社長の帰国
皆さんが動いてくれたおかげで社長との連絡を行うことができたそうです。
私が直接話をしたわけではありませんが、会社の事情を聞いて帰国してくると連絡が入りました。
私自身は、会社へ出社もしておりません。
私物などはカオリさんが一旦撤去してくれて、こちらへダンボールに入れて送ってくれました。
冒険者ギルドから紹介してくれた弁護士団が私の要求を聞き、長さんが集めてくれた資料を元にして、代理人として会社への告発を行ってくれたのです。
私としては、これまでの不当な現状の改善と、未払いになっている残業代の支払い。そして、精神的苦痛に対する請求といった事項を、私が話した内容から弁護団の方々が決めてくれました。
私の告発を聞いた課長は、私のデスクを蹴り飛ばしたそうですが、自分の足を痛める結果になったそうです。
「改めまして、阿部秀雄さん。私が弁護団のリーダーを務めることになりました。マイケル・スミスと申します」
「よろしくお願いします」
マイケル・スミスさんは、長さんたちと同年代のオジ様で、メチャクチャかっこいい方でした。ハリウッド俳優だと紹介されてもわからなかったと思います。
「どうぞ、私のことはマイケルとお呼びください」
「えっと、はい。よろしくお願いします。マイケルさん。私もヒデオでお願いします」
「OK、ヒデオ。君にとってより良い結末を迎えさせてあげよう」
「はい! よろしくお願いします」
国際弁護士も務めるマイケルさんが弁護を引き受けてくれた事情には、実は冒険者という職業も関与していた。
冒険者ギルドは、政府公認であり、その政府とは世界政府のことを意味する。
それは日本政府が手が出せないほどの機関であり、非課税制度なども定めたのはお国ではなく、本来は世界政府ということらしい。
日本政府が認めたようなニュースが流れていたが、いいとこ取りをしただけのようだ。
「それで、ヒデオ。どこまでしたい?」
「えっ? どこまで?」
「ああ、ここまではっきりとした証拠の数々が整っていて、私たちまで来ている。会社を潰すこともできるし、潰した後に幹部を一生働けないようにすることも可能だ」
「ええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!! それはやりすぎです!!! 一応、二十年間勤めた会社なので、潰れるのは困ります。それに社長にも恩を感じているので、課長と部長。それに仕事の働き方が改革できれば」
「うむ。甘いな」
「甘い?」
「ああ、日本の砂糖菓子ほど上品で甘い。君は戦う冒険者だ。だから言わせてもらうが、戦いにおいて、生殺しにした敵によってピンチになったことはないのかね?」
マイケルの言葉に、私は矢で打たれて毒で死にかけたことを思い出しました。
「あります」
「敵には徹底的な制裁を行うべきだ。それこそ戦えなくするぐらいが丁度いい。魔物なら駆逐して、人なら、逆らう気力を奪うのが先決だ!」
「逆らう気力を奪う?」
「そうだ。社長は君にとって恩人で、優秀な人間なのかもしれない。しかし、会社の社長としては、不合格だ。それは君が集めた資料で証明されている」
過激に話をするマイケルに、私はタジタジになってしまう。
「君が優しい人間であることはわかる。それが上品さであり、日本人の美徳かもしれない。だが、それではダメだ」
「それではダメ?」
「そうだ。冒険者をしている者は舐められてはいけない。それは冒険者ギルド、ひいては世界政府が舐められると言うことだ!」
規模が大きな話になって理解が追いつかない。
「我々が動くと言うことは、君の名誉と、冒険者の名誉、そして、世界政府の名誉を守ることを優先する」
とんでもない人を助っ人にしてしまった。
「君の意向を聞くとするなら」
「私の意向を聞くとするなら?」
「会社は潰さない」
「あっ、ありがとうございます」
「そして、社長も解任は免れないかもしれないが、辞めさせない」
「解任はするのに辞めさせない?」
「それは本人が望むことだが、降格という形で別の者に社長を任せることになるだろう」
私は、私がしていることの大きさをやっと理解したのかもしれません。
それは完全に社長に弓引く行為であり、徹底的に戦う必要がある戦いなんだと。カオリさんがいった覚悟が試されているのですね。
「新しい社長が必要なのか、また今の社長がどのような選択をするのか、私も見定めたいと思います」
もう走り出してしまって手を止めることは難しい。
それに社長が、判断することであるようにも思えた。
「よろしい。それでは、行こうか」
「えっ、どこにですか?」
「本日の夕方18:00に社長が帰国することが決まっている」
「あっ」
「初会談だ。基本的には我々に話は任せてほしい。だが、君にも意見を求められることはあるだろう」
「わかりました。覚悟を決めます」
精神耐性や恐怖耐性があって本当に良かった。
「よろしい。では出陣の時だ!」
マイケルは日本の時代劇が好きなんだそうだ。
たまに、変な日本語を使ってくることがあって、それが緊張をほぐしてくれているのかよくわからない。