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《近々コミカライズ発売予定》道にスライムが捨てられていたから連れて帰りました  作者: イコ


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花火は全てを洗い流して

《side矢場沢薫》


 盆踊りから帰ってきて、遠くで音が響く部屋の中。

 ヒデオさんが差し出した書類を開けて、私は中を見ました。

 そこには昔と変わらない母の写真が貼られており、派手さは何もない。


 私はそんな母に反発するように派手なメイクを選んだ。

 見た目には、どこにでもいるようなオバサン。

 その実、お金遣いが荒く、父に借金をさせ、自分は父を捨てて別の男性に寄生するような人間。


 父の話では元々心の弱い人だった。

 自分が良ければそれでいい。そんな人でした。


 宗教にハマって、父の事業が上手くいっている時はかなりの額をお布施として貢いていた。そのお金で高い地位を手に入れて、たくさんの方々と出会っていた。出会った男性と浮気を繰り返し、最終的には父に借金を押し付けて離婚。

 

 家族を捨てて、男性に貢いでもらって生活をする。


 書類には、私が知らない犯罪歴という欄が追加されていた。

 後妻業、結婚詐欺、保険目当ての殺人。


 全て証拠不十分により、不起訴として逮捕されていない。

 だけど、私は母ならやりかねないと思う。

 ただ、何度も繰り返し疑いがかかっているため、未だに調査は継続されている。


 昔よりも、ひどくなっている母の状況に、私は深々と息を吐いた。


「ヒデオさんは中を見ていないのですか?」

「はい。渡された際に、写真と名前、住所だけを見てすぐに直しました」

「そうですか……、どうして見なかったのですか?」

「このような形になってしまいましたが、私はカオリさんの口からご家族のことを聞きたいと思っていたからです。それ以外の方から聞く話などどうでもいいのです。もしも、カオリさんが言いたくないのであれば、今でも聞かなくて良いと思っています」

「ヒデオさんは変わりませんね」


 彼は揺るがない。

 優しいということもあるけれど、課長との揉め事の時も毅然とした態度で、自分をしっかりと持った人。

 だから、母と同じく心が弱っていた私はヒデオさんに甘えるように寄り添ってしまった。


 この時間が、ただ毎日過ぎてくれれば良いとそう思っていた。


 私はそっと書類をヒデオさんに差し出しました。


「見ても良いということですか?」

「はい。ここに書かれていることは全て事実だと思います」


 私は口で言うよりも読んでもらった方が早いと思い、ヒデオさんが読み終わるのを待ちました。

 自分が罰せられるような気持ち悪さを感じながら、判決を待ちました。

 もしも、母親のような人間がいる私とは付き合えないと言うのであれば、私は大人しく家を出よう。


 父だけでも、ヒデオさんには借金面で心配をかけているのに、今度は犯罪者の母までいるのだ。


「読み終わりました」


 私はスッと頭を下げました。

 ヒデオさんを騙してしまっていた。


「私の家族はお世辞にも自慢できるような人物たちではありません。母がこのような人物だと分かりながら、父は手立てを講じることなく。母が壊れゆく中で、私と父は距離を取ることでしか逃れる手を持ちませんでした。もしも、ヒデオさんが我が家の問題で、私との付き合いを嫌だと感じるのであれば、私は家を出ます。会社も辞めます。ヒデオさんの目に留まらないように生きます」


 それぐらいの裏切りを、私はしてしまったのだ。


 もっと早く自分の口から伝えていれば、何か違ったのかもしれない。

 だけど、私はヒデオさんとの幸せな日々が、私の心を癒してくれて甘えてしまっていた。


 スッと、私の前にヒデオさんの影が伸びる。

 日が沈んで、電気の光が私を覆い隠す。


「顔をあげてください」

「えっ?」


 優しく肩に置かれた手に促されて私は顔をあげました。

 大きな手が私の肩を引き寄せ、抱きしめられます。


「カオリさんに出て行かれては、私もミズモチさんも困ってしまいます。もう、カオリさん無しでは生きていけません」

「それは?」

「あなたの家族がどのような人で、どんな困難が待ち受けていようと、私はカオリさんと結婚したいです。カオリさんに降りかかる困難を、一緒に乗り越えたいと思っています」

「あっ!」


 ヒデオさんの言葉に私は涙が溢れ出して、止めどなく溢れる雫をヒデオさんがそっとハンカチを渡してくれました。

 私は抱きしめられながらも、ヒデオさんが渡してくれたハンカチで顔を隠して静かな時を過ごします。


 バン! ババン!


「えっ?」

「おや、どこかで花火が上がっているようですね」

「あっ、そういえば週末に神宮外苑で花火大会をしてるって」


 地域のお盆祭りをしている中で、大きな場所で花火が上がっていました。


「カオリさん。私と共に生きてくださいませんか?」

「……私で良いのでしょうか?」

「カオリさんでなくては、もう私は一生独り身です」

「ふふ、はい。私も一緒にいたいです。ありがとうございます」


 花火の音が、気分を変えてくれて。

 素直にヒデオさんの言葉を受け入れることができました。


「こちらこそありがとうございます」


 私の方こそ、ヒデオさんがいないともう生きていけません。

 ミズモチさんに癒されて、ヒデオさんに抱きしめられる。


 私の幸せはここにあると思えています。


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