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瓶覗の空  作者: 言φ葉
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プロローグ:『イ』

 この作品は、ネットで活動する作家サークル『言φ葉』のメンバー達が、共同執筆で書き上げていく連載小説です。

 「いろはに…ゑひもせすん」の全48の単語を頭に使った48のお題を使い執筆。

 1週間で1題更新。リレー小説形式で1題ごとに筆者を交代させていきます。

 最終的には、ひとつの物語となる予定です。どうぞお楽しみ下さい!

プロローグ:

『いくじなし』



 男は常に世を恐れていた。


 静かに波紋を起こしていく壇上の声。どこか悪天候を予想させる教授の講義から目を背け、窓の外に視線を移してさえ。

 其処に映っている毒々しい夕日の眼差しも、烏のように笑う学生達も。男にとっては指を滑らせただけで剥がれ落ちそうな和やかさだった。

 彼らの中に自分がどう順応すれば良いのかわからず、そしてまた引け腰を隠せない。

 細長い固定机には学生同士のかたまりが散りばめられ、より一層男の孤島ぶりを強調させていた。居心地悪くその瞳が動く。

 その動きにあわせて、先程から落ち着きのなかった左手は挙動不審にジッポーを弄んでいく。

 右手の指先はカーゴパンツのポケットに滑り込んで煙草のケースを探っていた。まだ未開封であったビニールの、真新しい感触。

 窓の外で烏が飛び立った。瞬間。周囲の音が一斉に弾けた。

 今がチャンスだった。ジッポーを掴むと男はよろけるように立ち上がり、具合が悪いんです、と教授に伝えて教室を後にする。

 早足で廊下に出てすぐに煙草の封を切る。火をつけると長々と息を吐きだした。おっかなびっくりに躍動をみせる紫煙。それはあっという間に拡散した。

 予想通りの台風襲来だ。背中越しに教授の怒声が跳ねていく。

 烏が鳴きやむよりも早く。俊敏な反応で男は身をすくめた。


 それが男――光田茂樹の日常だった。




《文/綾無雲井》

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