B昇格のご報告
ユイさんとの飲み会の翌日……
矢場沢さんは宣言通り、豪華なお弁当を持ってきてくれました。
「凄いですね!お重のお弁当は初めて見ました!」
重箱にはギッシリとオカズが詰まっているのではなく、
色とりどりに美しく飾られておりました。
オカズが綺麗に小分けにされています。
「おお!凄く綺麗ですね」
「はい。二人で食べるならこの方がいいかなって、いっぱい入れるよりもお祝いらしく綺麗にしようと思って、御祝重弁当です」
色合いを考えてくれたのがよく分かります。
「えっ?これはタケノコの煮付けですか?」
「はい。みやこ姉さんに教えてもらったんです」
カマボコやオクラ、エビのうま煮など、保存が利いて豪華なだけでなく色鮮やかで見た目が凄く綺麗です。
お正月のお節料理を頂いているようです。
「あと、三色そぼろご飯です」
桜デンプに卵、挽肉が甘辛く味付けされて、どれも絶品の品々です。
「最後にスープは赤だしに半熟卵と豆腐、三つ葉を浮かべています」
うわ~矢場沢さんの料理が私の心を鷲掴みにしますね。
これだけ豪華な料理は、高級店のお弁当でしか食べられないと思います。
「凄かったですね!」
感想が陳腐になってしまいます。
それだけ言葉を失うほど美味しかったのです。
「ふふ、改めて冒険者の昇格試験?合格おめでとうございます」
「ありがとうございます!自分でもここまで続くとは思っていませんでした。なんでもやってみるものですね」
「そうですね。ミズモチさんも喜んでいるんじゃないですか?」
「そうだと嬉しいです。最初は、ダンジョンに行った翌日は全身筋肉痛で泣きましたからね」
「そうだったんですね」
矢場沢さんは、最近ギャルメイクを少し控え目にされるようになりました。
化粧は時間がかかると聞いたことがあります。
私のお弁当を作ってくれるせいで、メイクが出来ないのでしょうか?
「阿部さんは、昨日来た人には名前で呼ばれているんですね」
「えっ?あっ、はい。冒険者仲間の人たちには、名前で呼んでくれる人がいますよ」
ユイさん、シズカさん、ハルカさん。
三人は私を名前で呼んでくれています。
「あの、私もヒデオさんって呼んでもいいですか?」
「えっ?私を名前で呼んでくれるんですか?」
会社でそれはどうなのだろうか?
「あっ、もちろん会社では呼びません。
スーパーで会ったときとか、一緒にご飯に行ったときだけです」
「ああ、それなら全然いいですよ。嬉しいぐらいです。
私もカオリさんと呼んでも?」
「もちろんです!」
「はは、なんだか前よりも仲良くなれた気がしますね」
「そうですね!今日もお粗末様でした!」
そそくさとお重を直してしまった。
お粗末ではなくて、凄く豪華でしたよ!
矢場沢さんは、洗い場に行ってしまいました。
矢場沢さんは可愛くて、とても素敵な人ですね。
普段の会社生活が始まってしまうと、有給を取ったこともあり、仕事が立て込んでしまいます。
なかなか週末に入ってもダンジョンにいけないので、やっぱりここに来てしまうんですね。
「ミズモチさん、最近のご近所ダンジョンさんは、危険な気配がぷんぷんです。十分に注意して行きましょう」
【ミズモチさん】《ヒデ~ゴハン~》
「う~ん、こちらがご飯にされそうでちょっと怖いですね」
入り口だけで終わりたいですが、ミズモチさんがやる気に満ちているので頑張るしかありません。
「ミズモチさん、そんなに奥へ行っても大丈夫ですか?」
私がビビりながら進んでいると、ミズモチさんがボス部屋の扉に近づいていきます。
「あれはボスさんだったんでしょうか?」
お着替えをしていた白鬼乙女さん
白い肌にとても美しい鬼でした。
「ふぅ、何を言っているんでしょうね」
危機察知さんが反応しました。
振り返った先には灰色ホブゴブリンが立っていました。
その手には見たこともない武器を持っています。
「あれは何でしょうか?」
中央に柄があり、尖った部分は槍の刃に見えます。
「初めて見る武器です。ミズモチさん、十分に注意してください」
【ミズモチさん】《ヒデ~マカセテ~》
「えっ?」
ミズモチさんが自ら前にでました。
灰色ホブゴブリンとミズモチさんが向き合えば、どうしてもミズモチさんが小さく見えてしまいます。
「ミズモチさん?」
ですが、ミズモチさんは全く物怖じしていないのです。
私の心に伝わるミズモチさんは、
むしろ…………
楽しんでいるようです。
【ミズモチさん】《ヒデ~イクよ~》
そう言って灰色ホブゴブリンへ高速タックルを始めるミズモチさん。
それは今まで見たこともないほど速くて、私では目で追うことすらできません。
「えええ!!!そんなこと出来たんですか?」
「ぎぎぎ!ぎぎ、ぐぐぐぐぎ!!!!」
えっ?灰色ホブゴブリンが、何か言葉に近いことを言ったような気がします。
【ミズモチさん】《ヒデ~テツダッテ~》
はっ!私は何をしていたのでしょうか?
私たちは二人で一人前でした。
「わかりました。ミズモチさん、ローリングアイスカッター!」
高速で動きながら身体を回転させるミズモチさんから、氷の刃が放出される。丸鋸が飛んでるみたいです。
「ぐっ!ぎぎぎぎ!」
「刺突!」
――ガキン!
黒杖さんが灰色ホブゴブリンの武器に弾かれました。
「なっ!」
「ぎぎぎ!」
「ライト!」
「ぐっ!ぎぎぎい!!!」
灰色ホブゴブリンに対して、目の前で私の頭が発光しました。
「ミズモチさん、アイススピアー!私も、アベフラッシュビーム」
目を痛めて苦しむ灰色ゴブリンに、ミズモチさんが背後から、私が正面から魔法を放ちます。
「ぎぎえ!!!」
「トドメです!刺突!」
弱った顔面に黒杖さんを突き入れて決着です。
魔法を放っても倒すことが出来ませんでした。
相手が強くなっています。
おや!レベルアップ音がなりましたね。
「それにドロップ品ですか」
不思議な武器を落として行った灰色ホブゴブリンは強敵でした。
もしも、ミズモチさんが好戦的でなければ危なかったかもしれませんね。
「やっぱりここに来るのは緊張しますね」
ご近所ダンジョンさんを退出して伸びをしていると危機察知が発動しました。
「えっ?」
気付いたときには白鬼乙女さんが巫女さん衣装を着て立っておられました。
真っ赤な瞳が私を見下ろし、私が持っていた灰色ゴブリンのドロップアイテムを強奪して去って行かれました。
「えっ?えっ?なんだったんでしょうか?」
去って行かれた後には、金色の杖が落ちていました。
「杖?ですよね?」
なんだったのでしょうか?




