エレファントダンジョン 3
エレファントダンジョンに入って8時間ほどが経過しています。
トレントダンジョンや、いばらき童子ダンジョンなどで一晩を過ごしたことがある私としては、ミズモチさんと過ごすのはとても楽しいです。
ですが、三人は……。
「そろそろ、体力の限界です」
「そうだな。集中力も切れてきた。そろそろ今日も終わりにするか」
「うん。精度が落ちるのは危険」
どうやら体力や集中力の限界が来たようです。
本日はここまでですかね?
「それはそろそろ帰りましょうか」
「は〜い。今日は晩御飯、何食べようかな?」
「おい、まだダンジョン内なんだ。気を抜くなよ」
「油断は禁物」
「そうだね。藤丸警戒をお願い!」
《ワォーン》
仲良く帰路についている途中で私は違和感を覚えました。
いくら進行していたと言っても、マンモスが察知さんに引っかかりません。
こういう時の嫌な予感というものは当たるものです。
「みんな警戒してください」
「先生! わかってるよ。ちゃんと気を抜かずに帰ります」
「サナさん、そういうことではありません」
「えっ?」
「師匠?」
私の変化にタツヒコ君やサナさんが気づいたようです。
「来ます!」
察知さんに緊急警戒が感知されます。
「上です!」
空飛ぶマンモス!
巨大な一頭のマンモスが空から降ってきます。
可愛く耳で飛んでいるわけではありません。
巨大なマンモスが二足歩行で着地します。
手足の形は象のまま、ただ人のように二足歩行でマンモスが立っています。
「バラバラに逃げてください!」
私が叫ぶと同時に立ち上がっていたマンモスが地面に前足を下ろします。
その瞬間、地面が割れて身動きが取れなくなります。
「最悪ですね」
私はミズモチさんに乗って、一番近くにいた綾波さんを抱き上げました。
「講師!」
「綾波さん。すみません。いきなり抱き上げる形になってしまって。ですが」
視線を地面に向ければ、地割れを起こした地面となんとか、逃げることができたタツヒコ君。藤丸くんに助けられたサナさんが確認できました。
「どうやら、一番厄介な魔物ですね」
「どういう?」
「マンモスさんの魔法は地属性です。つまり、立っている場所を奪われるということは我々にとっては戦う場所を失うことになります」
今までの魔物よりも、最も厄介な相手かもしれません。
「綾波さん、あなたはどこまで離れて攻撃が出来ますか?」
「一キロが限界です」
マンモスさんが地面を割った距離は半径一キロほどです。
ギリギリのラインですね。
「では、二キロ先に下ろします。そこから攻撃を行ってください」
「えっ?!」
「自分の限界を超えてみてください」
「わっ、わかりました」
巨大なマンモスさんから離れるように、綾波さんを下ろしました。
「私は二人を救ってきます。その間に牽制をお願いします」
「わかりました!」
「ミズモチさん。お願いします!」
《はーい!》
ミズモチさんは割れた地面をものともしないで、走り抜けてくれます。
「タツヒコ君、無事ですか?」
割れた地面はグラグラと不安定になっていて、立っていることも難しい状態です。私はタツヒコ君を救出して、急いでその場を離れました。
「しっ、師匠。すみません」
「あれは規格外です。生きていたことを喜びましょう」
タツヒコ君と話ながら、サナさんに視線を向けます。
藤丸君が、サナさんを咥えてなんとか逃げようとしていますが、上手く逃げ切れていません。
「タツヒコ君。範囲外まできましたので、あとは綾波さんがいる場所まで避難しておいてください。私はサナさんの元へ向かいます」
タツヒコ君を少し強引に下ろして、私はミズモチさんとサナさんの元へ向かいます。
ですが、巨大マンモスが、また立ち上がる動作をしています。
「サナさん、藤丸君!」
「先生!」
まだ距離があります。
涙目でこちらを見るサナさん。
「ウォー!!!!変身!!!」
私は勢いに任せて、変身して白金さんに全魔力を注ぎました。
「刺突!!!」
全力で白金さんを伸ばして、巨大マンモスが立ち上がった体を押し込みます。
「ミズモチさん!」
《全力だーー!!!》
ミズモチさんが足場になって私を押し込んでくれます。
巨大なマンモスは立ち上がって不安定だったこともあり、そのまま後ろに倒れていきました。
「凄っ!」
サナさんが驚いた顔をしています。
私は、ミズモチさんに魔力を補給してもらって、すぐにサナさんと藤丸君をミズモチさんの上に引き上げて避難しました。
巨大なマンモスは、私たちが避難している間に立ち上がってこちらに身構えるような素振りを見せています。
「先生! 凄い!」
「しっ、師匠、頭に角が」
「渋っ!」
三人をどうにか救出できましたが、相手の強さが、黒山羊さんに匹敵します。
「皆さん、今回の相手は強いです。正直、私でも倒せるかわかりません。皆さんの協力が必要になります」
ミズモチさんと二人で戦えば勝てるかもしれません。
ですが、これも一つの経験です。
足手まといだと、彼らを突き放しても彼らの成長にはなりません。
「今から、あれと戦います。自分たちができることを全力で考えてください」
危機的な状況になった時ほど、それぞれの成長の真価が問われる時です。
三人の力を見せてもらいます。