怪しい人物
九月に入り、台風がよく来るようになったからか、大雨が増えています。
朝晩も多少は涼しくなって、暑さはまだまだ続きますが、それでも会社に行かない日々は色々とすることがあり、不思議な日々を送っています。
平日はハローワークに行って失業を伝えました。
そして、冒険者として正式に働いていることを伝えると、失業手当はいただけないようです。当たり前ですね。
これで晴れて、会社員から専業冒険者というカテゴリーに枠組みされました。
私も無職です。
無職は語弊があるかもしれません。
冒険者の専業になるつもりはなかったのですが、次にやることが見つかるまでは冒険者で日銭を稼がなければいけませんね。
自分の用事を済ませて街の中を歩いていると、気になる視線を感じます。
家の近くで会ったことがある女性です。
五十歳ぐらいの方で、最近よく見かけます。
「何か御用ですか?」
「ひっ!」
私は人気のない場所を目指して、路地裏に入り、待ち構えて声をかけました。
後をつけられていたのは、私の方なのに怖がられてしまいました。
一応、眉毛やまつ毛はつけていて、頭も帽子を被っているんですけどね。
「何か御用ですか? 最近、家や私をつけているようですが?」
「あっ、あなた! カオリのなんですか?!」
おや? 私はどこかでこの方に会ったことがあるような気がします。
帽子を被って地味な格好をしたオバ様で、歳を取られてはいますが不細工というわけではありません。
若い頃はお綺麗な方だっただろうなと思う程度には整った顔をされています。
ただ、手入れをされていないのか肌はボロボロになり、顔のシワが多く見られ、シミも浮き出ています。
綺麗に整えられたなら、お綺麗な方なのにもったいないなぁと思うタイプです。
「カオリ? カオリとは誰のことでしょうか?」
「惚けないで頂戴! あなたは私の可愛い娘であるカオリを誑かしているのでしょ! 調べさせてもらったわよ。あなた無職なんでしょ! そんな歳で無職って最低じゃない。カオリは私が決めた御曹司と結婚させるんですからね」
何を言っているのでしょうか?
私が無職なのはまぁ。
ハローワークにもついてこられていたので、調べたのでしょうか?
ハローワークの方が言うとは思えないので、誰かに聞いたのでしょうか?
それに御曹司? カオリさんからは何も聞いていません。
それにテレスさんが持ってきた資料には色々と問題のある方でした。
結婚詐欺に近いことをされているとも。
もしかしたら、どこかの社長さんを騙して、カオリさんを利用した何かをしようとしているのでしょうか?
「すみません。やっぱりあなたが何を言いたいのか全くわかりません。矢場沢薫のことを言っているのであれば、彼女は私の妻です。すでに来月には挙式を上げることも決めています」
「まっ! この無職が私の娘に寄生して! そんなことが母親である私が許すと思っているの!」
「いえ、別にあなたに許して頂かなくても」
「あの人だって許さないはずよ」
「あの人?」
「そうよ。私の元夫よ。あの人は仕事だけが生き甲斐のような人だったんだから。仕事をしていない男なんて、価値がないのよ!」
あ〜、まぁそうですね。
あのお父さんなら言いそうです。
男は仕事だと言われていましたからね。
「う〜ん、それは言われるかもしれませんね」
「そうよ! だから、カオリとは別れて頂戴!」
「それはできません」
「なっ! なんなのあなた!」
「私たちの付き合いは、私が一人で決めたものではありません。カオリさんが私と付き合いたいと思ってくれて付き合えています。それを親に否定されたからと言ってやめたりはしません。親を選ぶのか、私を選ぶのか決めるのも私とカオリさんです」
お母さんがどんな方なのかはわかりません。
良い人であろうと、悪い人であろうと、関係ありません。
確かに家族に反対されて別れてしまうカップルもいるでしょう。
ですが、それを決めるのも付き合っている二人だと私は思います。
家族が大切だから、別れる。
それ以上になれなかった私が悪いのだと思います。
「私はカオリさんと付き合えていることが幸せです。カオリさんにも幸せになってほしいと思って日々生きています。それを他の方にとやかく言われる筋合いはありません。もちろん、彼女が不満に思っていて、私といるのが嫌だというなら改善します。改善しても好きに戻れないというなら別れることになると思います。ですが、そうでない、他人から言われた言葉で、カオリさんと別れることはありません」
ハッキリと告げると、カオリさんのお母さん? と名乗った女性は悔しそうな顔をして走り去っていきました。
「ふぅ、あれで本当に良かったのでしょうか?」
結婚を前にして問題が残されたようなモヤモヤした気持ちが残ってしまいました。
「東郷師匠のところに行って身体を動かしましょう」
スキルのおかげで型はできるようになった気がします。
師匠に判断してもらう必要がありますが、自分では判断できませんからね。




