ホテルで会談
マイケルさんが引き連れる弁護士団に警護されているような気分で、高級ホテルの一室へと向かいました。
オフィスとしても貸し出しているお部屋があるそうで、社長たちは先に来て待っているそうです。
「ヒデオ」
「はい?」
エレベーターに乗ったところで、マイケルさんに声をかけられました。
「我々は冒険者である君を尊重したい」
「はい」
「だが、同時に君個人が望む会社人としての考えもまた尊重するつもりだ」
「えっ?」
「最終的に社長や、課長たちに会って君がどのような判断を下すのか、それは君自身が決めることだと思っている」
「あっ」
「我々がついている。自信を持っていけ。グッドラック」
「ありがとうございます」
マイケルさんは過激なことを言っていましたが、最後には私に委ねると言ってくださいました。
私は本当に様々な人たちに支えられているのですね。
ーーコンコン。
マイケルさんがノックをすれば、相手側の弁護士さんが扉を開いてくれました。
部屋の中へ進んでいくと、社長が、課長と部長の頭を押さえつけて、ご自身も土下座の姿勢をしていました。
「しゃっ、社長!!!」
「阿部君。この度は我身内がとんでもないことをしでかしてしまって。本当に申し訳ないことをした」
私は、ホテルに入って話し合いの末に謝罪を求めるつもりでした。
ですが、ホテルの中ではすでに社長が私に対して謝罪を口にしてくれました。
「社長」
「これからどんな話をするにしても、まずは謝罪からさせてほしい。この二人は私にとっては身内だ。身内の責任は家長である私の責任だ。提出された資料も全て確認させてもらった。君にかけてきた負担を、私はこの二人からの報告を鵜呑みにして知らなかった。それは私の落ち度であり、数年も放置したこと本当に申し訳ない」
二十年前、私を会社に入れてくれた社長はガムシャラに会社を大きくしようとする人だった。
数年前から、海外に出て会社を立ち上げ日本への物流を取り仕切るために海外に滞在していた。
二つの会社を全て把握することは難しかったのだろう。
ただ、ここ数年の会社は酷かった。
いや、社長が海外に出られてからの会社は少しずつ酷くなっていった。
「こいつらにも、横領、脱税、汚職、セクハラやパワハラ、全ての余罪を責任を取らせるつもりだ。こいつらの被害にあった人々にも私を通じて謝罪をしたいと思っている」
先ほどから頭を下げていた課長が顔を上げて、社長を見る。
その顔には未だに自分の責任の重さをわかっていない様子で、社長に対して怒りを表すような視線を向けている。
「しゃ」
「バカモンが! お前に発言する権利はない!」
課長が何かを発しようとして社長に口を塞がれる。
「よろしいか? 社長さん」
私が唖然として見ていると、マイケルさんが声をかける。
「阿部君の弁護士だな。なんだね」
「今、あなたは謝罪を口にしました。それは全面的にそちらが悪いと思っても問題はないかい?」
「ああ、そう受け取ってもらっても構わない」
「OK。パフォーマンスではないと言うことだね」
マイケルさんは社長側の弁護士さんを見る。
弁護士さんは首を縦に振り、反論するつもりはないようだ。
「うむ。どうやら我々の仕事は随分とスムーズに終わってしまいそうだね」
それからは改めて、席について話し合いを始めた。
終始、課長が何か言いたそうに私を睨みつけていました。
対照的にバーコード頭の部長は、社長に叱られたことで疲れ切ってしまったのか、何も話をする気力がないよう俯いていた。
「最大の問題点は、会社を継続させるのか? さらには社長一同、幹部の処遇についてと言う話になります」
マイケルさんの発言に課長が立ち上がる。
「わっ、私はまだ若いんだ。今、会社を首になったら、家族はどうなる!? 阿部! お前に私の人生をメチャクチャにする権利があるのか?!」
課長の態度に社長が止めようとしますが、先ほどとは違って、自分のことになると課長は止まらなくなる。
「謝罪はしたんだ! もういいだろ! お前も気が済んだなら、こんな馬鹿げたことをやめて、今まで通り働けばいいじゃないか? そうだ。お前が部長になればいい。部長はもう定年だ。そのポストは私のものだったが、お前にくれてやる。それでどうだ?」
ここに来ても状況を理解していない態度を取る課長に私は唖然としてしまいました。
社長も、止めることをやめて頭を抱えてしまいます。
「HAHAHAHA、なんとなんと。そちらの弁護士殿に問うが、今の発言は録音をしてある。公式の物として扱うが、良いのかね?」
「問題ありません」
マイケルさんはとても悪い顔をされております。
相手の弁護士さんは、課長の行動すら想定済みだった様子で、マイケルさんの言葉を否定しませんでした。
「OK。ヒデオ、君の言っていた意味が私にも理解できたよ」
「おい! そこの外人! さっきからお前はなんなんだ! どうしてお前が話を進めている!?」
「ハァ、そこからかね。では、まずは私の自己紹介をさせてもらうとしよう。私は世界政府公認冒険者ギルド協会弁護団代表を務めるマイケル・スミスだ。普段は国際弁護士として世界中を飛び回っていてね。態度や礼儀はその国に合わせるつもりだが、君には礼儀は必要なさそうだ」
マイケルさんの正式な名乗りを初めて聞きましたが、私も名刺を頂いていなければ一回では理解できなかったです。
「何を訳のわからないことを言ってやがる! どうして冒険者ギルドの弁護士が阿部の代理人なんだ!」
「お前! 資料を読んでいないのか?!」
課長の発言に、社長ではなく部長が驚いた声を上げる。
どうやら、部長が大人しくしてたのは、社長に怒られたからだけではないようだ。