コボルトダンジョン 後半
タツヒコ君は囲まれてしまっています。
ミズモチさんの援護があると言っても、タツヒコ君の必死に戦う姿は決して笑われるような人ではありません。
ただ、不器用で人との接し方を知らない人だと伝わってきます。
五体のコボルトに対して、タツヒコ君は逃げるのではなく、息を整えて覚悟を決めた顔をしました。
それが無謀なことだと思っていても、最初から逃げようとする人は逃げることも難しくなります。
タツヒコ君の覚悟は、間違っていません。
もちろん、そこにレベルが伴っていればですが、ミズモチさんが補ってくれます。
一匹目のコボルトは剣を持っており、二匹目は盾を、三匹目は槍です。
前衛を務めるコボルトはバランスが良く。
魔法を使えるコボルト、弓を使うコボルトが後ろに控えます。
「やってやるよ!来いよ!」
まず、タツヒコ君が威勢よく言葉を発してすぐにコボルトに背中を見せて走り出しました。覚悟を示してからの、逃げの一手は悪くありません。
他勢に無勢な状況で戦う気概を見せたため、相手も意表を突かれたようです。
背中を向けて走るタツヒコくんに弓が射られました。
矢は当たることなく木にぶつかって地面に落ちてしまい、慌てたコボルトソードが追いかけます。
一匹だけになったコボルトソードを、タツヒコ君が木の影から奇襲して倒しました。続いて、現れたコボルトランスからは、また木を使って逃げて物陰に隠れます。
コボルトアーチャーやコボルトマジシャンは、隠れてしまったタツヒコ君を捉えられるほど正確に放てるわけではなく。
唯一タツヒコ君の攻撃を防げそうなコボルトガードは、ミズモチさんが魔法を使って撃破してからタツヒコ君について行っていきます。
問題に対して、対処する力は十分に持っています。
戦う気概もあり、ミズモチさんから見る視線と違って近くで見ていると、それほど遅くもありません。
どうやら、ミズモチさんの視点では、タツヒコ君もコボルトたちもゆっくりと見えているのですね。
さすがはミズモチさんです。
「おりゃ!」
タツヒコ君が気合いと共に、コボルトランスを倒したようです。
さすがは勇者のジョブですね。
全身の能力が向上しているようなので、レベル1でも戦うことができています。
「ハァハァハァ」
ただ、戦いの緊張感に慣れていないタツヒコ君の精神状態の方が、体よりもついていけていない様子です。息を切らしてしまっています。
「オラっ! あとはお前らだけだ」
前衛がいなくなったアーチャーとマジシャンが、タツヒコ君が出てきたことにビクッと威圧に怯える。
それでもアーチャーが牽制するために弓を放ちました。
ミズモチさんが矢を魔法で打ち落としました。タツヒコ君も、ミズモチさんに守られていることは理解している様子で、驚く素振りを見せていません。
「はっ!」
タツヒコ君とミズモチさんの連携で、コボルトアーチャー、コボルトマジシャンを撃破することに成功しました。ここまで十体以上のコボルトを倒してきたタツヒコ君。
「あっ、レベル上がった」
レベルアップの宣言を聞いて、私は姿を見せました。
「どうやら、レベルが上がったようですね」
「あっ、師匠。いたんですか?」
「ええ、最後の戦いを見させて頂きました。ピンチに対して素晴らしい対処でした」
素直に賞賛を口にすると、タツヒコ君は顔を俯けてしまいました。
「師匠に守られていたのはわかってるよ。それにミズモチさんにも助けられた。僕が危ないって思ったら、ミズモチさんが魔法を放って倒してくれてた」
きちんと状況を分析して、自分の欠点を理解できるのも素晴らしいです。
タツヒコ君は頭がいいのだと思います。
これまで彼が人と上手くいくことができなかったのは、多少は見た目の問題もあったのだと思います。
彼自身の心にも責任はあるかもしれませんが、見た目から彼のことを判断した人が色々と態度を変えたからなのでしょうね。
「ステータスを開けますか?」
「はい」
名前 ヤマダ・タツヒコ
年齢 23歳
種族 人
レベル 2(SP15)
職業 ブレイブ
能力 聖属性
恩恵 逆境補正
レベル 2(SP15)
SPをタッチすると項目が現われました。
・攻撃強化+1
・防御強化+1
・魔法強化+1
・魔法防御強化+1
・自身の回復(小)
・剣術基礎
・聖魔法基礎
・魅力(小)
あれ〜おかしいですね。
私よりもスキルが少ないですね。
それにポイントも少ないです。
半分しか取れません。
「身体強化とかと魔法を強くするのがいいよな?」
「待ちなさい」
「えっ?」
「スキルは特殊な物です。レベルを上げれば身体強化は勝手に行われます。ですから、ここで取るべきスキルは四つです」
「四つ?」
「はい。タツヒコ君に必要なのは、自身の回復(小)、剣術基礎、聖魔法基礎、魅力(小)にしなさい」
「ええ!!剣術と聖魔法はわかるけど、後の二つは戦闘に関係ないんだけど」
私にはわかります。
魅力(小)はここで取っておかなければ、絶対に後悔することになります。
「まっまぁ、師匠が言うならその通りにするけど」
渋々といった様子で、タツヒコ君がスキルを習得します。
魅力(小)をとったタツヒコ君は、肉体が引き締まり、脂肪が乗っていた頬は引き締まりシュッとした顔立ちへ。
「あれ? 目が見える」
瞼が腫れて窪んでいた瞳は、大きく開かれて視力が戻ったそうです。
「見た目はなんとかなりましたね」
「はっ?」
「私も原理は分かりませんが、レベルが上がると体が強くなっていくんです。ただ、それだけでは体は引き締まるだけで、見た目はそれほど変わりません。ですが、スキルとして魅力を取ると、他者から魅力的に感じる容姿を手にいられるようです」
「見た目なんて」
自分の体の変化を触って確かめようとするタツヒコ君に、私が言うべきではない言葉を口にします。
「タツヒコ君。人はね、出会って三秒で相手の印象を決めるそうです。そして、人は見た目が九割だと言われるほど相手への印象は見た目が大切です。私は冒険者なので、今の見た目でもいいと思っています。ですが、タツヒコ君は勇者として人から見られたいと思っているならば、人から見られる自分も意識しなさい」
私の見た目で言うことではないと思いますが……
自分の見た目で得をすることもあるので、言ってもいいですよね?