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Wデート?

 作業着姿を見慣れたカリンさんは、春らしい淡いグリーンのスカートに白いブラウスで、いつもの雰囲気とは違う女性らしさに私もドキドキです。


 カリンさんの後ろを歩くユイさんは、ウエスタンブーツ、ダメージジーンズ、皮のジャケットを羽織っておられます。イメージよりもワイルド衣装なのですね。


 独特なセンスだと言っていたのは、普段のインフォメーションでは清潔感と安心感を纏っているようなユイさんとはまた違う雰囲気をされているからだったのですね。


 これはこれで良いと思います。


「今日はユイも休みだったから連れてきたよ。待たせた?」

「いえ、全然待っていないです。お時間前に来て頂きありがとうございます。ユイさんも来て頂いてありがとうございます」

「いえ、ご協力できることがあれば嬉しいです」

「それでは、本日はタツヒコ君にお洋服のセンスを教えて頂ければ嬉しく思います」


 タツヒコ君は相変わらず、私の後ろで「綺麗だ!」と呟いておられます。

 人はすぐに変われるものではありませんから、仕方ないですね。

 

 私とカリンさんがメインで話をして、ユイさんがたまに相槌を打ってくれる。

 そんな流れの中で、服屋さんにつきました。

 どこかおしゃれな服屋に行くのかと思いましたが、私も愛用している某有名チェーン店でした。


「ここでいいのですか?」

「阿部さんは何か勘違いしているみたいやけど、おしゃれなんてせんでもええと思うよ。そうやな」


 カリンさんがタツヒコ君の顔を覗き込みます。

 タツヒコ君は、身長170センチぐらいで、カリンさんは160センチぐらいです。

 二人の身長差は10センチほどで、タツヒコ君は魅力の効果で体は引き締まり、顔も幼さを残した可愛い顔に変貌を遂げました。 ※バランスだと『良い/悪い』とか


 綺麗なカリンさんと並んでも遜色はありません。


「うん。素材は悪くないと思うよ」


 カリンさんの品定めに、タツヒコ君は背筋を伸ばして、顔を真っ赤にして応じておられました。余計なことを口にしないのも一つの方法なのですね。

 

 カリンさんに連れて行かれたタツヒコ君は、鏡の前で様々な衣装をチェンジしながら着せ替え人形のようです。


「本日は私まで来てしまってすみません」

「いえ、むしろこうして私の話し相手になって頂きありがとうございます」

「ふふ、ヒデオさんは私のお願いを聞いてくれたんですよね? 山田さんの師匠になってお世話をして頂きありがとうございます」


 ユイさんは、タツヒコ君を私に託した責任を感じていたのかもしれません。

 本日は、自分が言い出した願いの結果を見に来たのでしょうね。


「いえ、タツヒコ君は悪い子ではありませんよ。多分、今まで多くのすれ違いを経験してきたのだと思います」

「すれ違いですか?」

「ええ、見た目によって蔑まれ、自身の劣等感により態度で誤解され、様々なことが悪い方へ重なってしまったのでしょうね」

「そんな風に思って接することができるのは、ヒデオさんだからだと思います」

「えっ?」


 ユイさんが真剣な瞳で私を見つめていました。

 私は何も特別なことをしていません。

 社会に出れば、ある程度人の観察ができる人であれば気づいてあげられたことだと思います。

 ですが、集団心理とは怖いもので、全員が彼を弾き出してしまうと、他の人たちも彼を弾かなければ今度は自分が集団から弾かれてしまうと思ってしまう。


「ヒデオさんは人の苦しみをわかってあげられる人だから、タツヒコ君もヒデオさんの話を聞こうと思ったんだと思います」


 それはどうでしょうか? 最初は威圧で脅しましたからね。


「それは過大評価ですよ。私はただ、諦め続けてきた人生なだけです」

「諦め続けてきた?」

「ええ、学生時代は平凡で、社会人になって苦しい環境でも、その場から逃げ出すことができなくて、ただ諦め、流されてきました」


 本当にミズモチさんと出会っていなければ、ユイさんと出会うこともなく。

 今の自分はありえないと思っています。

 変わるキッカケを得られた私は幸福です。


「私が知っているヒデオさんは、一番諦めの悪い人でしたよ」

「えっ?」

「誰もが、最弱だと言ったスライムと生活をして、冒険者として過ごしています。それも他の誰よりも功績を残して、人を助け、諦めが悪い人です」


 ユイさんにそのように評価されていたとは知りませんでした。


「そんなヒデオさんだから、私は……」

「二人とも、そろそろ見てあげてよ」


 ユイさんが何かを言おうとしたところで、カリンさんに呼ばれました。


「はい、すぐに行きます。ユイさん行きましょう」

「ええ」


 タツヒコ君は、魅力の影響で塩顔男子へとクラスチェンジを果たして、チェック柄のシャツに、緑色のパンツを来て、春らしく可愛らしい男になりました。


「どう?」

「いいと思います。可愛いですね」

「ええ、すごく似合っていると思うわ」


 私とユイさんが褒めると、カリンさんは満足そうにして、タツヒコ君は終始無言のまま硬直していました。


 カリンさんが積極的に話しかけてくれているので、緊張はしているようですが、タツヒコ君でもなんとか対応できているようです。


 ふと、私は思った疑問をカリンさんに小声で問いかけてみました。


「手慣れているのですね」

「うん? まぁね、弟がいるし、彼氏の服とか買うことがあるからね」


 カリンさん! 彼氏いたんですね!

 タツヒコ君、すみません。

 あなたにカリンさんとの、春が来ることはなさそうです。


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