表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《近々コミカライズ発売予定》道にスライムが捨てられていたから連れて帰りました  作者: イコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/346

覚悟

 カオリさんに背中を押された私は一つの覚悟を胸に刻むことができました。

 それはどんな答えを出すにしても、私が進む道には、カオリさんとミズモチさんがいると言うことです。


 ですから、何も怖くはないのです。


「ようこそ、阿部秀雄さん」

「テレスさん。今回の件で話があります」


 社長室へと侵入した私をテレスさんが出迎えてくれます。


「わかっています。ここではなんですから、場所を変えましょう」


 そう言って、私の横を通り過ぎたテレスさんは、会議室へと入っていかれました。そして、そこには会社の幹部たちが集まっています。

 社長の姿は無く、新しく幹部になった者たちばかりです。


「それでは、今日の議題を話し合いたいと思います」

「ちょっと待ってください。私は何も聞いていませんよ!」

「ええ、ですからここで話をするのです」

「どう言うことですか?」


 私が視線を向けると全員が、視線を逸らしてしまいます。


「それでは、まずは阿部さんの話を聞きます」

「……」


 状況は分かりませんが、私は覚悟を決めたのです。


「私は、会社を辞めます。テレスさん、あなたの意向に従うつもりはありません。すでに弁護士の方に相談もして、強引な方法でのスカウトに関してはお断りする準備ができています」


 私は社長やカオリさんに背中を押してもらって、弁護士の方々に守って頂き、やっとこの言葉を言えるようになったのです。


「そうですか。残念です。では、本日をもって、この会社を売却することにします」

「なっ!」


 テレスさんの言葉に他の方々は黙っておられます。


「私の目的は阿部秀雄さん。あなただけです。あなたがいないのであれば、この会社に興味はありません。幸い、私は会社の株を51%所有しております」


 スミスさんが指摘していた株をテレスさんはすでに51%所持していたようです。

 最初から、私たちに会社を手に入れることは難しかったのですね。


「それを誰に売るのですか?」

「さぁ、会社を辞める阿部さんには関係ないのでは?」

「これでも二十年勤めた会社です。気になりますね」

「この株を阿部さんに売っても構いません」

「……どういう意味です?」

「A国へ在籍してほしいとは言いません。ですが、私の仕事を引き受けてほしいのです」


 会社を人質にそこまでするとは思いもしませんでした。


 そして、それは私に会社の行く末を社員の前で選べと言っているようなものです。彼らが黙っていたのも、私と視線を合わせなかったのも、意味があったのですね。


「……テレスさん。私はあなたのやり方が嫌いです」

「……」

「人を巻き込むやり方も、遠回しにお願いするのも、私とは合いません」

「ならば、あなたはこの会社を私から買わずに、放置されますか?」


 買い取るためには、テレスさんの条件を飲む必要があり、買わなければ会社はどうなるのかわからない。


 ですが、ここまで覚悟を決めてから会社に来たおかげでしょうか? 私の心は揺れることなく思ったことを口にできると思いました。


「はい。放置します」

「えっ!」


 テレスさんだけでなく、会社の幹部たちも私を見ました。

 それは驚いていたり、絶望するような顔もあります。


「私がいなくても、会社が社長の手から離れた時点で、私が身を捧げた会社ではありません。仲間たちとは確かに会社を一緒に過ごしてきました。ですが、私は事務員をしながら他の方々もサポートをしてきたからわかるのです。もう、私が会社にしてあげることはありません」


 ハッキリと言葉にできたのは、ここまで背中を教えてくれた方々がいたからです。


「そう、ですか。私はどこかで間違えたのですね」

「失礼します」


 私は言いたいことを言って、会議室を出ました。


 よろめいて椅子へと座ったテレスさんを尻目に、私が会議室を出ると。

 課長を捕まえる際に営業部長と人事部長になられた二人が追いかけてきます。


「阿部」

「阿部さん」

「はい」

「それでいい」

「そうっすよ。一人の人間がどうこうできるのが会社じゃない」

「逆に阿部が、買い取ったところで今後が上手くいくのかなんてわからないんだ。だから、気にするな」

「そうっすよ。気にしないでください」


 二人の部長からも私の背中を押す言葉をかけられて、私は深々と頭を下げて、懐から退職願いを人事部長へ渡しました。


「今までお世話になりました」

「ああ、阿部にはたくさん助けられた。感謝している」

「阿部さんからは、たくさん学びました。ありがとうございました」


 二人との別れを告げて、私は事務所へと戻りました。


 引き継ぎなどを考えれば、すぐに辞めることはできないでしょう。

 ですが、テレスさんへの決別をハッキリと告げることができたことで、私の足取りは軽くなります。


「阿部君」

「三島さん、今までお世話になりました。このような結果になってしまいましたが、必要なうちは会社に残っていますので」

「バカね。あなたは自分の道を生きるのでしょ。気にしなくていいわよ。そんなこと」


 話してみると三島さんは本当にいい人です。


 もっと早く三島さんとも、カオリさんとも話せば良かったと今なら思います。


 会社を出た私の元へテレスさんがやってきました。


「これで、終わると思っていませんか?」

「……」

「必ず私はあなたをA国に連れて行く。そこで、アッシュのダンジョンを攻略してもらう!」


 髪を振り乱して、いつも毅然としたテレスさんはいません。

 ですから、私は彼女に近づいて。


「もっと素直に願ってくれれば、耳を傾けることができたのに。あなたは私の信用を失った。私の信用を失ったあなたからの依頼は受けません。それを回復してから話しかけてください」


 どうして、ここまでハッキリと拒絶できたのかは分かりません。

 ですが、覚悟を決めると言うことは責任を持つことなのかもしれません。


 私は、キッパリと別れを告げる覚悟と、テレスさんから恨みをかう責任を負う覚悟ができました。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんばんは。 阿部さんの言う通り、最初からプライドなんざポイして「ウチの国のダンジョン激ヤバなんで助けて下さいオナシャス!センセンシャル!」って頭下げてりゃ、未来は違うものになってたかもしれないです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ