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聞いてもらう力

 ハルカさんから自分を大切にしなさいと言われて、私の心に不安が芽生えました。私はミズモチさんとのスローライフを送りたいだけなのです。ですが、このまま会社と冒険者を続けていて、本当に良いのか悩みます。


 それに私が先に死んでしまったなら、ミズモチさんを一人にしてしまいます。先のことを考えると凄く不安です。


 ミズモチさんを優先するのであれば、会社をやめて冒険者一本になり、魔力の回復と生活費を稼ぐことができれば問題ないのでしょうか?

 

 数年分の年収は、すでに稼ぎました。十年は会社で働かなくても問題ありません。ですから、余計に悩んでしまうのです。今後の私とミズモチさんの生活を左右する大切なことです。


「何か悩んでいるんですか?」


 そう言って声をかけてくれたのはカオリさんです。

 カオリさんへの返事もまだ答えを出せていません。

 それでも声をかけてくれるカオリさんは優しいです。

 臆病な私はどうやって返事をすればいいのかわからなくて、少し避けてしまっていたように感じます。

 ですが、ホワイトデーの時にお返しができて。また少しずつぎこちなさが抜けつつあります。


 こうしてランチをとっている際に、カオリさんから心配して声をかけてくれるのも申し訳なさが浮かびます。

 心配されるほど暗い顔をしていたのかもしれません。


「あっいえ、少し悩むことがありまして」

「差し支えなければ、お聞きしても?」

「……そうですね。誰かに話を聞いてもらえれば解決するのかもしれません。実は……」


 私は黒山羊と言う強い魔物が出現したことを話し、自分の命を大切にしなさいと怒られたことを話しました。

 ミズモチさんのレベルアップと、魔力回復のためにダンジョンに向かっていることも伝え、今後ミズモチさんとの生活に不安を感じていること。

 そのため本腰を入れて、冒険者の仕事をした方が良いのではないかと思うことを話しました。


「そうですか。冒険者ではない私は本当の意味でヒデオさんの気持ちはわかってあげられないと思います」


 カオリさんは真剣な目をして私を見ました。


「はい」

「ですが、お話を聞いていて、矛盾点があったことを指摘してもいいですか?」

「矛盾点ですか?」

「はい。大前提として、ミズモチさんのレベルアップをすることは、ミズモチさんの望みであり、またヒデオさんがレベルアップしたミズモチさんとお話がしたいからですよね?」

「はい。そうです」


 誰かに話して、誰かが確認をとってくれると私の中で一つの答が固まるように感じます。


「次に、定期的にダンジョンに行くのはミズモチさんが魔力を補給をしなくては、生命の危機に頻してしまうからですよね?」

「そうです。ミズモチさんは魔物なので、魔力がなければ死んでしまうのです」

「そうなんですね。死んでしまうのは悲しいですね」


 ミズモチさんを思って悲しそうな顔をしてくれるカオリさんは本当にいい人です。


「そして、レベルを上げるためにより高ランクのダンジョンに挑戦しなければならない点。そして、より高ランクに挑戦するために、会社をやめて専業に悩んでおられる点。この二つが矛盾点として挙げさせていただきます」

「それが矛盾点なのですか?」

「はい。一つ目のレベルアップは時間がかかるかもしれませんが、今まで行ったことのあるダンジョンでも魔物を倒していればレベルは上がるのではないですか?」

「それは、まぁ多分そうだと思います。ご近所ダンジョンさんに一番多く入っているのですが、レベルは上がっていましたから」

「ですね。そして会社を辞めて専業になられると言いますが、百歩譲って会社を辞めることは止めません。ですが、それは本当にスローライフに繋がりますか?」


 カオリさんの指摘を受けて、私はしばし思考を巡らせました。

 

 レベルアップとスローライフ。

 

 いつの間にかレベルアップや高ランクを攻略することが目的になっていたのかもしれません。カオリさんに指摘いただいて、初めて自分の思考がズレ始めていたことに気付かされました。


「私はスローライフと言いながら、どこかで冒険者と会社の二重生活をして心が疲れていたのかもしれません」

「ですね。会社をお休みするか、冒険者をどこかでお休みすることを考えてみてはいかがですか?」


 カオリさんに聞いてもらうと頭の中が整理できてありがたいです。

 私の話に耳を傾けてくれて、カオリさんには感謝しかありません。

 誰かといて、こんな風に安心するなんてあまり経験がありませんね。


 シズカさんや他の女性といる時は、ドキドキしてしまって戸惑ってしまいます。

 カオリさんといてもドキドキはするのですが、同時に安心もします。

 不思議ですね。


「カオリさんとずっと一緒にいられたなら幸せですね」


 私は思ったことを口にしました。


「えっ!」


 カオリさんが驚かれた顔をされて、次いで顔を真っ赤に染められました。

 私は自分が考え無しに発言した言葉の意味を考えました。


「あっ!」


 さすがの私もある程度の年齢です。そして、相手の態度と、数日前に気持ちを伝えて頂いたのでわかります。


 私は今、告白をしました。


「はい。いつまでも一緒にいましょう」


 カオリさんは涙を浮かべ、笑顔で返事をしてくれました。


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