四国旅行 10
最後の審判が飾られたシスティーナ・ホールに入るまで、のっぺらぼうは一体も出現しませんでした。
私は、システィーナホールから危機察知さんのブラック反応を感じたので、
他にもたくさんの名画や礼拝堂を模した部屋は今までよりも神聖な雰囲気を感じてしまいます。
「静かですね」
「ええ。先ほどまでの茶色いのっぺらぼうの大群が嘘のようです」
ミズモチさんは魔力が充実しているのか、気分がよさそうです。
「ヴュ〜 ヴュ〜」
ミズモチさんの魔力を充実させるためにしばらく休息をとっていました。
「さて、そろそろいきましょうか?」
「はい!」
「ヴュ〜」
私たちはしばしの休息を終えて扉を開きました。
真っ赤な体にのっぺらぼうマネキンさんは、今までと一番の違いは口がありました。
のっぺらぼうで鼻や目、耳はありません。
ですが、口だけがあるのです。
それは恐ろしく、口元を歪めて笑いました。
「ひっ!」
向けられる威圧のような雰囲気に、カオリさんが悲鳴を上げます。
私はカオリさんの前に立って壁になります。
どうやら、こちらに恐怖心を与えるような攻撃が含まれていたようです。
「カオリさん大丈夫です。もしも、辛いのであれば扉が開いているので、外でお待ちください。この階はあの赤いのっぺらぼうマネキンしかいません」
「だっ、大丈夫です。すみません」
「いえ、無理はしないでくださいね。どうやら精神に負担をかける攻撃を仕掛けてきたようです。私とミズモチさんはここまでの経験で耐えられます」
「ふぅふぅふぅ、もう大丈夫です」
気丈に耐えようとするカオリさんにかまってあげられるほど優しいボスではないようです。のっそりと立ち上がったボスが真っ赤な体をゆらゆらと揺らしながら近づこうとしています。
「カオリさん」
「はい」
「行ってまいります」
「あっ、はい! 行ってらっしゃい。あなた」
私はカオリさんに見送られて、赤いのっぺらぼうマネキンへと踏み出しました。私の横には頼れる相棒が共に歩んでくれます。
「ミズモチさん。かなりの強敵です。頼りにしております」
「ヴュ〜」
「ふふ、あなたがいるだけで安心できてしまうので不思議ですね。変身!」
鬼人化をすると、全能感を味わうほど私は自分が強くなっているのを感じます。
私たちが並んで赤いのっぺらぼうマネキンに近づいていくと、ボスはその体の大きさを肥大させて、腕を膨らませて巨大な拳で殴りつけてきます。
「巨大な化け物に殴りつけられたようです」
体をクネクネと軟体動物のように動かして武器に変化させてはこちらへ攻撃を仕掛けてきます。
これまで茶色いのっぺらぼうマネキンを倒してきた攻撃方法を全て試すように、赤い体が変化して、武器や魔法、攻撃へと転じていきます。
「ミズモチさん」
「ヴュ〜!」
私はミズモチさんに全ての回避を委ねて、一度きりのチャンスを待ちます。
「ヴュ〜!」
ミズモチさんが全速力で全ての攻撃を回避してくれます。
迫り来る真っ赤な体の触手はタコの手を思わせるような軟体的な動きで、攻撃を仕掛けてきます。
ですが、ミズモチさんの方が上手でした。
確かにここまでの戦いでミズモチさんの攻撃はほとんどが相手を倒すまではできませんですが……。
《アイスジャベリン》
《ウォーターウォール》
《アイスボール》
ミズモチさんは回避しきれない攻撃に魔法をぶつけて、当てさせません。
私の相棒はどんな相手にも対応してくれる素晴らしいです。
しかも、今までカオリさんに言われて封印していた。毒魔法を部屋に充満させることで、赤いのっぺらぼうマネキンを攻撃することも忘れません。
「ぐっぐう!!」
口だけが残されている赤いのっぺらぼうマネキンがミズモチさんの毒を受けて苦しんでいます。
ですが、倒すほどではないのが、これまでの魔物よりも遥かに強いからなのでしょう。それを思えばミズモチさんの毒が強力でも、白鬼乙女さんへのトドメにはなり得ないかもしれません。
「ミズモチさん。ありがとうございます! トドメと行きましょう」
相手は弱っているというわけではありません。
ですが、これまでのことを思えば一撃で終わらせなければ攻撃が通じなくなってしまうかもしれません。
「鬼切丸さん。あなたに全ての魔力を付与します」
「ヴュ〜」
「はい。タイミングは全て任せます。近づいていただけますか?」
鬼人ライダーの能力が上がっているのを感じます。
ミズモチさんがどんな動きをして近づいていくのが見えます。
「まるで未来が見えるようですね」
「ヒデオさん!」
カオリさんの声が聞こえます。
大丈夫ですよ、カオリさん。
あなたの声が聞こえるほどに私は集中しています。
「ヒデヴュ〜!!!」
ミズモチさん全ての攻撃を掻い潜って私を赤いのっぺらぼうマネキンの頭部へ近づいてくれます。
「刺突!」
私とミズモチさんが込めた魔力に鬼人の力と鬼切丸さんをもって眉間を切り裂きました。さらに、首を落として、全身を切り裂きます。
手応えがあり、振り返れば赤いのっぺらぼうマネキンがこちらを見下ろして固まっています。
「私が新たな力に目覚めていなければ、あなたを倒せていなかったかもしれません」
私が言葉をかけると、赤いのっぺらぼうマネキンは地面に落ちて魔石へと変わりました。




