マンティコアダンジョンの調査 3
私たちは雨が降り頻るマンティコアダンジョンの中で、マンティコアとの死闘を潜り抜けて、少しだけ休憩を取ることにしました。
砂漠から海が見えていて、雨で出来た川の流れができています。
「ミズモチさん。本日もレベルは上がりませんね」
《次もガンバろ〜!》
「そうですね。一息ついて、本日は帰りましょうか?」
《は〜い》
私たちは帰る準備をしていると、天候が更に悪くなり真っ暗になりました。
「おや? 雨が」
真っ暗になっているのに雨が止みました。
私はどうしたのだろうと上を見上げると空が見えません。
いえ、真上に何かいます!
「ミズモチさん! 逃げてください!」
「ヴュヴュヴュヴュヴュヴュヴュ!!!」
ミズモチさんに私の意思が伝わって、高速でその場を離れてくれました。
その場を離れたことでやっと危機察知さんが一匹の魔物が現れたことを教えてくれました。
「なっ! なんて大きさなんですか?!」
私は実物のスフィンクスを見たことはありません。
ですが、空から落ちてくる巨大マンティコアの大きさはテレビで見たことがあるスフィンクスのように大きくて、同じような姿勢で落ちてきます。
「あれがボスですか? でも、どうして空から?」
スフィンクスマンティコアが砂埃を巻き起こして、砂漠に降り立ちました。
私たちは、距離を空けて全体像を見ようと砂埃の影響を受けない位置まで避難しました。
「あれは……、より課長感が凄いですね!」
丸々と太った体。
スフィンクスのような巨体をしているのに、顔の周りにはフサフサに映えたタテガミ。
他のマンティコアたちと違った怠慢な態度。
「なぜでしょうか? 見ているだけで怒りが湧いてきます」
《強い!》
ミズモチさんが、ハッキリとスフィンクスマンティコアを見て《強い》とハッキリ言われました。
「勝てますか?」
《わからない!》
「ふぅ、どうしましょうか? ボスモンスターが出現しても、このダンジョンであれば逃げることも可能ですが、逃げても良いのでしょうか?」
「ヴュヴュヴュ」
「ふふ、ミズモチさんは闘争心が高いですね」
ミズモチさんが戦うと決めたなら、私はやるしかないですね。
見た目は巨大課長です。そして、大雨が降り頻るダンジョン内。
「私の心も倒したいという気持ちがあります。ミズモチさんの得意な状況下で戦えることも好ましいですね」
砂埃が雨によって収まり、ドロドロになった地面が泥濘んで周りにいるマンティコアたちにも影響を与えています。
「行きましょう!」
「ヴュヴュヴュ!」
ミズモチさんが私を乗せて高速で移動を開始します。
どこから攻めればいいのか、どのような攻撃をしてくるのか、全くわかりません。
「後ろに回りますか?」
ミズモチさんがスフィンクスマンティコアの背後に回りましたが、そこには蠍の尾ではなく、サソリがいました。
「えっ!」
『シャー!!』
サソリが二本のハサミを振りかざして襲ってきました。
「くっ!」
白金さんを使ってハサミを防いで、距離を取ります。
「強いですね。前後に隙がありません。しかも強いです」
スピードも、攻撃力も段違いに強いです。
「どうすればいいでしょうか?」
ミズモチさんは、サソリの強さに反応して、正面へと回りました。
正面にまわれば、巨大な顔をした課長が傲慢な顔をこちらに向けて大きく口を開きました。
「ミズモチさん! 攻撃がきます!」
《ゲフゥッ!》
攻撃だと思ったスフィンクスマンティコアの口からゲップが放たれて、臭い空気が充満していきます。
更にゲップの臭いだけでなく、毒性の攻撃であることがわかって、ミズモチさんが距離をとりました。
《危険! 危険! 危険!》
「ぐっ!」
毒耐性を持っているはずなのに、息苦しさが込み上げてきます。
私は急いでカリンさんのショップで購入した毒消しを使いました。
ミズモチさんにも与えます。
「これは厄介ですね! 普通のマンティコアは問題ありませんでしたが、スフィンクスマンティコアはかなり強力です。
課長の顔をしていて、強くても絶対に負けたくありません。
「ミズモチさん。力を貸してくださいますか?」
「ヴュヴュヴュ」
任せろと言ってくれたミズモチさん。
私も自分が負けず嫌いになっていることはわかっているので、一度大きく息を吐いて気持ちを整える。
スフィンクスマンティコアは、動いていません。
それでも強いのです。
全身を守れるほどの長いサソリ型の尻尾。
漂う猛毒の息。
「ミズモチさん。魔法を!」
《アイスジャベリン!》
ミズモチさんが作り出した巨大な氷の槍が、スフィンクスマンティコアに向かって飛んでいきました。
ですが、ミズモチさんの魔法もサソリが弾き飛ばした。
「遠距離攻撃もダメですね」
近づけば猛毒攻撃。
遠距離は火力不足。
背後には強力な近接攻撃を携えており、防御も完璧。
正面にいるスフィンクスマンティコアの視線が私を見た気がします。
その瞳は課長が私に向けるように、バカにしたような視線を向けてきました。
「ええ。わかりました。課長。絶対にあなたを倒してみせます」
私は覚悟を決めて、マンティコア狩りを始めました。
今すぐ倒せないなら、レベルアップを優先します。




