イカイカパニック 前半
羽田空港近くに緊急事態で呼ばれたので馳せ参じました。
雨の中をスーパーカブさんで到着すると、人々が集まっています。
「A級冒険者の阿部秀雄です」
私は冒険者ギルド職員の制服を着た方を見つけて冒険者カードを見せました。
「ご苦労様です!」
小柄な職員さんは初めて見る人です。
「初めましてですね」
「はい! この地区を担当している小田瑠璃です」
「小田瑠璃さん、よろしくお願いします。状況を教えていただいてもよろしいですか?」
「かしこまりました」
人混みの中に入り、ダンジョン前へと案内してくれました。
羽田空港から程近い、海辺の場所にダンジョンが発生したようです。
「海から二キロ範囲にかけて魔物が上がってきているのです」
「上がってきている?」
「はい。今回の魔物は海からきます」
「なんと!」
これまでも多くのダンジョンに行ってきましたが、海がダンジョンになっていると聞くのは初めてです。
「我々も初めての現象なので把握できていません」
「冒険者である我々は魔物の討伐を受け持てばいいですか?」
「お願いできますか? 我々は避難民の誘導をします。幸い、雨のおかげで海にこられていた方は少なかったので、被害は少なくすみそうです」
私は小田さんと別れて魔物の討伐に向かいました。
海から上がってくると聞いたので、半魚人のような化け物を想像していました。
「イカです」
《イカだね》
イカが足を使って上がってきます。
イカの足は八本あります。よく十本だと言われますが、残り二本は腕だと言われています。
「不気味ですね」
《美味しそ〜》
「ミズモチさんはブレませんね」
昔、ニュースでダイオウイカを見たことがあります。
あれが陸に上がってきて、ウニュウニュしておられます。
「少し気持ち悪いですが、行きましょう。ミズモチさん、行けそうですか?」
《ゴハン〜!》
「ふふ、ミズモチさんが大丈夫だと言うなら、安心ですね」
どれくらいのランクのダンジョンかわかりません。
それでも私とミズモチさんなら問題ないでしょう。
「白金さん」
私は武器を構えて、砂浜に降りて行きます。
「雨のせいで足場が悪いですね。ミズモチさんはどうですか?」
《大丈夫〜乗る〜?》
「お願いできますか?」
《は〜い!どうぞ〜》
ミズモチさんに乗せていただき、私はイカの元へと向かいます。
「側で見ると大きいですね」
他のダンジョンにいるボスたちに比べれば、それほど大きくはないのですが、気持ち悪いです。
とりあえず私はイカを白金さんで叩いてみました。
しかし、体がベトベトしていて攻撃が滑ってしまいます。
「なっ! ミズモチさんイカを凍らせて頂けますか?」
《は〜い! アイス!》
ミズモチさんがイカを凍らせて、私が叩く。
砕け散った氷は魔石に変わって、倒すことができました。
「ふぅ、何とか戦えそうですね。私もやってみます! アベ〜フラッシュ!」
私の顔面が光を放ってイカのボディーを焼いて行きました。
あれですね。
イカ焼きの匂いがします。
醤油があれば凄く美味しそうな香りがしそうですね。
《ウマ〜!》
焼かれたイカが、魔石に変わる前にミズモチさんが食されています。
どうやら普通のイカと変わらない味がするそうで、ミズモチさんの中に溶けて美味しくいただけるようですね。
「う〜ん、倒すのに手間がかかる上に数が多いのが難題ですね」
他の冒険者さんたちも苦戦しながら、戦っておられます。
イカに捕まって襲われる女性冒険者などはあれ〜されていて、目のやり場に困りますね。
「ミズモチさん、魔力は回復していますか?」
《ちょっと〜》
どうやら魔力の源は海の中にあるようで、砂浜にいる間は解決するまで、このモンスターパニックに耐え続けるしかないようです。
「他の方々を助けながら、魔力を温存する必要がありそうですね」
レベルが上がったおかげで、すぐに魔力が尽きることはありません。
ただ、こういう面倒な仕事は一番嫌ですね。
「ですが、誰もがやりたくない仕事ということは誰かがしなくてはいけません。ミズモチさん地道に退治することになりますが頑張りましょう」
《は〜い》
前にゴブリンのモンスターパニックがあった時は、他の高ランクの冒険者に助けてもらいました。
今は、私も高ランク冒険者になったのですから、皆さんを助けましょう。
「ミズモチさん、広範囲でアイスをお願いします。一気に叩き割って行きます」
《リョウ〜カ〜イ! アイス〜アイス〜アイス〜》
雨が降り、海辺であることも作用して、ミズモチさんが生き生きとして敵を凍らせてくれます。大技は温存してもらって初期魔法で敵を倒します。
「走ってください!」
《は〜い》
ミズモチさんが凍らせてくれたイカの間を走り抜けてもらって、私は白金さんで一気に壊して行きます。
敵が上陸しては砕くを繰り返していると、次第にイカの姿が少なくなり、ほとんど見なくなってきました。
「ミズモチさん。もうすぐです」
《任せて〜》
《キュイキュイキュイ!!!!!》
「避難してください!!! クラーケンです!!!」
上陸するイカが終わりかけたところで、さらに巨大なイカが現れました。
小田さんが砂場にいる冒険者に避難を訴えました。