判断が来ない場所
外周確認は、定期業務だ。
施設の敷地境界。
監視範囲の外縁。
「問題が起きやすい場所」ではない。
「問題が起きていないことを確認する場所」。
私はこのルートを、何度も歩いている。
今日が初めてじゃない。
彼の姿も、もう見慣れていた。
未登録者は、私を見ると小さく息を吐いた。
「また確認か。」
「業務だから。」
それ以上の説明はいらない。
私は端末を操作しながら、彼を見る。
体調に変化はない。
周囲に不審な痕跡もない。
能力使用の反応も、検出されない。
いつも通りだ。
「……聞くけど。」
私が口を開く。
「どうして、もっと遠くへ行かないの?」
彼は、すぐに答えなかった。
少し考えてから、はっきり言う。
「遠くに行くと、
“未確認”になる。」
私は、動きを止めない。
「未確認は、
必ず“確認対象”になる。」
「確認されると、
判断が始まる。」
判断。
この施設で、
すべてが切り替わる言葉。
「ここは違う。」
彼は、施設の方向を顎で示した。
「ここは、
すでに見られてる場所だ。」
「見られてるから、
新しく確認されない。」
私は、その言い方を頭の中で反芻する。
「じゃあ、
施設の中に戻れば?」
そう聞くと、
彼は即座に首を振った。
「中に入ったら、
配置される。」
「配置されたら、
評価が進む。」
「評価が進めば、
次が来る。」
次。
処理か、運用か。
どちらにせよ、
“判断が止まる”ことはない。
「だから、ここだ。」
彼は言う。
「中でも外でもない。」
「判断が来ない、
一番端の場所。」
私は、端末に視線を落とす。
画面には、いつもと同じ表示。
《異常なし》
「能力は?」
私が聞くと、
彼は苦笑した。
「使わない。」
「正確には、
使えない。」
「使った瞬間、
“別の扱い”に切り替わるからな。」
「処理か、
回収か。」
淡々とした言い方だった。
「怖くない?」
そう聞くと、
彼は少しだけ間を置いて答えた。
「怖い。」
「でも、
判断が来ないほうが、
ずっとマシだ。」
私は、言葉を選ぶ。
「……じゃあ、
ここで生き続けるつもり?」
彼は、首を横に振った。
「生き続ける、じゃない。」
「判断が来るまで、
ここにいる。」
「それが、
今できる唯一の選択だ。」
一拍、間が空く。
「ただ」
彼は続けた。
「これが、
偶然じゃないことは分かってきた。」
私は顔を上げる。
「条件が、ある。」
その言葉に、
意識が集中する。
「動かないこと。」
「能力を使わないこと。」
「誰とも線をつながないこと。」
「そして――」
彼は、足元を指す。
「施設の、すぐ外にいること。」
「遠すぎてもダメ。」
「近すぎてもダメ。」
「中でも外でもない位置。」
「だから、
判断が止まる。」
私は、その一言一句を覚える。
「誰かに、教わった?」
そう聞くと、
彼は首を振った。
「違う。」
「残っただけだ。」
それ以上、
彼は何も言わなかった。
私は確認を終える。
端末に記録を残す。
《外周滞留者
行動変化なし
能力使用なし》
事実だけだ。
施設へ戻りながら、
私は理解する。
悠馬が知りたがっていたのは、
自由じゃない。
逃げ道でもない。
判断されない状態を、
意図的に作れるかどうか。
そして、それは――
偶然ではなかった。
条件は、存在している。
私は歩く。
この報告は、そのまま上げる。
あとは、
悠馬がどう考えるかだ。




