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魔導学園ラブロジック!-トキメキはチカラ。-  作者: 花塩樹圭
第一章 魔導科どうか?
5/9

当然観察対象はそこにいる

 誰もいない廊下を澪は自分の居場所である2-B教室へ急いだ。

「理由があるとはいえ遅刻で入るはヤダなぁ…悪目立ちしそう…」

 風紀委員会に所属している割に人前へ出ることは苦手なのである。

 2年生のフロアである2階へ着くや、廊下にはイキのいい女性の声が聞こえてきた。

「あちゃぁ、始まっちゃってる! そぉっと、目立たないようにぃ…」

 2-B担任の胡桃沢(くるみざわ)さくらは陸上自衛隊魔導部隊からの出向という珍しい存在。部隊では指揮を執ることもあり声が大きい。そればかりか通りもいいので、授業中、静かな先生だと隣の教室のさくらの声の方がむしろよく聞こえるくらいなのだ。

 澪は後ろの戸をできるだけ音を立てずに開き、こっそり忍び込むように静々と入った。

「遅くなりました」

「事情は校長から聞いている。早く席に着きなさい」

「はい…」

 そそくさと自分の席へ向かった刹那。

「あれっ? よおっ! 委員長じゃねーか!」

 聞き覚えのある声にギクリとする。その方向、教卓の方を見ると、さくらの隣にあるのは見覚えのある学ラン姿。昨日の少年であり今朝の少年である神代大樹がいる。

「イイっ⁈」

「こんなとこで知り合いに会えるとはねぇ」

 虚を突かれとっさに出た言葉が

「…その節はどうも」

 だった。そしてクラスメイトの視線が一斉に自分に降り注いでいることに気付き、大いにたじろぐ。

(うひぃぃぃ、見られてるぅ!? 目立ちたくないのにぃ)

 身長163cmとそれなりに背丈のある澪だがこれでもか!というくらい縮こまった。視線の集中砲火を逃れ早く席に着きたいのだが

「お? なんだ白鷺。知っているのか?」

 さくらの追求がそう簡単にはさせてくれなかった。

「はい、あ、いえ、知り合いというかなんというか」

(そうか…考えてみれば驚くほどじゃないか。アイツ転校生だし、世話係ということはクラスが同じでも当たり前よね)

「そういえば朝の騒動で顔は合わせているんだったな。それじゃ神代、自己紹介を」

「神代大樹だ」

 ――――飄々と、それだけ。シンプルを通り越してぶっきらぼうともいえるその自己紹介に、次の言葉を待っていた教室中がざわめいた。

(短っ⁈ 名前言っただけじゃない! いや、もうちょっと何か言うでしょ普通…)

「…それだけでいいのか?」

 さくらもまだ何か言うものだと待っていたのだが続かないと悟った。

「特に語れることもないんで」

「そうか。窓際の一番後ろに空きがある。そこに座れ。白鷺も何を突っ立っている。さっさと席に着け」

「あ、はいっ!」

 なおも身を低くして集中砲火を逃れつつ、澪は這うようにして席へ着いた。

(あーもう、目立っちゃったじゃない…今日は朝から最低っ! …今日も、か… もぉぉぉ…)



 朝、と言っても大幅に遅れたHRが終わり、1時間目――――時間割上は3時間目だが――――開始前の休み時間。

(でもハッキリ伝えなきゃね。何も言わないでずっと行動を見張ってるなんて、ストーカーじゃないんだし)

 意を決して澪は席を立つ。自分の『使命』を大樹に伝えるために。

「神代君!」

 指定された窓際の席に着き、ぼんやり外を眺めていた大樹。声の方を見上げると…組んだ両腕の上には2つの巨峰から為る山脈。そのさらに上空には不機嫌そうな少女の顔。

「…ん? なんだ委員長か。何か用か?」

 やはり飄々と、それだけ。ぶっきらぼうに。

「何か用か、じゃないわよ。っていうか私、委員長じゃないって言ってるでしょ。ちゃんと白鷺澪って名前があるんです!」

「おお、そっか。そんじゃ…澪って呼べばいいのか?」

「…それはいきなり馴れ馴れしくない? 白鷺、でいいわ」

「分かった。白鷺、な。で? なんかオレに用か?」

「私、あなたの世話係になったから」

「はぁ? そりゃどういうことだよ?」

「どういうことなのか私が知りたいわ。ともかく校長先生にそう仰せつかったからそうするだけ。分かったかしら?」

「そうか。いやー、知ってるヤツがいたんで助かったぜ」

(…笑顔?)

 そういえば自分が教室に入り、声を掛けてきたときには笑顔だった気がする。でも自己紹介の時には仏頂面、とまでは言わないまでもこんな顔はしていなかった。なんだか澪の中で大樹のイメージが固まらない。

「知ってるったって、私とアナタは知り合いじゃなくてただのクラスメイトよ。あ、それよりも! 昨日あれから大変だったんだから! バッグの持ち主のおばあちゃんがお礼にって私にお金を渡そうとしたのよ? もちろん、私がしたことじゃないから丁重にお断りしたけど。ちゃんとあの場にいればあなただってお礼が受け取れたのに」

「あー、そういうのがめんどくせぇからおまえに押し付けちまった。悪かったな」

(謝った? あらま、意外(いがーい)

「それじゃなんでひったくり犯と戦ったりなんかしたの?」

「なんで、って、そりゃ悪いヤツだからだろが。悪いヤツがぶっ飛ばされて警察に捕まって。そんでバッグは持ち主に帰ったんだ、それでいいだろうがよ」

「え、まぁそうだけど…」

(何この人。正義の味方とか、そういうつもり? 行動に打算とかってないの?)

「それでなんで朝は天城先輩とケンカしてたワケ?」

「オレは平和主義者なんだよ」

 澪は我が耳を疑った。

「ねぇ神代君。言っていいことと悪いことというのがあるわ。朝からケンカしてた人が言うセリフじゃないでしょ? それ。悪いヤツだからぶっ飛ばすとか、そういうつもり?」

「アイツが悪いかどうかなんか知らねぇよ。ただ朝っぱらから絡まれたら黙ってるワケにゃいかねぇだろうて」

「だからって転校初日から問題起こすことないでしょ?」

「オレだって問題なんか起こしたかねぇさ。居場所がねぇとかもうコリゴリだからな」

「なにそれ。ぷーくすくす。さては他校でも問題起こして追い出されたんでしょ」

「そんなんじゃ」

「なになにー。何話してんのー?」

 二人の元へ手を振りながらやって来たのは澪の親友の朝比奈紗々羅(あさひなささら)。脱色&染色した金髪にバリバリのメイク、ピアスも指輪も完全装備の、いわゆる「白ギャル」。大樹が一目で「委員長」と呼ぶほどの澪の出で立ちとは正反対だ。まるで校則の「良い例」と「悪い例」を並べたような絵面だが、当学園では魔導の触媒にアクセサリーを使う者もいることから装飾品が大目に見られ、それを拡大解釈した生徒たちがメイクも含め好き勝手にやっているもののおとがめなし。学園の「生徒の自主性を尊重する」とのモットーが生きているのである。

 紗々羅が澪の隣に来たとき、かすかに大樹が身を引いたかのように見えた。

「澪ってば今日はなんだか元気っコじゃん。なんかイイコトあった?」

「何もないわよ?」

(むしろその逆…なんだけどなぁ)

「ふーん。ま、いっか。で、何? ひろっちとは知り合いなの?」

「ひ…ひろっちィィ?」

 大樹が驚声と共に身を引いたのは気のせいではない。実際その上体は後ずさっていた。

「そ。大樹(ひろき)だからひろっち! 別におかしくないっしょ?」

「お、おう。まぁそうだけどよ」

 紗々羅は澪の頭部に普段は目にすることのないものがあることに気付いた。

「澪、今日カワイイの付けてんじゃん!」

「もう紗々羅ったら、茶化さないでよっ! 知ってて言ってるでしょっ!」

 カチューシャ状のそれは「魔力測定装置」。保健室に行ったことで澪の魔力と健康状態を記録している。朝の騒動で本来の魔力以上の魔導を発動してしまったことから確認のためと付けられたのだが、魔力の安定性や魔導構文構築の確かさに自信のあった品行方正な澪としては、「まるで問題児じゃない」と不服である。

「あははは。ごめんごめん。それで何? 二人は知り合いなワケ?」

「知り合いってほどじゃないけど…知らないってほどでもないけど…」

「ナニソレ? 意味わかんね。キャハハハ!」

「校長先生からね、転校生の世話をしてくれって、直々に言われたのよ」

「澪がひろっちの世話係? へぇー。ふぅーん」

「何? 何か変かしら?」

「べぇつにぃ?」

「何その意味深な笑い」

「なぁ、用が済んだならオレもう寝てていいか?」

「おっとおいてけぼりにしちゃったみたいだねぇ。私朝比奈紗々羅(あさひなささら)。澪の友達やってまーす。よろしくねぇ、ひろっちー」

 紗々羅はニコニコと手を差しだし握手を求めた。大樹は頭を掻きながら恐る恐る手を出し、ぎこちなくそれに応える。

「こ、こりゃご丁寧にどうも」

(何なの? この態度の差!)

「…紗々羅はすごいわよねぇ…よくこんな人と仲良くしようとか思うわよねぇ」

「なんか変?」

「いえ、そういうコミュ力高さはホント尊敬するわ」

「コミュ力とかじゃないって。いろいろあちこち仲良くしとけばなんかイーコトあるかもしんないじゃん? それにひろっち、悪い人じゃなさそうだしさ」

「そうかしら?」

「よぉ、朝比奈! お前、今日俺と日直だろ? まだ日誌取り入ってねぇぞ!」

「あ、イケね! ちょっと行ってくるね。そんじゃね澪、ひろっちと仲良くしてねぇ。ひろっちもね!」

「ほら、余計なこと言ってないで行った行った!」

「はいはーい、またねー」

 紗々羅が手を振りながら去ると、大樹はドカッと背もたれに身を投げた。

「はぁ…疲れた…」

「ん? なんで?」

「苦手だ…ああいう女…」

「なんで? 紗々羅はいい子よ?」

「そうかもしれねぇが、なんかこう、グイグイ来られるとどうしたらいいか分かんねぇ…」

「あら。あなたにも苦手なことがあるのね。それじゃ私もグイグイ行ったらいいのかしら?」

「できんのかよ」

「…私には…ちょっと無理、かな」

 急にトーンが落ちたことに気付き、大樹が見上げるとそこには紗々羅が去っていった方向を遠い目で見る澪がいた。

「…ふぅん…ま、自分は自分でいいんじゃね?」

「え? いま何」

 始業のチャイムと同時に1時間目の先生が入ってきた。

「はい、全員席に着きなさい!」

 生物の瀬戸は遅刻を許さない時間厳守の先生ゆえ、教室内の生徒は一斉に自分の席へ。もちろん澪も。

 こうして遅ればせながら今日の一日が始まったのである。


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