ゴブリンの住処 4
30匹倒したところで休憩ということになり、ゴブリンの住処を一旦出ました。
あそこ……臭いんです。
汚物の臭いがしている場所で休憩するって、辛いですからね。
近くのコンビニ跡まで戻ってきて、私はファブさんを振りまきます。
「いいなぁ~」
鴻上さんがファブりたい様子でこちらを見ていたので、差し出しました。
「どうぞ、使ってください。除菌シートもありますよ」
皆さんと冒険をするために色々と用意してきましたよ。
「あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、このコンビニはトイレも使えるので手も洗えますよ」
意外にも鴻上さんが話しかけてくれているので、雰囲気も悪くならないで冒険も楽しくできています。
「皆さん、お菓子もありますよ」
「ふふ、阿部さんお母さんみたいですね」
湊さんも最初の険悪な雰囲気がウソのように今では笑顔が戻ってくれました。
ただ、高良君だけはまだ認めてくれていない様子で私と距離を空けておられます。
若者に好かれるってどうすればいいんでしょうね。
「もう休憩はいいだろ。いくぞ!」
30分ほどのお菓子タイムが高良君の言葉で終了しました。
まぁ、本日は4時間ほどの短い冒険にすると湊さんが言っていたので、残り半分を同じだけ倒せれば最低賃金ぐらいは稼げそうですね。
「それでは次は」
「おい、オッサン!黙れよ」
「ユウ君!何を言うのを!今まで阿部さんが居てくれたから危なくないまま、ゴブリンが倒せたんだよ!」
「ユウ」
「うるせぇ。確かにオッサンのスキルは便利だよ。だけど、オッサンがいない俺たちはオッサン無しでゴブリンを見つける必要があるんだろうが!それに頼ってどうすんだよ」
イライラしている高良君が言うことも尤もですね。
「わかりました。私はお伝えしません。ですが、危なくなったときは注意させて頂きます」
「阿部さん」
「高良君が言うことも正しいと思います。皆さんは三人で力を合わせればゴブリンに負けることはありません。ですので、ゴブリンの見つけ方を考えた方がいいかもしれませんね」
高良君の意見を尊重すると、彼は面白く無さそうな顔で歩き出しました。
二人の女子も私がそう言うならという感じで高良君の後に続きます。
私とミズモチさんは、彼らのサポートとして後ろからついて行くことにしました。
幸い、ここはゴブリンの住処と言われるだけあり、歩けばゴブリンに当たるので問題はないと思います。
数が多いときはそれとなく湊さんに伝えて、誘導してもらうようにしました。
午前中の彼らの動きを見ていると、三人で相手に出来る限界は4匹まで、5匹から高良君の負担が大きくなり、鴻上さんがパニックになって対応できなくなります。
そのため湊さんが回復するために魔力を使わなくてはならないので戦った後の消耗が大きくなってしまいます。
「ほら、オッサンがいなくても大丈夫じゃねぇか」
午前中よりは時間がかかってしまったのですが、30匹のゴブリンを倒したところで高良君が笑顔で宣言しました。
「そうですね。皆さんも冒険者として学びながら強くなって行くんだと思います。よい時間になりましたし、本日はもういいんじゃないですか?」
高良君は満足した顔をしていますが、湊さんと鴻上さんはかなり疲れた顔をしています。
やはり神経をすり減らしながら行動するだけでも緊張の連続で、戦いも加われば初心者の間はしんどいのだと彼らを見ていて思います。
私は彼らの戦いを見ながら、水野さんに依頼された行方不明者がいないか見ていましたが、それらしい人影はありません。
「そうですね。疲れましたね」
「うん。帰ってシャワー浴びたい」
女子二人の賛同を得たので、私が帰り支度を始めます。
戦いに集中する彼らの変わりに魔石集めは私がしていたのでリュックの中はいっぱいです。
「ちょっと待てよ!やっと調子が出てきたんだ。俺はこれからなんだ!もう少し狩っていこうぜ」
明らかに疲労が溜まっている顔をしている高良君が、強がるように続けたいと言います。
先ほどは彼の意見が正しいと思って尊重しましたが、今回は違うと思います。
「高良君」
「なんだよオッサン」
「別に私のことを認めないのも、オッサンと呼ぶのも私は許しましょう」
少しだけ、オジサンとして若者に嫌われる説教をしようと思います。
「ですが、あなたはリーダーとして彼女たちの命を預かる身です。自分のことばかりではなく、仲間の姿を見てください。あなたの仲間は疲れています。今の状態で本当に素晴らしいパフォーマンスが出来ると思いますか?あなたは調子が良いかもしれません。ですが、彼女たちは違います」
チラリと高良君が二人を見ました。
二人は息も絶え絶えで帰るのも辛そうなほど体力を消耗して疲れています。
「くっ」
「あなたは男で、体力が二人よりもあるかもしれません。ですが、あなたと同じだけの体力は彼女たちにはありません。リーダーなら仲間を優先しなくてはダメです」
ハァ~やってしまいましたね。
若者に嫌われる説教くさいオッさんになってしまいました。
「うっ、うるせぇよ!言われなくてもわかってるよ。今日はもう帰ろうと思ってたんだ」
ふむ。言葉は素直ではないですが、ちゃんと私の説教を聞いてくれたようですね。素直なところもあるではありませんか、彼は根は悪い子ではないのでしょう。
よし。これで安全に帰ることができますね。若者はやっぱり可愛くていいですね。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」
それは魔物が発するには大きな雄叫びでした。