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悠く、生きる


朝。


A区画の照明は、今日も同じ明るさだった。

昨日と変わらない。

何かが劇的に変わった様子はない。


悠馬は、倉庫へ向かう。


棚。

番号。

いつもと同じ作業。


体は慣れている。

頭も、もう混乱しない。


――ここに残る。


それは、諦めじゃなかった。


作業の合間、端末の表示が一つ更新される。

名前は出ない。

告知もない。


ただ、

「判断保留」の項目が、静かに固定された。


期限なし。

再評価予定、未定。


それだけだった。


昼休み。

通路の端で、ミズキとすれ違う。


「……変わったことは?」


業務的な声。


「特に。」


悠馬は答える。


「でも、

 変わらないこと自体が、

 もう結果なんだろ。」


ミズキは、一瞬だけ足を止めた。


「そう思えるなら、

 君はもう“対象”じゃない。」


「……じゃあ、何だ?」


少し考えてから、ミズキは言う。


「制度の中で、

 制度に使われない存在。」


皮肉でも、冗談でもない。


「それ、

 他にも広がるのか?」


悠馬が聞く。


ミズキは、はっきり答えた。


「無理。」


即答だった。


「制御できない人には、

 広げられない。」


「能力を使わずにいられる人。

 判断を刺激しない人。

 それだけ。」


「だから――」


「全部は、救えない。」


その言葉は、

残酷でもあり、誠実でもあった。


「でも、」


ミズキは続ける。


「“ここで生きられる人”は、

 確実に増える。」


悠馬は、ゆっくり頷いた。


倉庫に戻る。


棚の並びを確認し、

箱を持ち、

所定の位置に戻す。


速くはない。

派手でもない。


でも、

誰にも止められない。


作業を終え、部屋に戻る。

鍵の音は、しない。


ベッドに腰を下ろす。


外に出れば、

自由になれるわけじゃない。


ここに残れば、

守られるわけでもない。


それでも。


判断されないまま、

今日を終えられる。


それは、

かつて望んでいた「普通」とは違う。


でも――


今の自分が選んだ、生き方だった。


遠くで、作業終了の合図が鳴る。


悠馬は、立ち上がる。


走らない。

使わない。


ただ、

ここで生きる。


速くではなく、

悠く。


世界は、救われない。


制度も、壊れない。


でも、

同じ形では、続かなくなった。


その隙間に、

確かに居場所ができた。


それで、十分だった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


本作は、連載を始める前から

「どこで終わるか」「何を描き切るか」を決めたうえで書いてきました。

そのため、こうして最後までお届けできたことを嬉しく思っています。


連載中は、

一話ごとの読みやすさや、次を読みたくなる引きを意識しながら調整していました。

読んでくださった皆さんの存在が、大きな支えでした。


なお、次回作はすでに準備が整っており、

【2月7日】より新しい連載を開始する予定です。

次は、よりテンポや構成を意識した作品になると思います。


もし本作を

「最後まで安心して読めた」

と感じていただけたなら、

次回作もぜひ覗いてもらえると嬉しいです。

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