コボルトダンジョン 前半
本日は、ダンジョンに来るつもりでしたが、タツヒコ君を連れてくることになりレベルを聞けばレベル1だそうです。ユイさんに相談したところ行くべきダンジョンのアドバイスを頂きました。
Gの巣窟
スライムの下水道
ゴブリンの巣山
コボルトの隠れ家
四つのダンジョンを紹介して頂きました。
Gには私が近づきたくありません。
スライムはミズモチさんを倒すようで戦えません。
ゴブリンにしようと思いましたが、タツヒコ君がゴブリンだけは嫌だということで、コボルトダンジョンへ向かうことになりました。
「コボルトの隠れ家は初めてきますね」
「しっ、師匠も初めてなのかよ。そんなので大丈夫なのか?」
なぜかビクビクとした様子で師匠と呼んできます。
仲良くなるのは、まだまだ難しそうです。いつかは愛称でタッちゃんとか呼んでみたいですね。師匠と呼んでくれるので、頑張らないといけませんね。
「問題はないでしょう。ミズモチさん、警戒をお願いできますか?」
『は〜い!任せて〜』
「ふん、そんなスライムで大丈夫なのか?」
「タツヒコ君」
「なっ、なんだよ」
私はタツヒコ君に顔を近づけます。
「ミズモチさんです」
「はっ?」
「スライムではありません。ミズモチさんと呼んでください。良いですね?」
「ひっ!はっはい」
タツヒコ君は素直な子です。
ちゃんと私の言うことを聞いてくれます。
「まずは、タツヒコ君のレベルをあげましょう。どれだけ倒せばレベルアップするのか分かりませんので、レベルが上がるまでコボルトを倒してください」
「はっ?」
「聞こえませんでしたか? レベルが上がるまでコボルトを倒してください」
「聞こえてるよ! 師匠だろ? 実践的な倒し方とか説明してくれんじゃないのかよ!」
「いいえ、どちらかと言えば、人として大切なことを教えるつもりです。基本的には戦い方は自分で身につけてください。危なくなれば助けてはあげます。ほら、行った行った。ミズモチさん、タツヒコ君の護衛をお願いします」
『は〜い』
ミズモチさんを護衛につけて、タツヒコ君をコボルトダンジョンに入れるために背中を押しました。
恐る恐るタツヒコ君がコボルトダンジョンへ入っていきます。
私はミズモチさんを通して、タツヒコ君を見るようにしました。
レベルが上がったおかげで視界はぼんやりとではなく、しっかりと見ることができます。
「おお! これがミズモチさんが見ている世界なのですね」
ミズモチさんから見たタツヒコ君は下から見上げているので、少しだけ不細工に見えます。
「ふふ、面白いですね。おや、一匹目のコボルトと遭遇です。装備は木刀ですが、大丈夫でしょうか? そういえば、勇者のスキルは何があるのでしょうか? 全身の能力向上はあると思うので、あとはわかりませんね」
私はミズモチさんを通して、タツヒコ君の戦いを見ているのですが、なんというのでしょうか? 物凄くダメですね。
コボルトは、ゴブリンよりも小柄な中途半端な魔物です。
動きは遅くて、攻撃の威力もあまり強くありません。
ですが、愚鈍なタツヒコ君はコボルトと変わらない程度に遅くて木刀を振るっても、コボルトを見て振っていないので当たっていません。
ミズモチさんが水鉄砲のような弱い水魔法で援護していなければ、囲まれてタツヒコ君は死んでいたかもしれません。
ミズモチさんの援護のおかげでやっと一匹倒したところで「ゼェゼェ」と息を切らせてへたり込んでしまいました。
根本的な体力がありません。私もミズモチさんと出会った当初は、散歩に行くだけで筋肉痛になりました。
懐かしいことを思い出してしまいました。ですが、レベルが上がると身体能力も向上するので、まずは一つでもレベルを上げなければなりません。
ミズモチさんが護衛をしてくれているので、パワーレベリングに近いのですが、本人は必死の形相で周りが見えていない様子です。
休憩をとり、次の獲物を探すのは良いですが、察知さんが使えないので奥へ進むと危険です。
「ミズモチさんの魔力が回復するので、私としては目的が達成されています。ですが、自分以外の人を見ていると、こんなにもどかしいのですね」
ユウ君やシズカさんたちに同行した時でも、ここまでもどかしい気持ちにはなりませんでした。
最近はハルカさんや、長さんなど高ランクの方々と行動を共にしていたので、凄い人の動きに慣れてしまったんでしょうね。
おや、これはいけませんね。
タツヒコ君は、コボルトダンジョンの奥へ進んでしまったせいで、弱々しいコボルトから、武器を持ち戦う準備を整えたコボルトの集団と当たってしまいました。
どうやら、コボルトにも強さの段階があるようです。
「一応向かいましょうか」
察知さんを発動して、タツヒコ君とミズモチさんを助けるために、コボルトダンジョンへ入っていきました。
獣臭が強いダンジョン内は、森のような作りをした公園の中なので、それほど大きくは無いため、すぐにタツヒコ君を見つけることができました。
すぐに助けに入ろうかと思いましたが、彼なりに頑張っている姿を見て、私はじっと我慢することにしました。
上司の心得という本に、こんな一文があります。
良い上司は、部下に仕事を任せて自分はどっしりと見守るものだと、私はすぐに自分がやった方が早いと手を出してしまいがちです。
タツヒコ君を成長させるためにも、今はグッと我慢です。




