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魔導学園ラブロジック!-トキメキはチカラ。-  作者: 花塩樹圭
第二章 魔導における諸現象について
8/8

とりあえず魔導実技。

「おはよう、神代君。何してるの?」

 翌日。澪が風紀の当番を終えて教室へ行ってみれば、ぽつねんと大樹が席でぼんやり座っていた。教室には人がまばら。

「何って、座ってんだよ」

「それは見ればわかるわよ。っていうか、なんで座ってるの? 次、移動教室よ?」

 澪は鞄の中から手提げバッグを取り出し大樹の元へ。

「はぁ? 聞いてねぇんだけど」

「時間割は確認した?」

「もらってねぇよ」

「バカねぇ、くれないわよ、そんなの。昇降口のところに大きな黒板があったでしょ? あそこに一週間分の時間割が書き出されるから、それをメモするのよ。今週来週は お か げ さ ま で、時間割に狂いが出るから。特に気を付けるようにって風紀に連絡が入ったわ。帰りのHRで言うつもりだったけど、新鮮な新着情報よ。誰よりも早く聞けたんだからありがたく思いなさいね」

「めんどくせぇなぁ。で、どこ行きゃいいの? ってか、何やるんだよ。体育じゃねぇよな」

「当たり前でしょ。1時間目は魔導実技。実技棟は遠いんだから急ぎましょ。一緒に行ってあげるから」

「お、ありがてぇ。ここ広いから迷子になっちまうかもしれねぇからな! んで? 持ち物は?」

「手ぶらでいいわよ」

(なんだろ、やっぱり犬? お散歩行くわよっていえば素直についてくるような…でも、忠犬ではないわね…)



 望陵学園魔導実技棟。かつては体育館とは別に在った講堂を建て替えた。全校生徒を収容するだけのキャパがあった講堂だけに敷地面積は広く、新たに建てられた実技棟もさまざまな魔導に対応できるよう日本有数の規模を誇る。魔導と言っても物理操作になるため、特に火気に対する備えは厳重で、標準のものより大容量のスプリンクラーが装備されている。

 大樹たちが入っていったのは棟1階の第3実技室。ちょうど実弾銃のシューティングレンジのような屋内、と想像していただいて構わない。実際、最長100m先の標的(ターゲット)へ干渉するのだから。

 重厚な耐火ドアを閉めて澪が大樹を連れ立ってやってきた。

「お、新郎新婦の入場だねぇ?」

 紗々羅がニヤニヤと茶々を入れるが

「何言ってるの? 私は迷子の子犬を保護しただけよ」

 澪は真顔で返す。

「子犬なんだ」

「そ。望陵で生まれたてホヤホヤってとこよ。右も左も分かんないんだから。時間割も把握してないのよ?」

「ずいぶんと世話を焼きますなぁ」

「そりゃそうよ。だって世話係を頼まれたんだから。校舎内で迷子にでもなられたら校長先生直々に叱られるわ」

「へいへいそういうことにしておくわー」

 紗々羅はニンマリとしている。

「なによ、その顔」

「オレ、もう帰りたい…」

「何言ってんの! まだ1時間目も始まってないのよ? サボりは不良の始まり。そういうの、私は許しません!」

「なんだよ、お前、オレの母ちゃんかよ」

「何よ。文句ある?」

 澪は腰に手を当て大樹を睨む。その姿…大樹の言った通りではなかろうか?

「いえ、別に」

「ねぇねぇひろっちー。ひろっちは魔導どんくらい使えんの? AMIいくつ?」

 ギャルらしくバグった距離感で詰めてくるものだから当然大樹は後ずさる。

「あみ…って何?」

「魔導質量指数のこと。転入するときに測ったでしょ?」

「ああ、あのヘンな機械のヤツか。でもアレ、壊れてね? 数字出なかったんだけど」

「何それ⁈ あみおってこと⁈」

「こら紗々羅! それ禁句でしょ⁈」

(私は…先に聞いちゃってるからそれほどでもないけど、でも普通驚くわよね)

「まぁ固いこと言いっこナシで。でもあみおで望陵来ちゃったの? 逆にスゴくね?」

「そ、そうか?」

 澪は少しむっとした様子で二人の間に割って入った。

「紗々羅、彼に変な自信持たせないで。神代君、実技は追試や補習はないから気楽にやりましょ? 魔導の成果なんか人それぞれなんだから」

「なんか過保護だなー」

「仕方ないでしょ。初めてなんだから」

「2-B全員揃ってるかー。それじゃ実技始めるぞー」

 担任のさくらの声が1時間目の開始を告げる。実技指導はクラス担任の役目。魔導の指導には教員免許のみならず魔導指導免許2種を持っていなければならない。陸自魔導部隊所属のさくらは打ってつけなわけだ。



 本日の課題は水の形態変化。標的(ターゲット)は25m先に置かれた水。公正を期すため全員同じ紙コップに入ったものを使う。各自レンジに入り、きっちり20℃に調整された水温を指定時間内でどこまで下げられるのかがチェックされる。無論凍らせてもよい。もっともそれほどまでに下げられるのはAMI値3.8越えの者、陸自魔導部隊なら即戦力な実力である。

 互いの魔導の干渉を防ぐため、3つあるレンジの1つを使い、入れ替わりで1人ずつの試技となる。もちろんレンジに入っていない者は試技中の生徒を見るわけだが、クラス全員が見守る中でやるのだ、当然緊張もする。

「私、上げる方は得意なんだけどなぁ…」

「あれ? 弱音とはめずらしー。魔導の成果は人それぞれなんじゃなかったっけ?」

「まぁそうなんだけどね…」

 入れ替わり立ち代わりでレンジへ入るクラスメイトたち。その結果に悲喜こもごもだ。

「次! 白鷺!」

「はい!」

「んじゃ澪。がんばってねー。ほら、ひろっちもなんか言いなよ」

「お、おう。がんばれよ」

「…ふふっ。ありがとう。行ってくるね。ごめんなさーい、通りまーす」

 クラスメイトの人垣を掻き分け、澪はレンジへ向かった。

 ひとたびレンジへ入れば普段通りの澪。不安はあってもここ一番の集中力は高いのだ。件の手提げバッグから黒く長いケース、その中の指揮棒(タクト)を取り出し――――そう、彼女は普段魔導発動にオーケストラの指揮者が使うタクトを使う。それは言ってみれば魔法使いが使う魔法の杖に相当するもの。とはいえ楽器屋で買ってきたタクトそのままなので、それこそ種も仕掛けもない。何を使うかは人それぞれだが、こういったアイテムがあった方が集中しやすいのである。

「がんばれよ、か」

 何とはなしに大樹に掛けられた言葉を復唱してみる。不思議と衆目に晒されているプレッシャーを感じなかった。

「はじめ!」

 さくらから開始の合図。キッと25m先の紙コップへ意識を集中する。

「…よし。水を要素に。前方の小さな水隗へ――凍てつく極地の冷気を。【沈黙のカルマート!】」

 構文の詠唱と共にタクトでピッと紙コップを指す。そしてしばし静止――――

《10秒経過。そこまでです》

 魔導の計測オペレーターから終了の放送が入った。

「ふぅ…」

 構文を維持しつつ10秒間集中し続けるので精神的疲労はかなりのもの。それだけに澪はかるく汗ばんでいた。それを手提げから出したタオルで拭くと大樹と紗々羅がいる方へ。しかしいつもはすぐ出るはずの結果が出てこないので不思議に思い振り返ると

《記録。マイナス12.5℃》

 結果を告げるモニター画面とアナウンスに驚愕のざわめき、いやむしろどよめきが起こった。

 しかし誰よりその結果に喜んでいたのは

「スゴイじゃん! スゴイじゃん、澪! AMI3.0(あみさん)入りだよこんなの!」

 紗々羅だ。澪へ駆け寄り抱きついた。しかし当の本人は口をぽかーんと開けて固まっている。

「…なんで?…」



 澪は…自分の結果にショック(?)だったのか、焦点が合わないままずっと独り言。

「…なんで…なんで…」

「もー。結果が悪くてショック受けるなら分かるけど良かったんだよ? むしろ喜びなってー」

 良かった結果を慰め(?)紗々羅は澪を抱いて頭を撫でてやっている。

「わ、たし、1.7だよ? それなのにあんな…私、ズルとかしてないよ? 校長の娘だからとかそういうの、関係ないよ?」

「分かってるってー。誰もそんなこと疑わないってー。ほらほらー、ひろっちも何か言ってあげなよー」

「良かったならそれでいいじゃねぇか。第一、人のやることにいちいちケチをつけんヤツがいんならオレがブン殴ってやる」

「ほらほらー…あれ?」

 澪はスルッと紗々羅の腕の中から出ていくと大樹の前に仁王立ち。

「それはダメ」

「なんでだよ。人のことやっかんでゴチャゴチャ言うヤツなんかクソだろ?」

「それはそうだけど、それでもダメよ、暴力は。自分のこと『平和主義者』って言ってなかったっけ?」

「ケチつけてくんのなんか、ケンカ売ってんのと同じだろ」

「そんなわけないでしょ! …そうね、暴力振るうつもりなら、せっかく使える魔導だもの、これで頭を冷やしてあげるわ。12.5℃ほど下げてあげられるそうよ?」

 澪はニヤニヤと大樹の顔を覗き込む。

「マジか…」

 大樹は顔を引き攣らせた。

「あらあら、いつも通り? にゅふふ」

「次で最後だ。 神代!」

「おう! ほんじゃ行ってくら」

 とさくらの呼び出しに右手を軽く挙げ、大樹はレンジへ向かう。

「ひろっちがんばってねー。ほら澪も」

「うん。まぁ結果はひとそれぞれだから」

「ここでそういうこと言うんかい」

「だってホントのことだもん」

 レンジへ入った大樹。

「あんな遠くじゃ殴れねぇな。せんせ、もう始めてもいいか?」

「準備はいいのか? それでは開始」

 25m先の紙コップを見る。そういえばケンカになった上級生は右手を前に翳してたな、なんてことを思い出した。

「構文とかオレ分からねぇし…ま、いっか」

 それを真似て右手を紙コップへと翳す。

「――とりあえず冷えろ」


――――キ ィィィィィィィィ…


「…何の音だ?」

 誰もの耳に高周波の、耳鳴りのような音が届いた。次の瞬間。


バボァッ


ヂリリリリリリリ…プッシャァァァァァ…


 ターゲットの紙コップ中心に爆発が起こり、その衝撃と爆圧を感知したセンサーが火災報知機を鳴らしてスプリンクラーが作動、全開で放水し始めた。

「全員退避ーっ! 非常口から順次外へ!」

 さくらの指示で全員緊急避難。非常扉に人が殺到する。

「みんな落ち着いて!」

「一列になって速やかに出ましょう!」

 澪とクラス委員の羽川が誘導し、2つの非常口から人の列が外へ流れ始めた。

 避難遅れがないか見回したさくらはレンジで呆然と立ち尽くしている大樹を見出した。

「神代! 何をやっている! お前も外へ出ろ!」

「お、おう!」

 スプリンクラーのスコールの中、駆け出した大樹がさくらの前を横切った。

(…涙?)

 全員退避を確認したさくらも薄暗い第3実技室を後にする。外はまるで通り雨が過ぎ去った後のように晴れ晴れとしていた。


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