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処理という正しさ


朝。


廊下の空気が、少しだけ違っていた。


照明の明るさも、

足音の反響も、

昨日と同じだ。


それでも、

何かが一段進んだ気がした。


作業に向かう途中、

通路の先で人の流れが止まっている。


職員たちが、

円を描くように立っていた。


中心にいるのは、一人の能力者。


見覚えがある。

同じA区画で、何度かすれ違った人間だ。


暴れてはいない。

拘束もされていない。


ただ、視線だけが落ち着かない。


職員の一人が、淡々と告げる。


「対象番号、確認。」


番号だけ。


名前は呼ばれない。


周囲の職員は距離を詰めない。

触れもしない。


進む方向だけが、

静かに限定されていく。


「こちらです。」


それだけで、

能力者は歩き出した。


通路の奥にある、

少しだけ分厚い扉。


特別な表示はない。

警告もない。


扉の横の表示が、短く切り替わる。


《処理室》


能力者は、立ち止まらなかった。


振り返らず、

そのまま中へ進む。


扉は、音もなく閉まった。


数秒後、

表示が変わる。


《処理済》


俺は、その場を動けなかった。


少し後ろに、ミズキが立っている。


「……なんで処理されたんだ?」


俺が言うと、

ミズキは小さく頷いた。


「必要が、なかったから。」


「危険だったのか?」


ミズキは、首を横に振る。


「違う。」


「じゃあ……なんで?」


ミズキは、少しだけ言葉を選んでから答えた。


「この人は、もう判断が終わってた。」


判断。


その一言で、

空気の重さが変わる。


「あの人は配置がなく、保留だった。」


ミズキは続ける。


「保留のまま置く意味がなくなったときだけこうなる。」


「……全員が、そうなるわけじゃない?」


俺が聞くと、

ミズキははっきり頷いた。


「同じ保留でも、

 次の段階は人によって違う。」


「この人は、

 “ここまで”だった。」


それ以上は、言わなかった。


作業指示は、いつも通りだった。


倉庫。

軽作業。

能力使用は禁止。


同じA区画。


ただ、

一人分の空白ができた。


昨日まで、

そこにいたはずの人間の分だけ。


誰も、その穴を話題にしない。


昼休み。


一哉はいなかった。


外部対応の準備で、

今日は施設に戻らないらしい。


「そういう日もある。」


職員は、それだけ言った。


午後。


倉庫で作業をしながら、

俺は考えていた。


逃げなかった。

従ってもいない。


それでも、

ここにいる限り、

判断は続く。


危険だから、ではない。

暴れたから、でもない。


「判断が終わったかどうか。」


それだけで、

行き先が決まる。


夜。


部屋に戻る。


鍵の音は、しない。


ベッドに腰を下ろし、

天井を見る。


俺は、まだ保留だ。


判断は、終わっていない。


それが、

今は守りになっている。


同時に、

いつか終わるという意味でもある。


処理は、悪じゃない。


そう言える世界で、

俺は、

どこまで“保留”でいられるのか。


答えは、まだ出ていなかった。

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