再会
ギルドへ入会することにしました。
冒険者ギルドの一室を借りているパーティールームに、本日はお邪魔することを長さんに告げて訪れました。
長さん、元さんが二人でギルド長を務めているギルド名は《ホープ》と言います。
二人の思想を表した言葉に、私は胸が熱くなるのを感じました。
「失礼します」
《ホープ》のパーティールームへ入りました。
そこには数名の男女が、滞在しておりました。
それは長さん、元さんの思想に賛同した人々が、集まったのですね。
「阿部秀雄、本日ギルドに入会させて頂きました。よろしくお願いします」
「よくきたね、阿部君。ようこそ、我がギルドへ。ホープは君を歓迎するよ」
長さんが出迎えてくれて、他の方々が拍手をしてくれます。
誰かに出迎えてもらえるって嬉しいのですね。
「このパーティールームは、ギルド員であれば誰でも使うことができる。寝床にしてもいいし、住んでもらってもいい。奥には個室もいくつかあるからね。仮眠室として使ってもらっている。あとは掲示板だね。冒険者ギルドのアプリを開いてくれるかい?」
長さんがギルドの説明してくれるので、私は冒険者ギルドのアプリを開きました。
「新しく、ギルドと言う項目が増えていると思う」
「はい! 増えています」
「それをタップしてもらえると、掲示板とギルド所属メンバーのプロフィールが見えるようになっているから確認してくれ。あとは、運営費だね。我々は若者を応援したいと思っている。だから、一年間はルーキーとして運営費はもらっていない。だが、一年を過ぎた時点で、運営費は、一ヶ月の報酬から3パーセントを上納してもらいたい。もちろん、怪我や諸事情で仕事をしていない期間は上納をしないで大丈夫だ」
「それはかまいません」
今までは長さんや元さんの稼いだお金でギルドを運営していたそうです。
最近は一年を超えた方もチラホラと増えてきて、活動資金が増えたと教えてくれました。
「阿部君はその見た目だが、まだ一年目だからね。運営費は来年からで大丈夫だ。本当に規格外の男だよ、君は」
一通りの説明を終えた長さんは、今日来ているギルドメンバーの紹介をしてくれました。そこには久しぶりに会う三人の顔がありました。
「君たちは知り合いだったね。彼ら三人は幼馴染でパーティーを組む《ジャスティス》だ。彼らもルーキーだが、君に次いで優秀だからね、ギルドとしても私個人としても期待しているよ」
私は、シズカさんと視線が合いません。
少し気まずい思いになります。
それを見て、ユウ君が前に出ました。
「阿部さん、お久しぶりです。前に話した通りギルドに入ることができました」
ユウ君は、ギルドに入りたいと言っていたので希望を叶えたのですね。
「ええ、おめでとうございます」
「はい。今後は同じギルドメンバーとして協力していきましょう」
そう言って手を差し出されて、私はユウ君と握手をしました。
「私もよろしくお願いします」
そう言ってコウガミさんが続いて、握手をしてくれました。
最後にシズカさんが一歩前に出て手を差し出してくれました。
「よろしくお願いします」
私の方から声をかけさせてもらいましたが、シズカさんは何も言わないで手を離してしまわれました。
「ここには来ていないが、梅田君も在籍しているんだ」
「ハルカさんも、それは心強いですね」
「うむ。まだまだ小さなギルドだが、戦力的には、この冒険者ギルドでも一番だと思っているよ。だからこそ皆で盛り上げていきたい。君にも期待しているよ、阿部君。あとはゆっくりとしていってくれ」
長さんと離れて、私はふと空いていた席に座りました。
ギルドの穏やかな雰囲気なのは、長さんや元さんの人柄があってこそなのでしょうね。
それに新人や、新参者をどんどん取り入れて、支援するシステムは、新人にはありがたい話ですね。先輩の話が聞けて、危険も減ります。
タツヒコ君やサナさんも誘ってみましょう。
「……ヒデオさん」
「シズカさん、どうしました?」
私が休憩していると、シズカさんに声をかけて頂きました。
「座っても良いですか?」
「はい、もちろんです」
私が承諾すると、シズカさんは隣の席に腰を下ろしました。
「お久しぶりです」
座った後、黙ってしまったシズカさんに、私の方から声をかけさせてもらいました。
「はい、どんな顔でヒデオさんを見れば良いのかわからなくて、先ほどはすみませんでした」
「全然気にしていませんよ。私も少しだけ気まずいなって思いましたから」
神妙な顔をするシズカさんに私は茶化すような物言いをする。
「ヒデオさんも?」
「はい。ずっと、シズカさんは私に寄り添ってくれていました。そんなシズカさんの顔を、私が悲しませてしまっているのだと思いました」
私は駆け引きなどと言うものはできません。
好きや嫌いは人の気持ちです。
最近は蛙化現象と言って、好きだった人に対して、急に幻滅することもあるそうです。私たちの時代であれば百年の恋も醒めると言うことでしょうか?
ですが、シズカさんは私を勝手に好きでいると言ってくれました。
私を好いてくれた人を、私は嫌いにはなれません。
だからこそ、悲しい顔をしてほしくない。
「ヒデオさんがさせているわけでは……、私が勝手に……」
「いえ、きっと私がさせているんだと思います。そうであって欲しい、これは我儘です」
「ヒデオさんの、我儘?」
「はい。シズカさんの気持ちを私で悲しませていると言う我儘です。本当は違うかもしれません。もう、シズカさんは私のことなど想っておらず、私のことなど好きじゃなくて、好きだと言ったことを後悔した顔をしているだけかもしれない」
「違います! 私はヒデオさんを、あっ」
私の言葉に反論しようとして、シズカさんの声が大きくなります。
「ありがとうございます。シズカさんに思われていることが私にとって幸せです。そして、シズカさんが笑顔でいてくれることが私にとってもっと幸せです。だからあなたの元気を奪った原因は全て私にあります。罪は全て、私でありたいと言う我儘です」
「あっ!」
どこまでも私の我儘です。
好きだと言われても叶えてあげられない。
好きだと言われたことを逆手にとって、相手に笑顔を強要する。
「……あなたはどこまでも優しい人ですね」
悲しみと笑顔が混じり合ったようなシズカさんの笑顔に、私はそれ以上何も言わずにシズカさんの言葉を待ちました。
「わかりました。全てはヒデオさんのせいです」
「はい。私が悪いです」
「だから、全ての罪を背負ってもらって、私は笑います」
「はい、ありがとうございます。私の我儘を聞いて頂き」
シズカさんは優しい人です。
自分の中で抱え込んで、時間の経過で心を癒していく。
私など、すぐに記憶の彼方に消え去って忘却されていくでしょう。
だが、それでいい。
彼女にとって重荷にならなければ…… 私たちは穏やかな雰囲気で、温かなお茶を楽しみました。




