でも第一艦隊はアジアで一番アドバンが来る頻度が高い日本の和歌山県から南東へ500kmの地点に配属されている。そんな部隊だからこそ実力が高い人物で構成されており、負傷者もよく出る。その負傷者もほとんど陽射が治してしまうもんだから皆陽射に憧れと尊敬の眼差しを向ける。そしてそんな万能美人の隣にいる僕こと月神 夜空は側にいるのがムカつくのか羨ましいのかよくわからない目で見られている。まぁ他人の目は気にせずに行くのが僕の心情である。
どうせ召集がかけられるのはわかっているから、娯楽部屋の一つである談話室に行くことにした。暇つぶしにと僕が手にとったのは新聞である。陽射も何かをとっていたが、まぁエッセイか詩集だろと思い新聞を見た。
一面は今の政治家を叩く様な見出しだ。何でも世界のためと国民から集めた軍事予算の何割かを政策資金に回してしまった。そのおかげで軍部は装備設備が回らず鹿児島の第三艦隊はギリギリで戦線を維持しているらしい。使われた資金で行った政策も道路整備や家庭用警報器など意味のわからないものに政治生命を捧げている。もう無駄だ。そりゃ国民も反発する。
ふと隣でクスッと声が聞こえたので見てみると陽射だった。しかも手に持っているのはマンガ。そしてそれはこの前誰かが一番面白いギャグマンガと言っていたやつだ。まさかそんなのを読むとは思わなかった。そして陽射がこっちを見て、
「夜空のアソコもボックスドライバーになるの?」
「ならないよ」
・・・・・・
そして艦内中に警報が鳴り響いた。
作戦室には既に小隊全員が集まっていた。集められたのは第四小隊。席についてから数分後説明が行われた。モニターに戦況が図で表されていた。現在地から500kmの地点で戦闘機のマークに×が打たれていた。やっぱりこうなったか。全く・・・・・・
「今回の作戦はだなー、ワハハ!! まぁ皆も知っての通りOF-50投入作戦が失敗に終わってしまったからその尻拭いだ! まぁいつも行っているA-2作戦通りだからこれといって付け加えることはないが、皆にくれぐれも言っておくが・・・・・・死ぬなよ!」
「「「「了解!!!!」」」」
そう言ってニヤッとした。なぜかドヤ顔だし。あの人、ただ最後のセリフ言いたかっただけじゃ・・・・・・。
このドヤ顔の人はこの空母艦長兼小隊長の広田 伊薙中尉である。いつも笑っていてちょっと抜けている。オヤジ臭いところもあるが、その雰囲気から人望が厚い。でも出発は何時なんだろ?それ言うの忘れてるよ隊長。
「えぇ~と、本日の1時間後、一四:三〇に基地を出発する。以上! 解散!」
次に声を発したのは副隊長の片瀬 蘭少尉だ。隊長のフォローが行き届いてる。
そしてふいに彼女に声をかけられた。
「夜空!」
僕は黙って彼女の方を向いた。
「今回の先陣は夜空とアタシだから。ヨロシクね~!」
それだけ言って去ってしまった。まだ返事もしてないのに・・・。まぁいいか、これはいつものことだ。この変わらない日常を普通に熟そう。そんなことを思いながら準備のため自室へと歩いていく。