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魔導学園ラブロジック!-トキメキはチカラ。-  作者: 花塩樹圭
第一章 魔導科どうか?
4/8

嵐を見張ることになりました

コンコン…


「入りたまえ」


カチャ…


「失礼します」

 澪がやって来たのは校長室。今朝のできごとの報告をするためである。校長席からは3ピースのスーツをきっちりと着込んだ紳士が静かに立ち上がった。窓には初夏の強すぎる日差しを遮るため厚手のカーテンが閉められており、室内はやや薄暗い。ただそのおかげで逆光ながら澪からも()()()()紳士の姿を窺うことができる。

「あの…お父様…」

「学校ではその呼び方はしないように言ったはずだが?」

「すみません、失礼しました。校長先生」

 澪は肩をすくめ、慌てて頭を下げた。


 廣塚望陵(ひろつかぼうりょう)学園高等高校。学校法人創進会が運営する高等教育機関で、澪の父親・霧島文弥(きりしまふみや)はその校長である。名字の違いは、文弥が仕事での名前に旧姓を使っているから。彼は白鷺家に婿養子として入ったので戸籍名は澪と同じ白鷺姓である。霧島文也はあのノーベル賞受賞者・真壁悠一の愛弟子であり、日本国内での魔導関連の重要ポストに就いているばかりでなく、真壁の要望から国内における魔導教育にも携わっており、ノーベル賞賞金を基金とした創進会により運営される3校の望陵学園のうちの1校を任された。ちなみに文弥の妻であり澪の母親である白鷺詩乃(しの)は真壁の紹介からお見合い結婚、しかし詩乃は生来体が弱かったため澪が7歳の時に他界している。


 澪は下げた頭を起こすとちょっとしょんぼり。家では優しい父である文弥だが公私の区別には煩く、そもそも1964年に設立されて以来名門校として名を馳せてきた学校の運営一族である白鷺家は名家でもあり、礼儀作法は厳しいのだ。それでも「昔に比べれば」とは言われているが…

「まずは今朝の騒動について報告してもらおうか、白鷺君」

「はい」

 澪は今朝のできごとを簡潔に報告した。この件の後、保健室へ行ったことも含めて。

「それで、二人のケンカを止めるために魔導を使った、と」

「はい。申し訳ありません」

「いや、魔導を使ったこと自体には問題はない。捲れ上がったグラウンドの整備もすでに業者に依頼してある。まぁ今日明日は使えんがね。そもそも望陵(うち)は魔導科専門校だ。まだ未成熟な技術である魔導についてのトラブルは多少のことは目を瞑るよう政府(うえ)からもお達しが来ているからね。問題なのは…白鷺君。君の魔導質量指数(AMI)値は1.7ほどだったな」

「はい…さきほど保健室で測って、簡易測定器数値で1.6でした…」

「ふむ。しかし今朝のあれだけの規模の魔導、どう考えても3.0越えレベルだ。何か、心当たりはあるかね?」

「いえ…二人を止めようと薄い砂の仕切りを作ったつもりでしたのに…そもそも私は土要素は苦手としていますのでせいぜいカーテン程度、大した壁にはならないはずなのですが…」

「それがあの規模の魔導になった、と」

「はい…」

 『あの規模の魔導』――――捲れ上がった土はまるで国境線を分ける壁のごとく高々とそびえ立ったのである。

「脱法魔導などを使ったわけではないのだな?」

 ここまで神妙に受け答えしていた澪だったがにわかに表情が厳しくなる。

「当たり前です! 校長先生は…お父様は娘を疑うというのですか⁈」

「実の娘ですら疑わねばならない世の中でもあるのだ。それは分かって欲しい」

「そう、ですか、そうですね。失礼しました」

「分かってくれればいい。それで、昨日君から聞いた話、警察からも報告があってね、立場上そういったものも入ってくるのだが、キミが言っていた懐中電灯のようなもの、おそらくそれは構文歪曲器シンタックスディストーターだ。ディストーターについては知っているね?」

「はい。HR(ホームルーム)でも先生から注意がありましたし、禁忌構文共々、脱法魔導の類については風紀からも全生徒へ向けて注意を促していますから」

「うむ、それでいい。そして君の構文が結べなかったのはそれのせいだ」

「あれがディストーター…」

 澪は昨日の感触を思い出してた。普段何気なく使う魔導。その構文が結べない。掴んだはずのペットボトルを落としたような、そんな不快感。

「問題は、使われたはずのディストーターが、現場で見つからなかったことなんだ」

「え? でも確かに…」

「君を疑っているわけではない。群衆の誰かが持って行ってしまったのかもしれないからね。違法性のあるものだから、警察も躍起になって探しているところだ。今のところの調べでは、犯人はAMI1.6、君と同じくらいには魔導が使える」

「でも私が見たものは2.0以上はありそうな魔導でしたけど。炎を球状にきれいにまとめるなんて1.0台ではおそらく無理…」

「ああ。そこも不可解なのでね、現在も取り調べ中だ。脱法魔導使用の疑いも含めてね」

「そうですか」

「それで、今朝の話に戻して、自分の中で何か変化などは?」

「別に…いえ、構文を組むときに何か胸が温かいようなそんな感じが…」

「ほう。何か心当たりは?」

 ここまで厳しい表情だった文弥が表情を崩す。が。

「いえ、別に。おそらく二人のケンカを間近で見て、穏やかではいられなかったからかと」

「…そうか」

 わずかながら落胆の色が見えた。

「あの、校長先生。天城先輩は…どういった処分を?」

「うむ。自宅謹慎3日間となった」

「3日…軽い…ような」

「魔力制限解除違反のみが問われることとなったからね。実際には魔導が発動してなかったのだから」

「なるほど、それなら。それでもう一人の、あの学ランの人は何者なのですか? 殴り込みにでも来たのでしょうか」

「はっはっは、そんなことはないよ。彼はれっきとした我が校への転校生だ。名を神代大樹(かみしろだいき)という」

「転校生っ⁈」

「ああ、今日付けでね。急遽決まったもので、制服の準備もできていないが、まぁうちの制服には腕を通さないかもしれないがね。少々変わり者だと聞いている」

「まぁ、そうでしょうね」

 澪は昨日のことを思い出し、忌々しそうに顔を背けた。

「ん? 知っているのか?」

「昨日お話した、割り込んできた男の子というのがあの人、です」

「ほほう。そんなところですでに面識があったとはね。で、彼はどうかな?」

 娘のご機嫌を知ってか知らずか、文弥はポケットに手を突っ込みなんだか楽し気に話す。

「どう、とは?」

「我が校は日本でも数少ない魔導科の専門校、しかも真壁先生肝入りの創進会が運営に当たる。君たちのような成長中の若者たちは心身のみならず魔力もまた成長著しい。中でも『恋愛』は人の心を揺さぶる大きな原動力となる。その力で魂がより多く大きく震えるようになれば、魔力はさらに大きく育っていく。それは真壁先生のお墨付きだ。だから、特に我が校においては恋愛は推奨されているのは知っているね? もっとも身体の関係を持ってしまえば魔力の成長は止まってしまうから、それは慎んでもらいたいところではあるがね。それで澪、彼の印象はどうだったかな?」

「印象も何もあんな失礼な人! 私を突き飛ばしたばかりか後のことを押し付けるなんて…おかげでレッスンに行けなかったんですよ⁈」

(何を言ってるの、お父様ったら⁉ だって普通父親って娘に彼氏とかできるのは嫌がるものなんじゃないの⁈ それに私、恋愛とかそういうのは…)

「ハハハ、それは気の毒だったな。そして気の毒ついでに、君にやってもらいたいことがある」

「私にできることでしたら。一体なんでしょう?」

「彼の面倒を見てやってくれ」

「…ハァッ⁈」

 思わず大声になる澪。慌てて口を塞ぐ。

「彼は転校してきたばかりだ。この学校のことを知る由もない。それを学校関係者の子女が世話をするんだ、別におかしなことはないだろ?」

「それは! …そうです、けど…」

「そして放課後、君はここへ来て彼の一日の報告をして欲しい」

 相変わらずのにこやかな様子から命令のようなニュアンスではないらしい。

「見張るということですか?」

「そうとも言うね。今朝のようなことが度々あっては困るだろう?」

「それはそうですが…誰にも秘密に、極秘で、ということでしょうか?」

「そんなことはないよ。別に誰に話しても構わないし、本人に言っても問題ない。私としても身内である娘に頼むのが一番気楽なのだよ」

「そういうことでしたら…まあ…」

 そうは言ったものの納得して請けたわけではないことが澪の顔にありありと浮かぶ。レモンの皮でも齧ったような渋い表情。

「私もここの校長である以前にひとりの父親だ。娘の幸せを誰よりも願っているからね」

 文弥はそう言ってポケットから手を抜くと、掌をそっと前へ差し出した。

「はぁ…」

 ありがたい言葉ではあるものの、「監視すること(それ)」と「娘の幸せ(これ)」とが結びつかず、気の抜けた返事しかできない。

「承知しました。それでは私は教室へ行きますので」

「ああ。それでは放課後にまた会おう」

「はい。失礼します」

 一礼をして澪は校長室を出た。

 間もなく遅れて始まるホームルームの時間。生徒はみな教室へ入っているのか廊下には誰もいない。


バンッ


 壁を叩く音が無人の廊下に響き渡る。

「あー、もうっ! どうして私があんなヤツの世話をしなくちゃいけないよのっ!」

 澪の心の叫びとともに。


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