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二人目の教え子

 会社に行って仕事をしていると、日常が戻ってきたように感じます。


 四月に入りましたが、うちの会社に新入社員と言う概念はありません。というか、ニュースを見ていると世間は人手不足だそうです。


 若い子達もわざわざ我が社を選んで仕事に来ることはないでしょうね。


 ダンジョンが出現して、危機的な環境が増えつつあります。

 世間的に、危機的な状況になると人は本能的に生存本能が高まるそうです。

 私は子供が好きなので、出来れば自分の子供が欲しかったりもします。


 チラリとカオリさんを見れば、本日も薄化粧でお綺麗です。

 個性的なカオリさんが懐かしいと感じるほど、最近は見ていません。


「ふふ、いいわね。会社がピンク色に見えるわ」

「お疲れ様です。三島さん」

「お昼行って来るわね。あっそうだ。阿部さん」

「はい」

「お付き合い出来て良かったわね。応援しているわ」


 えっ? どうして知っているんですか? カオリさんも首を横に振っています。


「わかるのよ。そういうの。とにかく応援しているわよ」

「あっはい。ありがとうございます」


 三島さんはいつもどこから情報を仕入れてくるのでしょうね。


「私たちもランチにしましょうか」

「はい、いつもありがとうございます」


 私がお茶を淹れて、カオリさんが食事の用意をしてくれます。


「それにしてもヒデオさんがお弟子さんを持つなんて、不思議な感じですね」

「そうですね。私も弟子というよりは、新入社員に仕事を教えているような印象です」

「ふふ、そこは冒険者さんではなくサラリーマンなんですね」

「ええ、私の考え方の基本は会社ですから、20年近く働いてきましたからね。そこはなかなか変わることがないと思います」


 私の土台にあるのは、結局はこの会社だと思います。

 好きな会社かと聞かれたらそうではありません。

 ですが、この会社に育てて頂いた自分ではあると思っています。


「ふふ、ヒデオさんが指導する方が、まだまだ増えそうですね」

「それはどうでしょうか? タツヒコ君だけでも手一杯な気もしますが」


 カオリさんと楽しいランチを終えて、仕事から帰る途中、冒険者ギルドに足を向けました。

 タツヒコ君と明日から予定を話し合うつもりできたのですが、私が見つけたのは、童灯さんの姿でした。

 講習の時は、タツヒコ君のお世話をして最後は慌ただしく別れてしまったので気になっていました。


「童灯さん。こんばんは」

「あっ、阿部先生」

「先生?」

「はい。講習を担当してくれたので、私にとっては先生です」

「なるほど、あまり先生と言われることには慣れていませんが、童灯さんに言われると悪い気がしませんね」

「へへへ」

「それで? 本日はお仕事帰りですか?」

「そうなんだけど、上手くいかなくて」


 おや、どうやらミッションを失敗してしまったようですね。

 確かに、テイマーはテイムした魔物さんの活躍に頼ってしまうところがあります。私もミズモチさんにいつも頼りきりで、自分自身が強くなったのか、自信がありませんでした。


「なるほどですね。どうしてもテイマーは自分自身はそれほど強くなれません。ですから魔物と戦うことも大変ですね」

「そうなんです。魔石を集めるためにも、魔物を倒さなくちゃいけなくて、藤丸は頑張ってくれるんですけど、私がダメダメで」


 落ち込んでいる姿を見ると、どうにかしてあげたいという気持ちになりますね。ユイさんからも面倒を見てあげてほしいと頼まれていました。


「童灯さん、もしよろしければ、私たちと一緒に行動をしませんか?」

「えっ? どういうことですか?」

「私は、タツヒコ君に冒険者として指導を行っています。もしよろしければ、童灯さんもタツヒコ君と一緒に私の指導を受けませんか?」

「いいの?」

「ええ、一人も二人も同じです。それにテイマーは最初は大変ですからね」

「お願いします!」


 立ち上がった小柄な童灯さんが頭を下げる。


「一人でどうしたらいいのか分からなかったの。みんな年上の人で、どうしていいのか、わからなかったの」

「気づいてあげられなくて、すみません。もしも、私たちのやり方が合わなくても、ある程度レベルが上がって独り立ちするまではお付き合いしますので、一緒に頑張りましょう」

「お願いしますの!」


 私は童灯さんを連れて、タツヒコ君と待ち合わせをした冒険者ギルドの打ち合わせ室に入りました。


「うわっ!人が死んでますの」

「えっ?」


 意気揚々と扉を開けてくれた童灯さんが、悲鳴をあげる。

 中を覗いてみると、タツヒコ君が床に倒れていました。


「タツヒコ君!どうしたんですか?」

「あっ、師匠。すいません、ちょっと寝不足で寝てました」

「どうしてこんなところで?」

「はは、すいません。師匠と約束があったので、ここまでは来たんですけど、もう我慢ができなくて寝てしまいました」

「どうして寝なかったんですか?」

「家に、帰ると何故かカリンさんの顔が浮かんで、思い出すたびに頭を壁にぶつけたくなるんです」

「あ〜」


 私はなんとなく察してしまったので、タツヒコくんをそっと床に寝かせました。


「あなたは今週は休みなさい。寝れるなら寝てしまいなさい」

「えええ!!いいんですか?」

「すみません。お休みなさい」


 驚く童灯さんに、私はそっと部屋を出るように促して、童灯さんにタツヒコ君に起きた出来事を伝えました。


「初恋が実らなかったのですよ」

「あっ! 全て理解しました!」


 童灯さんは察しの良い子です。

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