初心者講習 後半
週末がやってきました。本日は初心者講習をしなければいけないので、朝は仕事と同じ時間に目を覚ましました。
「行ってらっしゃい」
玄関まで来たところで、カオリさんに見送って頂いています。
誰かに「行ってらっしゃい」と言ってもらえるのは、本当に嬉しいです。
朝食も作ってもらって、私もミズモチさんも元気いっぱいです。
「朝食、ありがとうございます。夕方には帰ってきます」
「はい、私は色々と買い物をしてきます」
「お願いします。それでは、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
カオリさんが私の頬にキスをしてくれました。
今日一日頑張れます。
私はミズモチさんと共に冒険者ギルドへやってきました。
本日は午前の一時間だけ、初心者講習を行うのです。
午後からは、ミズモチさんと共にどこかのダンジョンへ赴こうと思っています。
「おはようございます。ユイさん」
「おはようございます。ヒデオさん。本日初心者講習を受ける人は二人だったんですが、先ほど一人増えられましたので三人でお願いします。三人ともジョブはすでに手に入れられているので、実践講習はしなくても大丈夫です」
「なるほど、それは助かりますね。大勢を相手できるほど慣れていないので」
「ふふ、ヒデオさんなら大丈夫だと思いますよ」
私は用意された会場へ入って準備をします。
準備と言ってもミズモチさんをリュックから解放して、ホワイトボードに資料に書かれた内容を書いていきます。
「おお、ここが講習会場ですね。紗奈は迷わず来れたのです。藤丸のおかげなのです」
賑やかな少女が乱入してきました。
身長が140センチぐらいの女の子で、中学生?かと思ってしまいます。
ですが、ここに来たと言うことは冒険者なのでしょう。
冒険者は、中学校を卒業していれば誰でも資格を持つ事ができます。
4月ですので、中学校を卒業したばかりなのかもしれませんね。
「初めまして、初心者講習を受けられる方ですか?」
「あっ、はい。そっ、そうなのです。童灯紗奈と申します。テイマーです」
テイマーだと紹介されて、私は嬉しくなってしまいます。
「これはこれはご丁寧に、私は本日の講師をさせて頂きます、阿部秀雄です。私もテイマーです」
「おお! テイマーの先輩ですか! それは嬉しいのです。こっちはダイワウルフの藤丸なのです」
「藤丸さん、初めましてモフモフが可愛いですね。私は阿部といいます。それとこっちが相棒のミズモチさんです」
「スライム? スベスベなのです!」
フジマルさんは、モフモフのオオカミさんです。
白い毛並みと、青い毛並みが珍しいですね。
「失礼」
互いに相棒を紹介していると、二人目の冒険者の方がやってきました。
金髪から白に近い髪色をされた綺麗な女性です。
年齢から行って二十歳前後で、雰囲気がトゲトゲしています。
「お二人目ですね。私は本日の講師をします阿部秀雄です。B級冒険者でテイマーをしています」
「同じ講習を受ける童灯紗奈です。新人です。テイマーです」
「……綾波雪乃、アーチャー」
「遠距離タイプさんですか、珍しいですね」
「別に」
「ユキノちゃん、同じ新人なので仲良くしてください」
童灯さんから歩み寄っていくと、幼い彼女の見た目は綾波さんの雰囲気を突破したようです。ため息を吐きながら握手をしてあげていました。
綾波さんは、根は悪い子ではないのでしょう。
「むむ、僕が最後になってしまったか」
そう言って入ってきたのは、メガネに何故かキャラTシャツ、ジーパン姿に、腰には木刀を納めています。少し小太りな体格をした青年は額に汗が流れています。
唖然とする私の横で、女性二人を見ると、明らかに戸惑った顔をして私の後ろに隠れております。
「僕の名はタツヒコ、勇者タツヒコと呼んでくれ。よろしくしてやってもいいぞ」
うん。
これはなかなかにキツイ子がきましたね。
ユイさんが言っていたお世話をしてあげて欲しい子は、きっとこの子ですね。
「そっ、それでは全員揃いましたので、講習を始めましょう。椅子を用意しましたので、どうぞ座ってください」
私が椅子を勧めると、堂々とタツヒコ君が真ん中の席へ一番最初に腰を下ろしました。仕方なく、二人がタツヒコ君を挟むように左右に座りました。
若干、二人とも椅子を後ろに下げて座っているのは見なかったことにしましょう。
私は初心者講習用に用意された資料通りに話を進めていきます。
スキンヘッドの私に引かれると思いましたが、女性たちは概ね好評で、タツヒコくんは私を見て腕を組み、沈黙を決め込んでいます。
一通りの説明を終えた私はホッと息を吐きました。
「以上が初心者講習の内容になります。何か質問はありますか?」
私の問いかけに、真っ先に手を挙げたのは童灯さんでした。
「はいはい! 質問したいです」
「はい。なんですか?」
「テイマーは強くなれますか?」
「強くですか?」
「はい。藤丸は強くなりたいって言っているの。叶えてあげたいのですが、私は怖いなって思うので」
ミズモチさんもダンジョンに行って強くなりたいと言っていたので、魔物は強さを求めるのかもしれませんね。
「なるほど、レベルによります。最初はレベルが上がりにくいので強くなるのは難しいかもしれません。ですから、ご自身でも護身術を身につけることをお勧めします」
「護身術?」
私は白金さんを出現させました。「「「!!!!!」」」
三人が驚いた顔をしてくれますが、今は見なかったことにしましょう。
「私は冒険者になってから、杖術を習い出して、免許皆伝を頂きました。タツヒコ君。一度手合わせをしてもらっても?」
「よかろう。勇者である僕が胸を貸してあげましょう」
タツヒコ君は自信満々な顔で立ち上がって、腰に装備する木刀を構えました。
「どこからでも打ち込んできてください」
「僕を舐めるなよ!」
タツヒコ君が木刀をメチャクチャに振り回してきます。
どうやら剣術や剣道を習っているわけではないようです。
剣というよりも、木の棒を振り回しているだけのタツヒコ君の攻撃を常の型で受け流していきます。
力任せに振り回すタツヒコ君に、全く力をかけないで受け流すことで女性でも、杖術の素晴らしさをお披露目します。
「ハァハァハァ」
あまり運動もなれていない様子のタツヒコ君はすぐに息を切らせてヘタリ込んでしまった。
「体格の良い男性じゃなくても、杖を使えれば便利ですよ」
「なっ! 舐めるなよ!」
説明している私の後ろから襲ってくるタツヒコ君。
「引っ掛け」
私は白金さんを使って足を引っ掛けて、タツヒコ君は空中で回転して頭から落ちそうになっていたので、ミズモチさんがクッションになって受け止めてくれました。
「相手の力を利用すれば、こんなこともできます」
女性二人は拍手をしてくれて、私は実践できる技術を見せることで、本日の講習を終了させました。お二人には今後も聞きたいことが有れば連絡して欲しいと、メッセージIDを渡しました。
私は、タツヒコ君が気を失ってしまいましたので、医務室へ連れていくことになりました。