高校の同級生が色違いだった件。
2組の佐々木は『色違い』だった。あまり絡みはなかったが、この前はじめて喋った。本人は「まあ個性だと思ってよ」と弄られ方を熟知しているみたいなスマートな口ぶりだったので「お前、珍しいな?」等の切り口から始まる会話に慣れている印象を受けた。
モテるだろ?と聞くと「まあね」と言われた。
続けて「でも、最初だけだよ」とヤツは笑った。
電車で一緒に帰ったときも、佐々木はよく乗客に見られていた。あいつは慣れているのか気にしていなかったが、俺は気になってしまった。
ファミレスでも制服姿の同世代の女子が小声で視線を向けていた。佐々木は別にイケメンというわけではないのだが、色違いだったので注目を集めていた。
色違いは目立つ。身長が高い人間がバスケ部に誘われるように、色違いの人間は芸能界に勧誘されがちだ。今や売れてるアーティストやアイドルには色違いが多い。色違いだけのアイドルグループも存在するくらいだ。単純に人と見た目が違うというのは、それだけで注目を集めやすく、人前に立つことを生業としている立場の人間にとってはプラスになりやすい。
以前、就活の面接官を自称する人のツイートが話題になっていた。『能力値が同じくらいの人間二人がいて、どちらかしか採用できない場合、片方が色違いだった場合、99%そちらを採用する』と。この意見には賛否両論あった。『本質を得てる』という賛同もあれば『贔屓だ』『色による』『ルッキズムの末路』という声も散見された。
最近のマッチングアプリの募集条件に「高学歴・高身長・高収入・色違い」と含まれることも少なくないそう。遺伝的なものではないため、色違いと結婚したからといって色違いの子供が産まれるわけではないのだが、世の中には男女問わず【色違いの恋人がいる=レア=自分はすごい】と考える人間も中にはいる。
ただ全ての色違いに良い面があるかと言われれば、そうじゃない。
色違いの中には(こういう言い方はあまり良くないが)どうしようもない色違いも存在する。
そして、そういう人間は迫害されがちだ。
色違いになんか産まれたくなかった、というサムネでインタビューを受ける色違い女性の動画も見たことがある。色違いがきっかけでセクハラやイジメの対象になって、その人は心を病んでしまったそうだ。
その点、佐々木の色はちょうどよかった。
色違いアイドルグループのセンターほど輝いてはいないものの、少なからず変な色ではない。
ちょうど良い色合いだった。
※ ※ ※
「昔はな、1/4096の確率だったんだが、今は少子化の影響もあって1/8192にまで下がったそうだ」
親父はそういって蕎麦を啜った。曾祖父母の時代には色違いの人は今より少しだけ多くて『同じクラスに色違いの男女が二人いて、色違い同士で付き合っていた』等といった眉唾ものの噂もあったようだ。
「お前は“アルビノ”を知っているか? 正式名称は[眼皮膚白皮症]といい、生まれつきメラニン色素と呼ばれるものが少なく、見た目に特徴が現れやすい体質のことを言う。肌が白く、髪が金になったり、はたまた髪が銀で、瞳が青になったりと、神秘的なイメージを抱きがちだが、反面──健康リスクが高い」
俺は静かに、親父の話を聞いている。
職業柄、彼はこの手の分野には詳しかった。
「例えば発達障害なんかは見た目では気付きにくいが、得意・不得意が脳の性質からハッキリと分かれているので、その不得意さによって、初めて自分が発達障害であると自覚するケースも少なくない」
食後には蕎麦湯でまったり。
蕎麦湯には腸の動きを整える効果があるそうだ。
「そして『色違い』は見た目でハッキリと区別できるのだが、生物学的に大きなリスクを抱えていない。彼らは至って健康的で、他の人間と同じように一般的な集団生活を送ることができる。言うなれば、身に纏っている衣装が他とは異なっているだけ、だな」
そういって、静かに箸を置いた。
※ ※ ※
またしてもネットでは色違いの話題で盛り上がっていた。色違いアイドルグループとライバル関係にあったアイドルの裏垢が発掘されて『色違いの奴らって、本当に人間なの?』という言葉がきっかけだった。
この発言に対して『えっと、私たち選ばれし者なんですけど?w』と色違いアイドルグループのリーダーがコメントしたことで、両者が炎上してしまうという事態に陥った。ネットの一部では【#色違い嫌悪界隈】という差別上等のハッシュタグも作られた。
佐々木は気まずそうだった。
彼は少なくとも傲慢な人間ではない。己を過度に卑下したりもせず、きっちりと『自分は色違いである』というアイデンティティがある。
同種だからこそ、上下を付けたくないのだろう。
「ほら、ブルーハーツも歌っていたじゃないか。生まれた場所や肌の色や目の色で決まらないって。僕たちは最初から同じ人間なんだからさ」
プールに遊びに行ったとき、たこ焼きを片手にヤツはそう言っていた。
紺色の海水パンツを履いて、色違いの身体を隠さず、曝け出していた。
筋トレを始めたらしく、腹筋は割れていて、二の腕も膨らんでいる。
俺は薄手のパーカーを羽織りながら、バスタオルで身体を隠している。
プール授業はいつも見学だった。
「ずっとそうやっているけど、泳ぐの苦手だったりする?」
「まあそうだけど、少し違う」
「ちがう?」
「実は……佐々木に言いたいことがあって」
たこ焼きを無理やり完食させたことに対して、不満を一切漏らさず、佐々木は俺の後をついてきた。
向かった先は人気の少ない個室のシャワー室。
パーカーとバスタオルを床に落とす。
海水パンツも脱ぎ、全裸になった。
「おいおい、そんな趣味はないぞ」
佐々木が笑っている。
彼は善い人間だ。ネットを棲み家とする個体と異なり、道徳心もモラルもあり、差別意識も低い。
自身が好奇的な目に晒されているからこそ、そういった「稀有な存在」に対しての耐性があるのだろう。
これなら理解して貰えるかもしれない。
ようやく、真の友人というヤツが出来るかもしれない。
シャワーを頭から被る。
徐々に、徐々に、下腹部から変化してゆく。
佐々木の表情が凍りつき、その場で小さく悲鳴を上げた。
「ごめんな、佐々木。今まで黙っていて。
──俺、実は『人間違い』なんだ」




