筋肉痛で動けません
私……年甲斐もなく張り切ってしまいました。
全身が筋肉痛で動けません。
昨日は水野さんと一緒にパワーヨガというハードなトレーニングを行いました。
水野さんって、スタイルがいいんですね。
着痩せするタイプでした。脱ぐと凄かったです!
私は見ないように表情を引き締めるのに必死で、トレーニング辛すぎました。
某有名筋肉芸人さんソックリなトレーナーさんは笑顔で運動をしていたので化け物ですね。
とにかく運動がハード過ぎました。
女性であり、冒険者ではない水野さんが、私を気遣ってくれているのがわかってしまうのです。
そのため途中で止めることもできません。
チラチラと視線を感じるのです。
きっと情けない私を心配しているのでしょう。
女性に心配されて張り切らない男はいませんよね。
まったく休むことが出来なかったです。
正直、キツくて弱音を吐きたかったのです。
男とは悲しい生き物ですね。見栄を張ってしまったのです。
綺麗な女性に見られていると思うだけで、いつも以上に力が出てしまい、やり遂げなければならないという使命感に駆り立てられてしまいました。
自身の回復(極小)が発動しているのにも関わらず、朝起きると動けなくなっていたんです。
情けないのですが、なんとかスマホを取りました。
「すみません。矢場沢さん。本日は不調のため、お休みさせてください。あっ、大丈夫です。
はい、熱とかではないです。例の流行病ではありません。はい。ちょっと冒険者の仕事を頑張り過ぎたといいますか、身体を使うことをしたので、身体の痛みがひどくて、あっはい。ありがとうございます。
すみません。本日は……はい。はい。大切な案件は本日ありませんので、よろしくお願いします」
矢場沢さんに休みを伝えられたので、本日はゆっくりとして身体を休めることにします。
【ミズモチ】《アベ〜》
「ミズモチさん。すみません。本日は動けないので、あちらの黒糖パンを食べてくれますか?私は少し眠ります」
【ミズモチ】《アベ〜だいじょ~ぶ~》
「心配ありがとうございます」
ミズモチさんがパンを食べるのではなく、私の側にきてそっと寄り添ってくれました。
プルプルボディーがひんやりと気持ちよくて、私は布団の暖かさと、ミズモチさんの冷たさが心地よくて、いつの間にか眠りについていました。
――ピンポーン
はっ!あまりにも気持ちよかったので寝過ぎました。
日頃の疲れも溜まっていたせいですね。
窓の外はすっかり暗くなっています。
ミズモチさんは、ずっと一緒に側にいてくれたようです。パンの袋がそのまま置かれていました。
自分の身体を確認してみると、朝よりかは幾分マシな状態になっていたので、チャイムに応えることにしました。
「は~い。今行きます」
それでも身体の痛みとはなかなか取れないものですね。
動こうとすると、身体の節々が凄く痛いのです。
軋むと言えばいいのか、腰も足も首も……痛くないところがありません。
「今開けます」
なんとか玄関に辿りついて、鍵を開けました。
扉を開くと矢場沢さんが立っておられました。
「矢場沢さん?」
「すみません。来てしまいました。体調大丈夫ですか?」
「ふぇっ?」
「阿部さんが冒険者の仕事を頑張り過ぎて、身体が動けないって…… 凄く心配で…… ご迷惑なのはわかってはいるんですけど。様子が気になって、定時で会社を切り上げてきてしまいました」
息を切らせて早口で話す矢場沢さんは……
本当にいい人ですね。
「ありがとうございます!!!よかったら、上がってください。オジサンとミズモチさんの二人で暮らしているむさ苦しいところではありますが……
寒空の中を来てくれたんです。お茶でも飲んで行ってください」
「ふふ、ありがとうございます。それではお邪魔します」
私は布団を引きっぱなしだったことを失念しておりました。
ミズモチさんに退いて頂いて、布団を簡単に畳みます。
いつもは押し入れに入れておくのですが、さすがにドタバタとしてホコリが舞ってしまうのはダメですね。
「あっあの」
「はい?」
矢場沢さんは私がドタバタしている姿を見て、声をかけてくれました。
「身体動かすの辛いと思うので、本日は私に料理を作らせて貰えないですか?」
「ふぇ?」
「材料を買ってきたんです」
「そっ、そんなの悪いですよ」
「病人さんは、休むのが仕事です。思っていたよりも顔色は悪くないので食欲はありますか?」
「あ~確かに、朝から何も食べていないので……」
「なら、しばらくお待ちください」
「あっ、はい」
私は矢場沢さんの押しにそのまま流されてしまいました。夕食を作って頂くことになりました。
ミズモチさんは我慢が出来なかったようで、朝から置いてある黒糖パンを食べておられます。
私の看病のために我慢していてくれたんですね。
ミズモチさんありがとうございます。
「お待たせしました」
矢場沢さんが作ってくれている間に、布団を片付けて、身支度を調えました。
多少は綺麗になった我が身と服装で、夕食を矢場沢さんと頂きます。
「これは?」
「みぞれ鍋です。消化が良いお鍋なんですよ」
鶏もも肉や巾着が入っていて、その上から大根おろしが大量に乗せられて、具材が見えなくなっています。
「ふぇ~私食べるの初めてです」
「結構ヘルシーで美味しいんです」
「頂きます。あっ、矢場沢さんお酒飲みますか?ありますよ」
「いえ、今日は阿部さんが不調ですからね。やめておきます。今度、何か飲みに行きましょう」
こちらのことまで気遣ってくれるなんて嬉しいです。
それに……
「ミズモチさんは熱々はダメでしたよね。こちらに取り置きしていますよ」
矢場沢さんは、ミズモチさんようにミニお鍋まで買ってきてくれていました。
ミズモチさんが鍋の中に浸かりながら美味しそうに食べておられます。ミズモチさん、出汁は浸かるものではありませんよ。綺麗に出汁も食べて、水滴も落ちていませんが。
【ミズモチ】《ヤバ~おいし~》
ミズモチさんも出汁風呂で満足そうです。
「本当にありがとうございます。凄く美味しかったです。やっぱり矢場沢さんの料理は世界一ですね」
「もう、そんなに褒めても何も出ませんよ。
後、身体がしんどいなら連絡してくださいね。無理しちゃダメですよ」
年下の矢場沢さんに心配ばかりかけていますね。
「はは、ありがとうございます。朝よりは随分と良くなりましたので、明日は普通に出勤します」
「わかりました。明日の昼も消化の良い物を用意しておきます」
「見送りを」
「今日はここで。病人はゆっくりしてください」
「はい。すみません」
「ふふ、それではまた明日、会社で」
「はい。また。ありがとうございます!!!
矢場沢さんを玄関で見送って、ふと部屋の中を見ました。片付けまでして帰ってくれた矢場沢さんに感謝ですね。
身体も凄くラクになった気がします。