表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/237

お見送り

 日暮過ぎについた湯涌温泉街は風情があるお宿がたくさんあります。

 九つあるお宿の一つにチェックインして、部屋にある露天風呂からは、川の流れと山の緑を見ることができました。


「とても綺麗なところですね」

「ええ、私も来るのは初めてですが、凄く素敵なところです」


 昨日は、勢いで一緒に入ってしまいましたが、本日はミズモチさんと三人で露天風呂に入ることにしました。

 ミズモチさんがいるおかげで、本日はそのような気持ちになることなく、露天風呂を堪能することできました。


「夕食をお持ちしました」


 仲居さんの声がして、夕食が部屋への運ばれてきます。懐石料理をお願いしていたので、美味しい刺身や天ぷら、蒸された野菜、メインはカニです。


 締めには、一人用の蟹釜飯が出されました。

 

 立派な蟹は普段は食べることができないので、凄いです。しかも石川県の蟹はとても身が分厚くて美味しいです。


「最初はやっぱりビールですね」


 露天風呂で温まった体に、冷えたビールが最高に気持ちいいです。

 

「ふぅ、美味しい料理に美味しいお酒は合いますね」

「ええ、これが一番最高です」


 ミズモチさんは満足してもらうために、三人前を注文しています。

 それでも、どんどん食事が消えていくので、ミズモチさんが満足しているのがわかります。


「石川の日本酒も絶品ですよ」


 仲居さんが進めてくれた日本酒と共にカニの甘みを味わえば、最高の相性ですね。


「本当に美味しいです」


 食事とお酒、目の前には美人なカオリさん。

 そして、テーブルにはミズモチさんがいて、私は幸せの絶頂です。


 気づけば、二人でビール瓶を2本と冷酒を一人、4、5杯ほどいただいてしまいました。


「ふぅ、堪能しましたね」

「ええ、満足です」


《ウマ〜!!!》


 三人で美味しい懐石料理とお酒を楽しみ、隣の部屋にあるベッドへダイブしました。

 お昼過ぎまで寝ていたのですが、それでもお酒の力と昨日の疲れのせいでしょうか、すぐに眠りについてしまいました。


 朝早くに目が覚めた私は顔を洗いたくて、露天風呂に入っているとカオリさんがやってきました。


「今日は早いですね」

「昨日は寝てばかりでしたから、楽しい時間というものはすぐに過ぎてしまうものですね」

「そうですね。また来たいって思えるぐらい楽しかったですよ」

「それはよかったです。ダンジョンに行って、予定を消化できていないので、申し訳なかったです」

「いいえ、ヒデオさんが冒険者を続けている間は、待つことが私の役目だと思っています」


 カオリさんの言葉に私は救われた気がして、自然にキスをしてしまいました。

 ミズモチさんと三人で、こうやって旅行に来れて本当によかったです。


 早かったので、二人で辺りを散策しました。朝食はあさげと湯豆腐、焼き魚など、お腹に優しい食事に満たされました。

 

 旅館の方にタクシーを呼んでもらいました。


 帰る電車までの時間は、地元出身だというタクシー運転手さんに観光地を巡ってもらって、タクシー運転手さんが知っている一番美味しい店を紹介してもらいました。

 

 意外に、お寿司屋さんではなく、ハンバーグのお店でした。味付けの仕方が違うのか、本当においしかったです。


 カオリさんも味付けについて真剣に考えておられていて、見ていて面白かったです。カオリさんは料理をするのが好きですからね。


「1日ありがとうございました」

「また来なさい。今度は洋食の美味い店に連れて行ってかいな」

「はい。よろしくお願いします」


 最終日の旅行ガイドをしてくれたタクシー運転手さんから名刺を受け取り、本日のお礼と別れを告げました。

 

 私、タクシーで一日中走り回ってもらう旅行を初めてしましたが、これはこれで良いものですね。しかも、それほど高くありませんでした。


「1日6000円ほどで、ここまで色々としてもらって悪い気がしますね」

「凄く贅沢なことをしている気分になりますけどね」

「ええ、私も思いました」


 カオリさんと二人でタクシーを贅沢に使った気分になりました。

 ミズモチさんは、どこに行っても何か食べておられたので、金沢お茶屋街に行った時は、お茶よりも団子や抹茶アイスを楽しんでおられました。


「金沢とも、そろそろお別れですね」

「はい。色々ありましたね」

「ええ、ドタバタとしていたような、ゆっくりとできたような」


 私たちが談笑しながら駅に入っていくと、冒険者ギルドマスターさんと受付さん、それに金沢ダンジョンにいた職員さんなど、見た顔の人がチラホラとおられました。


「やぁ、阿部さん」

「直江ギルドマスターさん?」

「阿部さんが、金沢を離れると聞いてね。タクシー運転手もこちらで用意させてもらった」

「そうだったんですか?」

「ああ、快適な旅はできたかい?」

「はい。おかげで様で楽しめました」

「それはよかった。では、改めて」


 直江ギルドマスターが、私から距離を取ると、受付さんたちが一列に並んで、一斉に頭を下げられました


「えっ?」

「金沢ギルド一同、阿部秀雄B級冒険者に感謝を」

「「「「ありがとうございました!!!」」」


 直江ギルドマスターの粋な計らいにカオリさんと二人で唖然としてしまいました。


「こっ、これは」

「安心して欲しい。この場にはマスコミや、君の名を広めるような者はいない」

「それはまぁ」

「だから、素直に受け取ってくれ。私たちの感謝を」

「わかりました。皆さん。金沢は最高です!ありがとうございました!」


 私も大きな声でお礼を口にして、新幹線へと続く改札を通りました。

 まさか、金沢に来たときは、これほど多くの方に見送られるなど思いもしませんでした。


「良い旅でしたね」

「はい。カオリさんとミズモチさんと来れて本当によかったです」


 休みはまだ残っていますから、あとは東京でゆっくりできればいいですね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ