見送りと出発
私たちのパーティーは現地集合をすることにしたので、現地にはミズモチさんと二人でいくことにしました。
どうしても仕事の関係上、皆さんと時間が合わなかったのです。
四人は、ハルカさんの車で向かったそうです。
ハルカさんは最近になって新車に買い替えたそうです。
ジープです! ワイルドですね。
みなさんで、旅行気分で楽しそうです。
私も一緒にいきたかったので、羨ましいです。
私は仕事以外に、もう一つの用事ができました。
ある人の見送りをするために、空港へ訪れています。
「よう、阿部君。わざわざ見送りなんて悪いな」
タケタクさんが、いよいよA国へ出発します。
テレスさんからメッセージで日時と時間が送られてきました。
メッセージだけで終わらせることもできましたが、知らせを受けて見送りに行かないわけにはいきませんね。
「いえ、タケタクさんとは共に戦ってお世話になりました。改めてありがとうございます」
「ああ、君は私の戦友だ」
「タケタクさんは、日本を代表するS級冒険者です。今後の活躍を、みんなが期待していると思います」
空港には、大勢の記者やファンが集まっております。
冒険者のトップが旅立つのです。
話題にならないわけがありません。
私は、テレスさんの根回しで、誰もいない場所で挨拶ができています。
「うむ。阿部君」
「はい」
「世界は、広い。君は海外に旅行に行ったことはあるか?」
「パスポートも見たことがありません」
「そうか。ならば一日でも早く海外を出て、世界を見てみるといい」
「どうしてですか?」
「この国はダンジョンが生まれても、平和なのだ」
平和は良いことではないでしょうか? 危険なことなど私もしたくはありません。
「それはいけないのですか?」
「平和は悪いことではない。ただ、危機感が失われるということは、成長を止めることにも繋がってしまうんだ」
「成長を止めてしまう、ですか?」
タケタクさんは、真剣な顔をして私を見ました。
「そうだ。平和であるなら、今を維持できればいい。平和であるなら、新たな発展など必要ない。平和というのは毒だ。それに浸りすぎるあまり、危険が迫っていても感知するための野生のカンが失われてしまう。ダンジョンは危険な場所だ。冒険者たちならそれを知っている」
ブランド物のスーツを着こなし、腕を組んで、前屈みで語る。
タケタクさんは、映画俳優のようにカッコ良いです。
五十才を超えても鍛え続けている体は、肩幅が広く、若々しい見た目をされています。
野生的と言えば、その通りの見た目をされていて、タケタクさんは多くの冒険者としての経験を積んできたことがわかります。
そんなタケタクさんだから、日本でトップに立ったから感じる何かがあるのでしょうね。
「一般の生活をしている者たちは、まるで地震や大雨のように、ダンジョンブレイクを天災として扱っている。それではダメなんだ。国民全員が一丸となって戦うような世にならなければ生き残ることは難しい」
「タケタクさんは、それをわかっていて、どうして日本を出てA国へ?」
「私は歳だ。だから、どこかで諦めてしまったのかもしれない」
「諦めた?」
「ああ、警鐘を鳴らしても聞こうとしない者たちに。彼らを守るだけの戦いを諦めてしまった」
タケタクさんは、側に置かれていたスーツケースを持って立ち上がる。
「阿部君。君はA国に来るつもりはないかもしれない。だが、旅行でも、遠征でもいい。外国を見てみろ。この国で生きる者には、見る事が出来ない景色が広がっているぞ」
タケタクさんは、語り終えると片手を上げて去っていかれました。
「ありがとうございます!」
私はタケタクさんに向けて頭を下げて見送りをさせていただきました。
「阿部様」
「テレスさん、ありがとうございます。タケタクさんに別れを告げられたことができました」
「明日から、A級試験を受けられるタイミングで、メッセージを送ってしまい申し訳ありません」
「先ほども言いましたが、タケタクさんに別れを告げらたことは感謝こそしても、謝られるようなことではありません。気にしないでください」
「ありがとうございます」
凄い美人であるテレスさんに見上げられるのは、緊張してしまいます。
カオリさんがいるので、好きにはなりませんが美人は迫力がありますね。
「それでは私も移動をしなければいけませんので、これで失礼します」
「はい。今後も何かあればお声掛けさせて頂きます。よろしくお願いします」
私はテレスさんと別れて、空港を後にしました。
本日は、このまま前乗りで千葉へ向かいます。
「ミズモチさん。タケタクさんも色々なことを考えておられたのですね」
《ヒデ! 大丈夫?》
「ええ、少しだけ自分は危機感に乏しかったかもしれません。タケタクさんの言葉でこれからのことを考えないといけないのかなって、思っただけです」
《一緒に〜!》
「そうですね。私にはミズモチさんがいます。カオリさんと三人で楽しく生きていけることを考えなければいけませんね!」
《ヤバっ! ナカマ〜!》
「はい! いつかは家族になりたいです」
私はタケタクさんと別の道を進みます。
私が決めた道です。




