パワーヨガ
【side水野結】
インフォメーションをしていると、たくさんの冒険者さんがインフォメーションを通っていくのを見かけます。いつでも対応できるように目線を上げながら、人間観察をするようになりました。
インフォメーションでは、冒険者ギルドの利用したい施設の案内から、ギルド内の案内。受付業務やギルドで行える講習の予約まで仕事は多岐に渡ります。
一日中立っていることも多いので、結構足が疲れてしまうのです。
仕事終わりはむくみがひどくなって、自分でするマッサージが欠かせません。
「水野さん」
本日の業務も終了間際になって、阿部さんがやってきました。スーツ姿なので、仕事帰りですね。
冒険者のときとは印象が違うので、素敵だなって思えてしまいます。
「阿部さん。今日はどうされました?」
「実は、杖術は上手くなってきた気がするんです。
ですが、運動をこれまでして来なかったので、根本的な運動をしようと思いまして、何かいい講習はないですか?」
阿部さんはいつも丁寧です。
40歳になられてから副業で冒険者をしているので、とても慎重でありながら熱心に冒険者の仕事をされています。
最近は、大阪からやってきた梅田さんや、若手のホープである湊さんとも仲良くしていて女性の知り会いを増やしています。
梅田さんはモデルのように綺麗な女性で、冒険者ギルドの男性たちから注目を集める女性です。
冒険者ギルドからも広告のモデルになってもらえないか、打診をするような話も出ていました。
湊さんは、専門学校に行きながら副業で冒険者をしているのですが、ある事件をキッカケに冒険者にも力をいれてくれています。
見た目も可愛らしいので、オジサン冒険者たちからアイドルのように扱われています。
幼馴染み三人でパーティーを組んでいて、冒険者ギルド内では若手のエースとして知られています。
そんな二人から一目置かれる阿部さんは、私が専属受付としてお世話をさせてもらっています。
「それではこの後、私も受けるんですが一緒にパワーヨガを受けませんか?」
「パワーヨガですか?初めて聞く運動ですね」
「はい。普通のヨガでは、冒険者の方には物足りないので、少し筋肉を刺激するのを強くしているのです」
「えっ?冒険者向けなんですか?逆に水野さんは冒険者ではないのに大丈夫ですか?」
阿部さんが私のことを心配しています。
私よりもずっと年上の阿部さん。少し前に、湊さんから冒険者じゃなければ阿部さんのことは教えて貰えないと言われました。私だって、動くのは苦手ではないんです。
「大丈夫です。むしろ、キツいので阿部さんの方がついて来れないかもしれませんよ」
「わかりました。やってみます。登録をお願いします」
「かしこまりました」
私の本気を見せる時がきたようです。
ピッチリと身体のラインが出るトレーニングウェアに着替えて阿部さんの前にでます。
少し恥ずかしいですが、仕方ないですね。
阿部さんはウェアを持ってきていなかったので、ハーフパンツに半袖シャツをギルドから貸し出しました。
前に、阿部さんが毒にやられて命を助けたことがあるのですが、その時よりもっと細かった印象でした。
でも、前よりも阿部さんの身体は引き締まっていました。
冒険者さんは、レベルが上がると身体能力が向上していきます。それは見た目が良くなったり、身体が引き締まったり、その人によって違います。
阿部さんは元々身長が高く。
清潔感があり、優しそうな顔立ちが頼り無さそうな印象を受けていました。
ですが、以前よりも引き締まった身体で高身長な、しっかりとした男性という印象を受けます。
私の身長は160㎝あるのですが、丁度頭一つ分は違うのです。
「どうかされましたか?」
つい、阿部さんをジッと見つめてしまいました。
「いえ、やっぱり冒険者さんなんですね。お体が鍛えられています」
「えっ?ああ、確かにレベルが上がるたびにお腹が出ていたのが、引っ込んだと思っていました」
シャツを捲る阿部さんのお腹は六つに割れてはいませんが引き締まっていました。
胸板も厚く。腕も太いです。足もズボンを履いているときは細いと思っていたのですが、ハーフパンツになると筋肉で引き締まっているのがわかります。
はっ!つい……見てしまいました。
実は私、筋肉フェチです。
ついついnewtubeで見ちゃう方です。
それも阿部さんのような実用的な筋肉の方が好きなので……
「わっ!私だって鍛えているんですよ」
「ええ。水野さんは綺麗で、スタイルも良いですよね」
もう、さらっと言わないでください。
言っておいて恥ずかしくなるじゃないですか……
私は、運動をするときはメガネを外して髪を束ねます。
「いつもと印象が変わりますね」
「……どう変わるんですか?」
「えっ?うーん、いつもは真面目で仕事が凄く出来そうなキャリアウーマンって感じでしょうか?今は、ギャップもあるから……可愛いと思います」
「かわっ!もう、からかわないでください!」
私は顔が熱くなるのを感じます。
阿部さんはたまに、思ったことを素直に言うので、こちらが恥ずかしくなります。
その後は運動を開始しました。
私が汗だくでついていくのがやっとなパワーヨガを、阿部さんは筋肉を盛り上げさせて、まったく動じることなくやっていました。
もっと運動ができなくて……
ダメな人だと思っていたのに……
「水野さん?」
「えっ?」
「90分、もう終わりましたよ」
阿部さんを見ていると、いつの間にかパワーヨガは終わっていました。
「結構、ハードでしたね。また来ようと思います」
「えっ、ええ。また」
「はい。それではありがとうございました」
なんでしょうか……敗北感があります。
私……これでも人気の受付嬢だったんです。
インフォメーションにコンバートされてからも、多くの男性冒険者さんに声をかけられています。
阿部さんは、私のウェア姿を見ても表情を変えないで、私ばかり阿部さんの筋肉を見て……
悔しいです……
女として負けられませんね。




