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評価更新


施設に戻ると、

ミズキは立ち止まらなかった。


「そのまま、来て。」


声は低い。

予定外じゃない。

ただ、順番が回ってきただけの言い方だった。


廊下を曲がり、

会議室に入る。


白い机。

椅子が三つ。


端末が一台、中央に置かれている。


年配の男が、すでに座っていた。

記録係の職員も一人いる。


ミズキは、俺の少し後ろに立った。


「白石悠馬くん。」


名前を呼ばれる。


「評価の更新を行う。」


更新。

その言葉が、妙に現実味を帯びて聞こえた。


男は端末を操作する。


画面に、数値と履歴が並ぶ。


「能力使用履歴――二件。」


胸の奥が、わずかに動く。


「一件目。施設外。」


「反射的使用。高負荷。他者同伴。」


逃走時。

親友を引いた、あの瞬間。


「二件目。施設内。」


「低負荷。即時停止。自発性なし。」


棚から物が落ちそうになった、

あの一瞬。


「どちらも、

 意図的な能力使用ではない。」


淡々とした声だった。


「逸脱行動、なし。」


「規則違反、なし。」


「周囲への被害、なし。」


評価としては、

悪くないはずだった。


だが――


「自己抑制は高い。」


「しかし、

 制御は完全ではない。」


男は、少しだけ間を置く。


「反射で出る能力は、

 扱いが難しい。」


処理するほどではない。

だが、使うには怖い。


その判断が、

言葉にされる。


「よって――」


端末を閉じる。


「現時点で、

 君を運用に回すことはできない。」


胸の奥が、静かに沈んだ。


「処理対象でもない。」


そこは、はっきり言った。


「だが、

 配置対象としても確定できない。」


「評価は、保留。」


その言葉だけが残る。


ミズキが、わずかに視線を動かす。


男は、続けた。


「誤解しているようだから、

 一つだけ補足しておこう。」


端末から視線を上げる。


「君に与えた仕事と生活――

 あれは“配置”ではない。」


一拍。


「テストだ。」


即答だった。


「能力を使わない仕事を任せたのは、

 君を安全な場所に置くためじゃない。」


「使わずにいられるか。

 使わずに済む判断を、

 選び続けられるか。」


「それを見るためだ。」


倉庫。

棚。

落下。


「単純作業は、

 事故が起きやすい。」


「同時に、

 能力が反射で出やすい。」


「実際、君は一度、出した。」


責める口調ではなかった。


「発動は確認した。

 だが、暴走はしていない。

 そこは評価している。」


「だが――」


男は、静かに言う。


「君は“出さない”ことを

 選んだわけじゃない。」


「出たあとで、止めただけだ。」


その線引きは、

はっきりしていた。


「だから我々は、

 君を信用していない。」


率直すぎる言葉だった。


「処理するほど危険ではない。」


「しかし、

 使うには少し怖い。」


「よって、

 能力を必要としない仕事を与えた。」


「それは信頼の結果ではない。」


一瞬、間。


「不確定要素を、

 観測するためだ。」


椅子にもたれる。


「君は今、

 “何もしないでいられるか”を

 試されている。」


「逃げず、

 従わず、

 それでも逸脱しない。」


「その状態を、

 どれだけ保てるか。」


画面が暗くなる。


「それが、

 今の君に与えられた唯一の役割だ。」


面談は、そこで終わった。


廊下に出る。


ミズキが、隣を歩く。


「……言われたね。」


「うん。」


「きつい?」


少し考えてから、答える。


「分かりやすくなった。」


ミズキは、何も言わなかった。


倉庫へ戻る。


同じ棚。

同じ通路。


でも、

もう意味が違う。


俺は働いているんじゃない。


見られている。


能力を出すか。

出さないか。


逃げるか。

従うか。


どちらも選ばずに、

どこまで立っていられるか。


逃げた未登録者は、

判断を終えられた。


一哉は、

使える側に置かれた。


俺は――


まだ、決められていない。


それだけが、

今の立場だった。

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