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姉は攻略対象じゃないです

作者: 理解不能

「よく来た、我が奴隷。コーヒー牛乳とイチゴ牛乳と牛乳を三分以内に買ってこい。買って来れなかったらこの前の定期試験で23点だった数学Aのテスト、校内放送でバラすから。一応もう測っているぞ」

 それを聞いた瞬間、俺は回れ右をして全力ダッシュで購買へと向かった。つうかどんだけ牛乳好きなんだよ。

 俺の名前は大上おおがみ 次郎。青春真っ直中の15歳、のはずなんだが現在おもいっきりパシられている。

 さっきのは俺の二個上の姉貴、大上 一花いちか。弟の俺が言うのもなんだが、俗に言う美女で、運動能力抜群で、成績優秀(と言うより百点以外はとらない)で、生徒会長で、モテる。基本俺以外は優しく(猫かぶりって奴だ)しているので評判はいいし、年上には敬って接する(様に見えて内心では激しく罵倒している)ため教職員からも評判はいい。

 対する俺は、遺伝で髪は茶髪で目つきが悪くヤンキー風、運動能力平均で、成績不優秀で、基本周りから避けられている。仲のいい奴も数人いたが、俺の周りにいたため評判悪くなり、最終的にはみんな離れていった。実際俺はみんなに優しく接しようと努力しているのだが、どうしても怖がられ(実は裏には姉貴の暗略があったのはつい最近知った)、年上には敬って接しているつもりでいたが、そこを警察が見て何故か俺を逮捕させられ(これまた姉貴がその警察に何か言ったことをつい最近知った)、教職員からは評判が悪い。と言うか底辺。

 一歳年下の妹もいるのだが、アイツは根っからヤンキーでよく俺の財布が軽くなる原因でもある。

 そんな残念な青春(というか人生)を歩みつつも、日頃頑張ってパシられています。

 と言うような残念な弟と、完璧な姉貴の物語。



「はー、はー、はー、あ、ねき、買ってき、たぞ」

 肩で息をしながら、牛乳三種類を持ち肩で息をしている見た目不良という何ともシュールな格好で屋上のドアを開ける。屋上のベンチに座っていたのは、制服を見事に着こなす美女。髪は綺麗な黒で、腰辺りまで伸びている。しかしなんでマイクなんか持っているんだ?

「0,02秒遅かったな。と言うわけでこのマイクから愚図な貴様の点数を発表しちゃいまーす」

「ちょっと待ったーっ!逆だ、逆!0,02秒早かったぞ!」

「ちっ、バレたか」

 パシリによって鍛えられたこの体内時計を舐めるなよ!0,0001秒の差ぐらいまでなら分かるぞ!

「折角だし、全教科の点数を貴様の声真似で発表してやろうと思ったのに」

「鬼だな、姉貴!」

「まぁ、それは置いといて」

 置いといていい問題なのか?俺以外なら置いといていいような問題なんだが。

「本題なんだが、最近オス豚共からの告白が多くてな、それの厄介払いを頼む」

「男子のことをオス豚とか言うなよ!そしてそんなこと俺に頼むな!」

 青春生きている男子をバカにしちゃいけないと思うんだが、それって俺だけ?

「金をやる、二千円くらい。簡単なバイトだろ?貴様は睨むだけでいいんだから」

「くっ、今度は騙されないぞ!それやったせいで更に男子女子共々評判が下がったんだぞ!」

 前にも金に釣られてやりました、見事に。思い返すとどう見ても俺、あれ完璧ヤンキーだったな。

「元々貴様の評判何ぞ底辺とほぼ同じか、底辺そのものだろ?下がりよう無いじゃないか」

 くっ、否定できない・・・!

「と言うわけで頼むな。今日の放課後、下駄箱でな」

「分かったよ・・・」

 残念すぎるな、俺。自分を哀れむ奴ってそんじょそこらにいないぞ。

「しかし今日は天気がいいな。ここで弁当でも食べようかな?」

「ん、ここで昼飯食うつもりか?」

「ん、そうだけど?一応校則じゃ食ってもいいって書いてあるけど」

「ふーん」

 ジト目で俺を見る姉貴。そう見てきても耐性が出来ている俺には痛くも痒くもない。いや、そんな耐性が出来た俺を考えると激しく痛いけど、特に胸辺りが。

「じゃ、私もここで食べようかな」

「ん?教室で食うんじゃないの?」

「うるさい蝿共がよってくるからな、食べるどころじゃないんだ」

「同級生をよくそこまで貶せるよな」

 ジト目で姉貴を見かえしながら弁当を開けると、そこには今朝見た通りの弁当があった。内容を言うとすれば、ウインナー、卵焼き、ブロッコリー、ベーコンとほうれん草の炒め物、ミニトマト、ご飯だ。更に言うとすれば俺は二段で姉貴は一段。

「む、ウインナーはタコさんがいいっていつも言っているじゃないか」

「ゴメンゴメン。でもその代わりに今日の卵焼きはちょっと凝ったぞ。食べてみ?」

 この会話を聞いて分かったと思うが毎朝弁当を作っているのは俺だ。弁当に限らず家事全般は俺がやっている。ちょっと両親に訳あって、家事は俺の仕事になった。まぁ、言わなくても分かるかと思うが他の二人は、ねぇ?

 姉貴は卵焼きを口に運び、その中に入れる。

「出し巻きか?」

「正解。出し出すのに時間食っちゃって、ウインナーをタコにすんの忘れてた」

 しかしこの出し巻き卵でプラマイゼロ、寧ろプラスだろう。そう思っていた矢先、プイッと顔を背けて口を開いた。

「ウインナーはタコさんじゃないと嫌」

 マジかよ!出し巻きじゃタコさんじゃなかった分の穴、埋められないのかよ!

「どんだけタコさん好きなんだよ・・・」

「私はタコさんウインナーと牛乳さえあれば、生きていける」

 栄養が偏っていると思うのは俺だけか?というかウインナーはタコさん限定?

「当たり前だろう」

「地の文読むなよ姉貴!作者困るぞ!」

「違う。地の文を読んだんじゃない。貴様の心を読んだのだ」

「うわっ、もっと悪質!というより人の心を読むなよ!プライベート保護法!」

「?貴様にそれは適用されないのではないのか?」

「素で返すな!素で!俺は歴とした人間なんだから!」

 というかタコさんウインナーからここまで落ちちゃう俺ってどうよ。

「っ!そ、そうだったのか!」

「ちゃんと二足歩行じゃん!?ホモ・サピエンスじゃん!」

「いや、でも立場は奴隷だって一番最初に言ったではないか」

「うわー、本当だー」

 あ、もしかしておれ人権無い感じ?

「当たり前だ」

「さ、最悪だこの姉は!?」

 俺の悲痛な叫びは空に響いていった。



 放課後、約束道理下駄箱前にいると、姉貴がやってきた。

「いたのか」

「いや、いたのかって何時間待たせるつもりだよ!生徒会の会議があるんだったら先に言っとけよ!」

 そう、俺は約三時間この寒い下駄箱前に突っ立っていた。そのため三年の可愛い先輩に恐る恐る涙目で、更に震えた声で「と、通っていいですか」なんて言われてもの凄くショック受けました。何か後ろにも色々な三年の先輩方が陰に隠れて見てました。

「マジ、心の中が傷だらけ何すけど・・・」

「そんなことはどうでもいいのだが「いやよくねぇよ!少しぐらい反省しろよ!」む、少し反省しているぞ。貴様が風邪を引くと弁当が無くなってしまうくらいの反省は」

「弁当かよ!俺弁当に負けたのかよ!?」

「知っているか?人間の三大欲望は食欲、色欲、睡眠欲だ」

「うん、そうだけど」

「私は己の欲に従順だぞ?」

「うっわ、知っていたけど本人から聞くとなんかこうあれだよな」

「貴様にはボキャブラリーがないのか、最近の小学生の方がもっとボキャブラリーがあるぞ」

「なに言ってんのかよく分かんなかったけど、馬鹿にされていることは分かった」

「何だと……!?貴様がそのことに気が付くとは思わなかったぞ……!!」

「俺もしかして弟って思われていないんじゃ……」

「何を言っている次郎」

 今日初めて名前で呼んだ姉貴の目は真剣なことを物語っていた。

「次郎は私の弟で、私の大切な人で、私の兄弟だ。そのことは忘れてはいない」

「うっ、分かったよ、姉貴」

 夕焼けで赤く染まった姉の顔を見ると、兄弟だと言うのに見とれてしまうほどの顔があった。

 それにさっき言ったことを思い出す。俺の姉貴は腹黒だけど、美人で家族思いだ。

 そう思いながら帰宅するために、夕焼けに向かって足を進めた。

 明日は絶対タコさんウインナーを入れなくては、と考えながら。

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