相談は先輩に
本日は、ミヤコママがされている小料理屋を貸し切って、男ばかり五人で飲み会をするためにやってまいりました。
「阿部君がこのように誘いをしてくれるのは嬉しいよ」
そう言って長さんは楽しそうに一杯目を空にする。
「ふぅ、最近になってやっとこの味が美味く感じるようになってきたな」
私、長さん、元さん、ユウ君、タツヒコ君の順番で席についております。
タツヒコ君は私以外にも男性社会を知った方が良いと思って、今回の集まりを計画しました。
タツヒコ君は真面目なので、「師匠が言われるのであれば!」と意気込んできました。
どのような結果になるかわかりませんが、世界を広げるためには様々な人とコミュニケーションをとることが大切です。
流行り病のせいで、人と人との交流が減ってしまった昨今。
私は改めてコミュニケーションを取るための大切さを訴えたいと思います。
ただ、そこで自慢話をしたり、相手の話を聞かないことはよくないことだと思います。互いに取って利益になる集まりにしたいとは思っています。
そのため年齢はタツヒコ君の方が上ですが、冒険者として先輩のユウ君を隣につけました。単純に年が近いことが理由です。
あとはコミュニケーション能力の高いユウ君なら、タツヒコ君の友達になってくれるのではないかと淡い期待をしております。
「ふむ。それで? 君はとうとうA級の試験を受けるわけだ」
「そっそうなんです」
私は私で、隣に座る長さんからA級試験について聞ければありがたいと話を持ちかけたところ、飲みに行こうとなりました。
飲みに行くついでに、タツヒコ君とユウ君を誘ったというわけです。
元さんは、男子達からすればいるだけで憧れられると言いますか、全てが許せてしまう不思議な存在です。
「ふふ、元さん。いい飲みっぷりやわ」
元さんにお酌してくれるミヤコママが五人のバランスをとってくれて、ここを選んでよかったです。
「君の成長スピードは、黒山羊ダンジョンに挑んだ時から、我々を超えていることはわかっていたものだが、こうもすぐに並ばれると面目が立たなくて悔しくはあるものだ」
「いえいえ、まだまだ諸先輩方には教えていただきたいことがたくさんあります」
「君は強くなっても、ランクを上げても、態度は変わらないんだな。くくく、君らしい」
長さんは三杯目を一気に飲み干すと、出された佃煮を美味しそうに摘みます。
本日のミズモチさんの夕食は、カオリさんに頼んできましたので、今頃美味しい物をたくさん食べさせてもらっていると思います。
「そっ、それで? A級試験とはどんな物なのでしょうか? やっぱり危険で恐ろしいのでしょうか?」
「うん? ああ、それは君次第だと思うが、A級試験を受けるための資格と同様にチームのリーダーとして行動するだけだ。私であれば指示を出してチームを組んだ者を使い。元のやつは黙って背中を見せることで、チームを引っ張ったそうだ」
なるほど、リーダーとしてチームに指示ですか。
長さんや元さんがリーダーをしている想像をすれば、とても頼りになりそうです。二人の背中を見ているだけでついていきたいと思ってしまいますね。
「なるほど、リーダーの資質を問うわけですね」
「ふふ、君は心配しなくても良いと思うよ」
「そうでしょうか?」
「ああ、こうして年長者も、若者も、君の呼びかけによって集まっているではないか」
長さんが視線を向ければ、皆さんの楽しく酒を飲む姿が見れます。
タツヒコ君はお酒になれないようんで、目を回してユウ君に介抱されて、ミヤコママがおしぼりを渡しています。
ユウ君は最初の頃の危なっかしい雰囲気から、人の世話をするほどまでに成長を遂げられました。
元さんは変わらず大酒と食事を楽しむ姿は豪快です。
「年も、生きてきた人生も違う。ただ、冒険者という共通点だけの関係だ。それが取引先などと、互いに仕事を助け合う中であれば接点もあるだろう。だが、我々は個人個人で仕事を請け負う以上は馴れ合いも少なくなる」
確かに、冒険者という仕事は危険が多いのに反して、団体ではなく個人や少数で行動する方々が多いです。
「だが、君という橋渡し役がいるからこそ、我々は年齢も生き方も違えど、こうして集まることができた。それを人は、縁と呼ぶのだろう」
「縁ですか」
「ああ、君は縁に恵まれているんだろうな。さぁ今日は飲め飲め」
長さんに注いでいただいたビールを口につけて、私はふと考えます。
縁を与えてくれたのは、確実にミズモチさんです。
A級試験がどのようなものなのか不安でしたが、ミズモチさんと挑むのであれば、問題なく突破できてしまうような気がするので、不思議ですね。
「それにな、阿部君」
「はい?」
「最近は冒険者ギルド連盟も色々と大変なようだ」
「大変?」
「ああ、A級である我々もそうだが、多くの高ランク冒険者に海外からお声かかっているそうだ」
「海外ですか?」
「ああ、市場を大きさとでも言えば良いのかな。報酬額が全く違うそうだ。我々は、この国を愛しているから、海外に行こうと思うことはないが、この前に来てくれたS級冒険者」
「タケタクさんですか?」
「ああ、彼は海外へ移籍したと噂されているぞ」
「へぇーそうなんですね。まぁ、私には関係ありませんよ」
ミズモチさんと、ゆっくり暮らすためには私もこの国が一番です。