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バレンタイン 前編

 昨日は、お二人に付き合って飲みすぎました。

 朝から、少し寝不足です。


 昨日もカオリさんには心配を掛けてしまっているので、あまり疲れた顔を見せるわけにはいきませんね。

 張り切って出社するとしましょう。


「おはようございます」

「おはよう…… ございます」


 本日のカオリさんはそっけない返事でした。

 顔を合わせてはくれません。

 返事もなんだか曖昧です。


 変だなぁ〜と思いながら、仕事を始めました。


 少し仕事の時間が進んでランチの時間になると、ショールームから三島さんが戻ってきました。


「いや〜今日も仕事したわ!あっ、阿部君。今日はバレンタインよね。はい」


 そう言って市販に売られている、ホワイトチョコと普通のチョコが編み込まれた有名なお菓子をいただきました。


「私からバレンタイン。最近の阿部君は頑張っていると思うから労いよ」

「あっ、ありがとうございます!」

「それじゃあランチ行ってきま〜す!」


 三島さんは去り際に、カオリさんにウィンクをして出ていかれました。

 なんの意味があったのでしょうか?


「あっ、あの!」

「はい。ランチですね。お茶を淹れてきます」


 私はお弁当の用意してくれるカオリさんのために、温かいお茶を淹れてきました。


「あっ、あの。ヒデオさん」

「はい?」


 私がいつものお弁当を食べる定位置に着席すると、カオリさんがそっと綺麗に包まれた箱を渡してくれました。


「えっ?これはもしや!」


 先ほど三島さんにチョコをもらっていたので、バレンタインという発言を受けたばかりです。さすがの私もわかりますよ!


 カオリさんも、日頃のお礼チョコを私に下さるのですね!!!


「頂いていいんですか?」

「はい」


 私は破らないように丁寧に包装紙を剥がさせてもらいました。

 現れたのはチョコクッキーです。とても美味しそうですね。


「こっ、これはもしや」

「はい。手作りです」

「なんと!!!!」


 やはりカオリさんは料理上手なんですね。

 お菓子も手作りできてしまうなんて、バレンタインに手作りチョコを頂いたのは初めてです!!!


「ありがとうございます!!!凄く嬉しいです!」

「そっ、そんなに喜んで頂けると、少し恥ずかしいです。もう、それは後で食べてください。今はランチにしましょう!」

「はい。いつもありがとうございます!」


 二人でランチを食べて、チョコクッキーは食後に頂きました。

 とても美味しくて、一口食べる毎にお礼を言いたくなります。

 カオリさんが恥ずかしそうにしていたので、心の中で何度もお礼を言うことにしました。


 バレンタインって、今まで自分には関係のないイベントだと思っていました。

 三島さん、カオリさんのお二人から頂けて、この職場で良かったと心から思えました。


 本日は早めに切り上げて、冒険者ギルドにいかなければいけません。


「カオリさん本日は本当にありがとうございました。凄く嬉しかったです」

「もう、お礼はいいですって!急ぐのでしょ。早く行ってください。戸締りはしておきますので」


 帰り際に、もう一度お礼を言うと怒られてしまいました。

 あんまりしつこく言うのはダメですね。


 私はカオリさんに別れを告げて、冒険者ギルドに向かいます。

 冒険者ギルドに入って、インフォメーションのユイさんに声をかけました。


「ユイさん。お疲れ様です」

「ヒデオさん!いらしてくださったんですね。お身体は大丈夫ですか?」

「ええ。もう大丈夫です」


 私は体を動かして元気なところをアピールしました。


「すごい戦いだったと、参加された方々からお話は伺っているのですが、当事者であるヒデオさんにもお話をお願いしたいと思います」

「かしこまりました」


 私は、ユイさんと共にギルドマスターに会いに行って個室へと通されます。

 ギルドマスターの部屋に入るのは、専属武器の白金さんの時以来ですね。


「ギルドマスター。阿部さんがいらっしゃいました」

「ん」


 応接用のソファーに腰を下ろして、雪山での出来事を話しました。

 すでに長さんや元さんからも話を聞いているそうなので、私は質問をされたことに答えていく程度で、二人と違いがないのか確認されただけでした。


「以上になります。少しだけテレビでニュースに取り上げられましたので、冒険者ギルドからの報告のために当事者の話を聞かせて頂いたのです」


 ユイさんが今回の顛末について話をしてくださり、冒険者ギルド公式の発表のために報告書の一部に記載されるそうです。


「そうだったのですね。お役に立てましたか?」

「はい。大丈夫ですよ。それよりも、阿部さんのテレビ出演が話題になっていますが、テレビなどにご興味はありますか?」


 ユイさんからの意外な質問に私は首を横に振りました。


「いえ、今の生活で十分に満足しておりますので、テレビで有名になることを求めていません。知り合いだけが知っていてくれればそれでいいと思っております」

「そうですか。わかりました。冒険者ギルドとしてもそのように対処させて頂きます」

「ありがとうございます」


 私は、報告を終えてギルドマスターの部屋を後にしました。


「ヒデオさん!」


 冒険者ギルドを出る手前の通路で、ユイさんに呼び止められました。


「はい?まだ何かありましたか?」

「いえ、これは担当受付として、いつもの労いです。はい」


 そういって、綺麗な高級チョコ店の包装紙を渡されました。


「えっ!私にチョコをいただけるのですか?」

「ふふ、本当はこういうことはしないんですけどね。でも、私の担当はヒデオさんだけなので、労いです。この間の雪山では冒険者を救って頂きありがとうございました。阿部さんが戦ってくれたからこそ、他の冒険者の救助も捗ったと聞いています」


 私がしたことは無駄ではなかったとユイさんから褒められてしまいました。


「ありがとうございます。その言葉だけでも嬉しいです」

「ヒデオさん、少し屈んでもらえますか?」

「はい?」

「触れますね」

「えっ?」


 ユイさんの小さくて、柔らかい手が私のツルツルの頭を優しく撫でてくれました。


「ずっと触ってみたかったんです。チョコをあげたお礼はこれで。それでは」


 ユイさんはクールな印象なのに、茶目っ気もある人で、凄くドキッとさせられますね。

 触れられた箇所が熱くなっているように感じます。

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