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魔導学園ラブロジック!-トキメキはチカラ。-  作者: 花塩樹圭
第一章 魔導科どうか?
3/8

とりあえず効かない男。

「おはよう」

「おはようございます」

 さながらインパラの群れの如き活気に漲る人の群れ。朝。そこは高校生たちの通学路。群れは小高い丘の上に建つ学び舎へと向かう。澪もまたその中の一人…なのだが。

(もう最悪…結局レッスンに行けなかったじゃないの…はぁ…来週までにみっちり弾き込まないと…)

 昨日は交番であれやこれやと聞かれるも、ひったくりの輩をノしたのが自分ではないことを理解してもらうのに時間を取られ、結局澪はその日のバイオリンのレッスンを受けることができず、ご機嫌ナナメである。

 その登校中の生徒の流れに逆らい、一人の少女がキョロキョロしながら駆けてきた。少女の名は成瀬陽菜(なるせひな)、1年生。

「あ、いた! せんぱーい! (みお)せんぱーい! 大変でーすっ!」

 彼女は風紀委員会で、澪もまたその一員であった。

「陽菜ちゃん、どうしたの? そんなに慌てて」

「ハァッ ハァッ 大変なんです! 今グランドの真ん中でケンカが始まって!」

「ケンカ? 誰が? 誰と?」

「3年の天城先輩が! 見知らぬ人と!」

「天城先輩が…? それは…マズいわね。急ぎましょう!」

「はいっ!」



 澪が校門をくぐり抜けると陽菜の言った通り、掘り下げになっているグランドの真ん中で対峙する二人の少年の姿。その周りには野次馬の輪が幾重にも重なり取り囲んでいるのが一望できた。

「生意気なんだよ、お前!」

「生意気も何も、オレ、アンタのこと知らんし」

 一人は3年の天城玲司(あまぎれいじ)。その言動と行動から学園内で知らぬ者はいない。もう一人は…

「あの人っ!」

 昨日の少年であった。澪たちの制服は男女ともに紺のブレザーだが、彼は白いTシャツに袖をまくった学ラン姿。この学園の生徒ではないことは火を見るよりも明らかだった。天城の身長より10cmほど高いその少年は、天城が態度のわりに線の細い体つきであることも手伝って、殊の外大きく見えた。

(またこの人ぉっ⁈ なんでうちの学校に? 殴り込みかしら、なんか不良っぽいし。それにしたってよりにもよって天城先輩相手だなんて…とにかく警察沙汰にでもなる前に止めなくちゃ!)

「すみません! 風紀委員です! すみま、ちょっと通してください! 通し てぇ」

 澪は階段状の段差を駆け下り、野次馬の壁を掻き分け最前列へ。

「天城先輩! 何をやってるんですか!」

「ん? 澪か。何って、教えてやってるんだよ。この学園の礼儀ってヤツを。このボク相手にあいさつの一つもできない愚昧の輩にね!」

「何を言ってるんですか! そこのあなたも! 殴り込みのつもりだったら今すぐ帰った方がいいです! あなたの目の前の人は一筋縄ではいかない相手なんですよ⁈ 天城先輩は魔術士の血筋で」

「知るかよそんなん! 殴り込みなんかじゃねぇし。用があってここに来たんだけどよぉ、変なモンに絡まれちまってな。コイツに味方すんなら一緒にぶっ飛ばすぞ、委員長!」

「なっ⁈ ぶっ飛ばすって…それに私、委員長じゃありませんっ! 勝手に決めないでください!」

「委員長っぽいから委員長でいいだろが」

「そんないい加減な!」

「な、澪。言ったろう? こういう礼儀知らずには体でわからせないとダメなのさ! 要素は雷! 我が戒めの楔よ、無礼なる者の身に刻まれよ! 【雷戒ノ楔(らいかいのくさび)】!」

「危な」


ピシッ


 澪の叫びよりも先に、空中ににわかに発生した小さな稲妻が、文字通り光の速さで学ランの少年を目指す。しかし。

「ん? なんだ今の? なんかパチッと来たか?」

「な…何だと…」

 確かに稲妻は命中…したかのように見えたが、少年の頭上でそれは霧散した。天城の驚きをヨソに少年はケロッとしている。

(また? そんなわけが…いくら先輩が手加減したっていったって…)

「バカな⁈ コンセントの電流よりは強いんだぞ⁈ …もう一度! 要素は雷! 我が警告の槍よ、愚かなる者を貫きて悟らせよ! 【雷罰ノ槍(らいばつのやり)】!」

「ダメっ! 先輩、それはっ!」


カッ


 再び、しかし先ほどとは比べ物にならないほどの稲妻が走る。青白い光と同時に発生した衝撃波が野次馬の輪を駆け抜け、その威力の大きさを物語る。

「うほぉツっ⁈」

 しかし稲妻はまたしても学ランの少年の頭上で消えた。その彼はまるでドアノブを掴んだら静電気が走った!みたいな表情。それなりに痛かったのではあろうが、一方の天城、目指した結果とは違ったのか、その顔に驚きと悔しさをにじませている。

「バカな…構文の構築は完璧なハズだ…魔導防壁か? いやアイツは構文を詠んでいない…まさかパッシブで???」

(違う…防壁も障壁も展開してない…なのに何も効いてないなんて。昨日もそうだった。何なの、この人…殴り込みに来た不良じゃないの…?)

「何だよ今のっ⁈ っつぅ… よぅ。オレは平和主義者なんだが、売られたケンカは即買うぜ。何やってくれたんだか知らねぇが、手を出したのはそっちだかんなっ! 舌噛まねぇように歯ァ食いしばれっ! っラァッ!」

 学ランの少年は目にも止まらぬ速さで天城に接近したかと思えば


バキィッ


 その顔面へ右ストレートを一発。

「ガァッ⁈」

 その体格差からやや振り下ろしになるものの、華奢な天城は軽々と吹っ飛んだ。

「なんだ、威勢のいいこと言う割にゃ全然大したことねぇな」

「クッ…大したことない、だとぉ…?」

 仰向けにノされた天城は歯ぎしりをしながらゆらりと立ち上がる。

「ボクの魔導が効かない…? そんなことがあるわけが…ククク…面白い、面白いなキミは…クソォ… でも…それなら遠慮は要らないな。ヒト相手にこんな魔導使えるなんて、ボクは運がいい。後悔するなよッ! 魔力制限解除ッ!」

「やべぇぞ⁈」

「天城の奴、本気(マジ)だぞ!」

「やべぇ! 逃げろ!」

 天城の言葉に野次馬の輪は一気に崩れ、蜘蛛の子を散らすように離れていった。が、澪と数人の生徒――――風紀のメンバーはそこに残っていた。澪が叫ぶ。

「天城先輩っ! 制限解除は校則違反ですっ! 停学じゃ済みませんよっ!」

「知ったことか! オマエも逃げた方がいいぞ。ボクは本気で撃つ! 雷を主要素に闇をレイヤー! 我が血脈に刻まれし魔力よ、いま解き放たれよ! 標的は目の前の無礼者! 裁きの鉄槌、降臨し彼の者を叩き潰せ! 【雷闇ノ鉄槌(らいあんのてっつい)】!」

「まだヤん気かよッ! そんならもう一発ブン殴っておいてやらァッ!」

 大地を蹴った学ランの少年は右手を前に翳す天城へ一直線に。

(マズい! 指揮棒(タクト)は…カバンの中!? 間に合わない! えと、これで! 二人を一拍で止める!)

 澪は胸ポケットから取り出したボールペンを、縮まっていく二人の空間へ指揮棒のように指し向け、そして息を整え壮麗に――――

「土を要素に。争う二人の間へ――静かなる隔ての壁を。【隔壁の休符(パウザ)】!」

「ナゼだ? なぜ発動しない…? 構文が揺らいでいる…だと?」

 驚愕している天城をヨソに


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 足元が揺らぎグランドの大地が次々とひび割れていく。澪の仕業…ではあるのだが。

「…えぇぇぇぇぇっ?」

 当の本人には意図せぬ結果だったらしい――――



 20××年。人類はその進化の歴史に新たなページを刻み始めた。

 真壁 悠一(まかべ ゆういち)(日本)、エリオット・H・バーンズ(アメリカ)、ソレン・リンドホルム(デンマーク)。セントグレイシャー大学における3氏の共同研究『魂について』が、ノーベル生理学医学賞、物理学賞の2部門を獲得するという史上初の快挙を成し遂げた。曰く、『魂とは、ヒトの中にある生命力と、それを司る本能とで成り立つ』『本能を理性で制御し、生命力を意思の支配下に置くと物理的制御が可能になる』、と。3氏の共著『Why do babies cry?(赤ちゃんはなぜ泣くのか?)』は日本語・英語・デンマーク語に翻訳され出版されるや否や、お堅く難しい内容であるにもかかわらずベストセラーに。追って各国語に翻訳され世界的ベストセラー書籍となった。

 『Why do babies cry?(赤ちゃんはなぜ泣くのか?)』ではこのように述べている。

「赤ん坊は初めてこの世界に出てきた時、自分の体の大きさに比べて生命力が大きいことに驚き、泣くのだ。」

 生命力とは、例えれば車のエンジンのようなものだ。だがそれはタイヤとは直結しているものの、その出力はエンジン任せとなっていた。しかしアクセルペダルやハンドルを追加することで――――理性によって生命力を制御することによって、ヒトが自然に関わり、それを利用する力、すなわち古来より『魔力』と呼ばれてきたものに変わるのである。

 魔力が科学的に定義されることでこの分野の研究が世界中で急速に進み、それを利用する技術『魔導』が開発されていく。新しい技術は当然の如く戦争に利用されるが、魔導もまたその例外ではない。しかし――――魔導の利用は他と大きくその道を(たが)えた。電子技術では成し得なかった、ドローンの接近探知とその駆除。魔導の技術を身につけた兵士たちの活躍により戦場のドローンは次々と感知・破壊され、被害は急激にかつ大幅に減ることとなった。少なくともドローン登場の以前ほどまでには。ドローンが使えなくなることで通常兵器による戦闘へとシフトした戦場では戦費が嵩む。結果的に戦線が縮小され、戦闘行為そのものが減っていくことになった。

 W受賞から3年後、真壁、バーンズ、リンドホルムの3氏はストックホルムのレッドカーペットへ呼ばれた。ノーベル平和賞の受賞である。無論それは戦場での死傷者を減らすこととなった技術の基礎研究、その平和的成果を称賛されてのことであった。

 体力、知力に続き、人類の新たな力として注目される魔力。各国ともその力を持つ若者の育成に鎬を削るようになる。日本も例外ではなく、「魔導法」の制定とそれに基づく教育機関が設置され、高等教育の場に「魔導科」が導入された。憲法に保証される「教育の自由」の建前上、その門戸を叩くことは誰もができるが、厳格な国際規格「魔導質量指数=AMI Range(Arcane Mass Index)」による「(ふるい)」に掛けられ、結果的に魔導エリート養成所となっているのが現実だ。


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