選ばれる理由
翌日。
軽くノックをした後、ミズキが部屋に入ってきて言った。
「今日は、面談がある。」
部屋を出ると、すでに一哉が廊下に立っていた。
制服ではない。
ここで支給された、簡素な服。
「おはよ。」
一哉は、いつも通りの声だった。
俺たちは別々の部屋に通された。
面談室、と呼ばれていた場所。
俺の部屋には、白い机と椅子が一つずつ。
端末が置かれているだけだ。
質問は、淡々としていた。
睡眠時間。
生活リズム。
規則に対する認識。
行う仕事内容。
能力については、ほとんど触れられない。
「今後も、指示には従えますか?」
「はい。」
それで終わった。
部屋を出ると、隣の面談室の扉の中央に嵌め込まれたガラス越しに、
一哉が誰かと話しているのが見えた。
昨日、説明をしてくれた男とは別の、
年配の男とスーツ姿の女。
一哉は椅子に座っている。
机の上には、紙の資料が置かれていた。
「適性が高い。」
そんな言葉が、かすかに聞こえた。
俺は、その場を通り過ぎただけだった。
昼前。
ミズキが俺を呼び止める。
「一哉の運用適性、もう出た。」
「早くない?」
「こういうのは、早い。」
それだけだった。
昼食の時間。
「外部活動の話、された。」
食堂で、一哉が言った。
「まだ確定じゃないけどさ。
外の人と会う仕事もあるらしい。」
外。
その言葉が、やけに遠く聞こえた。
「能力ないのに?」
俺が言うと、一哉は苦笑した。
「俺もそう思って質問したよ。」
「そしたらさ」
一哉は、少し考えてから続ける。
「能力がないからなんだって。」
「……どういう意味だよ。」
「扱いやすい、って。」
一哉は、冗談みたいに言った。
深刻に受け取らせないための言い方だと、すぐ分かった。
その日の午後、
俺は倉庫の整理を任された。
危険性のない作業。
能力の使用は禁止。
一方で、一哉は会議室に入っていく。
職員に挟まれるように。
同じ施設。
同じA区画。
なのに、
進む線が、はっきり分かれている。
夕方、ミズキに呼ばれた。
「一哉の運用判断が一段落したから。」
そう前置きしてから、ミズキは言う。
「質問があるなら、今。
答えられる範囲だけだけど。」
俺は少しだけ考えてから言った。
「一哉は、なんで外に出られる話が出てるんだ?」
ミズキは、すぐには答えなかった。
「彼は、制度に向いているから。」
「それは能力がないから?」
「それも理由の一つ。」
ミズキは続ける。
「この判断は、私たちじゃない。」
「……じゃあ誰が?」
一拍、間。
「この組織の上位管理。」
それだけだった。
「キキョウ、って名前。」
ミズキが、初めて口にした。
「最終判断をする人。」
「人?」
「肩書き上は人。
でも、キキョウ個人の意思で
動いているわけじゃない。」
ミズキは、少し間を置いた。
「能力があるかどうかより、
どう扱えるかを見てる。」
そこで、話が繋がった。
「だから――」
「一哉は、能力者として
ここに来たわけじゃない。」
胸の奥が、わずかに沈む。
「ただ、巻き込まれただけ。」
「でも、巻き込まれた時点で、
評価の外にはいられなくなる。」
淡々とした声だった。
「消すか。
隔離するか。
それとも、管理下に置くか。」
「その判断をするために、
まず“見られる”。」
俺は、ゆっくり息を吐いた。
「……たまたま来ただけ、
ってわけじゃなかったんだな。」
ミズキは、否定しなかった。
「偶然ここに来た。
でも、偶然のままでは
いさせてもらえなかった。」
「今、上がやっているのは、
結論を出す作業じゃない。」
俺は眉をひそめた。
「……じゃあ、何を?」
「排除するかどうかは、もう一段あと。」
「まず、
排除しない前提で残した場合、
どう扱えるかを見る。」
胸の奥が、わずかにざわつく。
「君の行動。
一哉の評価。
それぞれを並べて、どこに置けるかを比べてる。」
「単独で見るんじゃない。
配置したときに、
問題が起きないかを見る。」
その一言で、ようやく繋がった。
「外に出せるのか。
中で使うのか。
それとも、しばらく保留か。」
淡々とした説明だった。
「つまり今は、
切るかどうかじゃなくて――
使い道を決める前の段階。」
俺は、ようやく理解した。
「……選別、か。」
「そう。」
ミズキは短く頷いた。
それ以上、説明はなかった。
守られているわけじゃない。
ただ、
選ばれている。
それが、
この場所での俺の立場だった。




