金沢城の化け狸ダンジョン 3
中ボスらしき、黒狸を倒した後は、奇襲や火縄銃による遠方からの攻撃が続きました。
それでも、なんとか全ての攻撃を防いで、ミズモチさんと二人で乗り越えてきました。
「城の前に到着です」
見上げればとても大きくて、昔の人は凄い物を作ったんだと思えば、感心してしまいますね。
「ミズモチさん疲れていませんか?」
『大丈夫〜! 楽しい〜! ゴハン〜!』
「ここにいるとミズモチさんはお元気ですね。魔力も充実してきましたか? お腹いっぱいで挑むなら、負ける気がしませんね」
私たちは城の中へ入ろうと門へ手にかけようとして違和感を覚えます。
巨大な城門が全く開く気がしません。
「あれ? 開きませんね」
『ヒデ! ゴハン!』
「えっ? ゴハン?」
私はミズモチさんに言われて、上を見上げました。
そこには巨大な狸がこちらを見下ろしていました。
黒狸は大きいと思っていましたが、城は一匹の狸だったのですね。
「城狸?」
天守閣だった場所は狸の顔になり、城門は胡座を描いて座っていた狸の足でした。
「これはこれは」
立ち上がった城狸はビッグバットコウモリほどではありませんが、かなりの大きさがあります。
「ミズモチさん。巨大化していただけますか?」
『任せて〜!』
ビッグバットコウモリの時は大きさが全く足りていませんでした。
ですが、スキルで肥大縮小(中)を手に入れたことで、ミズモチさんは狸に負けないほどの大きさまで大きくなれています。
「これは凄いですね」
ミズモチさんの上に載っている私は落ちたら死ぬでしょうね。
金沢の駅前にあるビルよりも目線が高いです。
金沢駅周辺が見下ろせてしまいます。
とても綺麗な町ですね。
『ウユーーーーーーーン!!!!!!!』
城狸さんが大きな声で鳴きました。
「A級以上の魔物はやはりビリビリと怖さを感じますね」
先ほどの黒狸は怖いと思いませんでしたが、城狸は怖いです。
その太い腕も、獰猛な声も、威圧もビリビリと圧を感じます。
ただ、つぶらな二つの瞳はどうしても可愛く見えてしまうので、不思議ですね。
「ミズモチさん。あの巨体が暴れ回れば、街に被害が出てしまいます。この場から動かしたくないので、最初から全力で行きますね」
『任せて〜ヒデ!イケー!』
「合成魔法スノープリズン」
無数の氷で出来た鏡が城狸の周りに出現して、城狸を囲いこみました。
『ウユーーーーーーン!!!!』
氷の鏡に光を放とうとすると、城狸が燃え出して全身から火を吹き出しました。
「なっ! なんです?」
今までの魔物もそうでしたが、城狸は変身できるだけではなく。炎を使うことができるようです。
「最悪ですね。私たちとの相性が悪い相手です」
光と炎は似ているので効果が薄く。
氷は溶かされてしまいます。
『ヒデ! 任せて〜!』
「ミズモチさん?」
ミズモチさんは、燃える城狸に無防備に近づいていきます。
「何をするんですか? 危ないですよ?」
『大丈夫〜!』
ミズモチさんがそのまま城狸に接近して、触れ合う距離まできました。
城狸は燃え盛る腕を振り上げて、ミズモチさんを殴りつけました。
「ミズモチさん!」
ですが、殴られたミズモチさんは吹き飛ぶどころか、城狸の腕を飲み込んでしまいました。
「えっ?」
食べているわけではありません。
ミズモチさんが取り込んだ腕は炎が鎮火されています。
「あっ!」
本来のミズモチさんは水属性です。
最近は氷の魔法ばかり使っていたので、忘れていました。
腕から、徐々に城狸さんがミズモチさんの中へと吸収されていくのを見るのは、かなり凄い光景でした。
怪獣同士のぶつかり合いは、私の願いを聞き入れたミズモチさんが相手を街へ向かうことなく制圧するために吸収することを選んだようです。
「ミズモチさん、凄いです!」
金沢城公園に来てから、ミズモチさんが改めて強く成長していることを感じます。
『ヒデ! トドメ〜!』
半分以上がミズモチさんに飲み込まれた城狸の頭部が私の目の前にあります。
「お膳立てありがとうございます。城狸よ、あなたに恨みはありませんが、勝負をつけさせていただきます。白金さん!」
私は自分の体に残された魔力を全て、白金さんに注ぎ込んで攻撃力を最大限まで高めます。
ミズモチさんに捉えられた城狸は抵抗するために、頭に炎をつけて睨みつけてきますが、今の私は恐怖を感じていません。
「私にはミズモチさんがいます。あなたのことを怖くありませんよ」
白金さんを振り下ろすと炎を纏った城狸の脳天に叩きつけました。
城があった場所から一歩も動くことなく決着をつけられたことは本当によかったです。
「ハァ、結構時間がかかってしまいましたね。カオリさんはもう寝ていてくれるとありがたいです」
私たちが金沢城公園から出ると、道路には大勢の人で溢れておりました。
「あっ、あの、何があったのですか?」
私は近くにいた警察らしき人に問いかけました。
「すぐに避難してください! 金沢城ダンジョンのボスモンスターが暴れているので、いつ街に出てくるのかわかりません」
「えっ?」
どうやら、怪獣対決を見た人たちが逃げているようです。
私はこの騒ぎを止めるために、金沢冒険者ギルドへ向かうことにしました。