昇級祝い
インフォメーションに戻ってきた私は水野さんに冒険者カードを渡して更新してもらうことにしました。
「はい。更新完了です。これで今日からCランク冒険者へ昇格です。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「Cランクからは、C級ダンジョンへ入ることが出来るようになります。報酬もDクラスよりも多くなります。その分、危険も増しますのでくれぐれも無理をしないようにしてください」
水野さんが簡単にCクラスの説明をしてくれました。
「こんなにも簡単な試験で大丈夫なのでしょうか?」
「そうですね。簡単だと思えたのは、それだけ阿部さんが成長しているからだと思いますよ」
そうなのでしょうか?私は自分が成長しているという実感があまりありません。
ミズモチさんは日々逞しくなられていますが、今朝のオーガさんにもビビってしまいました。
「うーん。ねえ、阿部さん」
「はい?」
「昇格祝いはされるんですか?」
「へっ?昇格祝いですか?」
「はい。冒険者の方々は、昇格するとお祝いをするみたいです」
なるほど、湊さんたちもこれからお祝いに行くのかな?私はミズモチさんとお祝いをしましょうか?
「私、もうすぐ仕事が終わるんです」
水野さんから発せられた言葉の意味が理解できなかったため、どう返答するの迷っていると水野さんが言葉を続けてくれました。
「よかったら一緒にお祝いをさせてくれませんか?」
「えっ?私のお祝いを水野さんがしてくれるんですか?」
「はい。今の私はインフォメーションなので、あまり冒険者さんと交流は深くありません。
唯一、受け持っている冒険者さんが阿部さんなんです」
そういえば、皆さん受付に行って説明を受けるように言われていました。私は水野さんのところへ来るのが当たり前になっていましたので、ご迷惑をかけていましたでしょうか?
「あっ、勘違いしないでくださいね。私は阿部さんが来てくれて嬉しいですから」
水野さんは良い人ですね。
美人で、親切で、命の恩人で、色々とお世話をしてくれるので、仕事のパートナーとして最上の相手です。
「水野さんからお祝いして頂けるなんて嬉しいです」
「よかった!ミズモチさんもいるので阿部さんのお宅にお邪魔しても良いですか?」
ミズモチさんへの配慮までしてくださるとは、水野さんはもしかして女神様なのではないでしょうか?
「ありがとうございます。全然大丈夫ですよ。家に来ていただけるなら食材と料理はこちらで用意させてください」
「いいんですか?」
「全然、構いません。少し変わった食べ方をしたいのですが、構いませんか?」
「楽しみにしておきます。それでは着替えを済ませたら向かいますね」
「はい。お待ちしています」
私は早速、自宅に戻って片付けを開始しました。
年末年始は実家で過ごしたので汚くはないですが、空気の入れ替えが必要ですね。
悪臭カット君のおかげで加齢臭は退治出来ましたが、やっぱり生活臭はありますからね。
ファブって、要らない物は片付けました。
今日は特別な物を用意します。
私、一人暮らしを始めてしばらくしたときに、購入して一度しか使っていないアイテムがあるのです。
卓上七輪!!!
某アニメがアイテムを出すように言うのがコツです。
蓋付きの火起こし機をコンロで熱して炭を温めます。
どんな物でも、一炙りするだけで炭の旨味がギュッと味を引き締めてくれる最高のアイテムです。
七輪本体が熱くなるので、板の上に置いてテーブルにセットします。どうしても匂いが気になるので、普段使いは出来ませんが、炭で炙るだけでかなり美味しくなるのです。
――ピンポーン
水野さんがいらっしゃいました。
「はい。どうぞ上がってください」
「失礼します」
水野さんは着物姿から、普段着姿になっても美しいです。仕事が出来る大人の女性という雰囲気に惹かれてしまいますね。
「ミズモチさん、明けましておめでとうございます」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
水野さんはミズモチさんにも丁寧です。
ミズモチさんも挨拶をされて、テンションが上がっている様子です。
「そうだ。来る前に美味しいお酒とケーキを買ってきました」
「これはこれはありがとうございます!!!ケーキはあまり自分で買うことがないので、お祝いらしいですね」
やはり女性の水野さんは気づかいが出来る人ですね。
お祝いでケーキという発想がまったくありませんでした。
「それと、これは私からプレゼントです」
「プレゼント?」
「はい。C級への昇級おめでとうございます」
「なんでしょうか?」
私は渡されたプレゼント明けてみると、ネックレス?が入っていました。
「アクセサリーですか?」
「はい。サークレットと言って、頭に付けてみてください」
「頭に?」
付け方がわからなかったので、水野さんに付けてもらうと、意外にも私の頭にピッタリとはまりました。
あれですかね?孫○空さんの緊箍児のような形ですね。
「それは魔力で頭と顔を守ってくれる装備品なんですよ」
「えっ!高い物じゃないですか!!!頂けませんよ!」
「いいんですよ。それは購入したものではないので、気にしないでください」
「購入していない?」
「はい。まぁ訳あり商品です」
「怖っ!そっちの方が怖いような」
「大丈夫です。変な訳ではありませんからね」
水野さんが笑顔で、念押しされれば受け取るしかありません。それに頭の防御をヘルメットにしていると、確かに魔法を使うときに額にだけ限定されて使いにくいとは思っていたので助かります。
「ありがとうございます!!!でも、絶対にご恩は返しますから」
「ふふ、でしたら、一つお願いがあります」
「お願い?貸し一ではなくて?」
「はい、お願いです。阿部さんは大丈夫だと思いますが、無茶はしないでください。
カリンから阿部さんが持ってくるアイテムはヤバいアイテムが多いと聞きました」
えっ?ヤバイアイテムなど持っていっていませんが、全てご近所ダンジョンさんのドロップ品です。
「もしかしたら高ランクダンジョンに、隠れて潜っているんじゃないかって心配していたんです。
それと、今回のサークレットはカリンが用意してくれたプレゼントなんです」
カリンさんにも心配をかけていたんですね。
色々と反省しないといけませんね。
いばらき童子ダンジョンでは確かに無茶をしました。
ご近所ダンジョンでも、ミズモチさんが居なければ危険だったと思います。
「わかりました。色々と心配かけてしまって、すみません」
「いえいえ、怒るために来たのでないんです。楽しく昇格祝いをしましょう」
「はい」
本日は、美味しい海鮮を用意しました。
海鮮を炭火で焼いていきます。
まずは、七輪で穴子を炙ります。
反り返る頃に反対にひっくり返して、これがまたお酒に合うんです。
私、ビール党ですが、海鮮のときだけはお酒もいけちゃいます。
「うわ~小さい七輪ってなんだか、オシャレですね。それに凄く美味しいです!」
「ですよね。私、卓上七輪で炙るイカや穴子、ホタテが好きなんです」
「この、海苔の炙りも美味しいです」
水野さんが喜んでくれてよかったです。
片付けは大変ですが、やっぱり人を招くなら美味しい物を召し上がってほしいですからね。
締めは、炊飯器で作る鯛めしです。
鯛めしの素が売っているので、魚屋さんで捌いてもらった切り身を一緒に炊いて、炊き上がったら身をほぐして完成です。
お酒の後に美味しいのです。