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実戦 杖術

 柳先生から折りたたみ式の杖を頂いて、私は毎日仕事に行くときも持ち歩くことにしました。もちろん、実際に誰かを襲うようなことはしませんよ。

 持っていると手に馴染むといいますか、柳先生に教わった動作を自分なりに反復練習したりしています。


 払う、突く、落とす。


 三つの動作だけですが、意外に力の要れ具合が難しいのです。


 払うに関してですが、槍や棒と違って長さがありません。そのため手を持つところをひっくり返して引っかけるといった方がしっくりきます。

 動作を繰り返していると、相手との距離感を掴む間合いを図る必要があり、武術家さんたちが言葉にする間合いがなんとなく分かるような気がしてきます。


 調子に乗りました(^_^;


 突きは、これまた槍や棒術とは、まったく別だと理解させられました。

 槍は、その矛先にある刃を突き刺すイメージだと思います。相手を突いて、斬って、払う。などが槍の動作です。

 棒術では、引いた棒に助走をつけて突き刺すことで突きの威力を上げているのだと思います。そうすることで相手にダメージを与えるような印象です。


 ですが、杖での突きは引いてもあまり威力を上げることができません。

 短いこともありますが、軽く棒ほどの威力には成らないからです。

 むしろ肩を固定して、自分の体重を乗せて前に押し出す様に使うことで相手を突き放すイメージで使うとそれほどの力を使わなくて相手を押し込むことができました。


 一点集中で押す力を集めているのだと思われます。


 最後の落とすですが、これが一番難しく感じます。

 杖術にとってトドメと言える行為になりますので、杖の中では一番威力のある攻撃に思えます。

 人の急所、私の場合は足の甲に落とされましたが凄く痛かったです。自己の治癒(極小)がなければ次の日も腫れていたと思います。


 もしも、これが心臓や頭に突き落とされたらと、考えるだけでゾッとします。


 一つ一つを理解するために、毎日持ち歩いて動作の確認をしています。


「あの、阿部さん?」

「あっ、すいません。休憩時間終わりですか?」


 最近、毎日一緒にお昼を取るようになった矢場沢さんが、困惑した顔をしていました。


「いえ、もう少し大丈夫だと思いますが、急に黙り込んでしまったので」

「あっ、すいません。最近は考え事ばかりしてしまって」

「冒険者って大変なんですか?」

「そうですね。二度目のゴブリン遭遇をしましたので、この間から杖術を習っているんです」

「杖術?あの高齢者の方が持っている杖ですか」

「はい。あの杖です」


 私は鞄から折りたたみ杖を取り出して、矢場沢さんに渡しました。


「えっ?これって武器になるんですか?」

「正直、わかりません。少しだけ実験をしても?」

「ええ、いいですけ……痛いのは嫌ですよ」

「もちろんです」


 私は手渡された杖を矢場沢さんの腰へと引っかけて引き寄せます。

 足首では転倒させてしまうので、腰です。


 はい……やってしまいました……


「あの、どういう意図が?」


 彼女を引き寄せて私の胸に飛び込ませてしまいました。


「すみません。他の方法が思いつきませんでした」


 杖の使い方を説明して、本来は足に引っかけて倒すことを説明しました。


「なるほど。それで引き寄せて抱きしめたと」


 私、反省して正座しています。

 上から矢場沢さんの怖い視線が……やっぱりオジサンの胸に飛び込むとか嫌ですよね……


「まぁ、ケガをしないために腰だったことはわかりました。ですが、今度からは説明してからお願いします」

「はい」

「もう、いいですよ。仕事に戻りましょう」

「はい」


 せっかく矢場沢さんから歩みよって来てくださったのに……お昼を食べるまでに仲良くなったのに嫌われてしまいました。


「あの、もう怒ってませんから」

「えっ?」

「だからそんなに落ち込んだ顔をしないでください」

「はっ、はい!」


 許してもらえたのでしょうか?


「もう……なんでそんなに嬉しそうなの?ふん」


 矢場沢さんが小さな声で何か言っていますが、何を言っているのか聞こえませんでした。でも、許してもらえたのは嬉しいです。


 前回の、ゴブリン遭遇から二週間ほどで……またまた人影を発見です。


「出現頻度が増しているみたいですね。う~ん、もう少しダンジョンについては勉強が必要かも知れませんね。ミズモチさん、今日も戦いますか?」


 プルプルと臨戦態勢を示してくるミズモチさん。

 私も気合いを入れるしかありませんね。


「ミズモチさん。今日は私に任せてもらえませんか?」


 プルプルとして「???」という反応をするミズモチさん。


「実は杖を試してみたいんです」


 本日は金属バットではなく、杖を持ってきました。


 プルプルとミズモチさんが背中を押してくれます。


「任せてくれるのですか?ありがとうございます!!!ですが、不安なので何かあればお願いしますね」


 プルプルして「まかせろ」と言ってくれました。


 私はゴブリンへ近づいて言って、気づいていないゴブリンへ杖を突き当てます。


「ギャッギギ!」


 気づいたゴブリンが立ち上がろうとする瞬間に杖を突いて押し込みました。

 ゴブリンは意表を突かれたように尻餅をついたので、私はここで容赦するわけにはいきません。


 ゴブリンの腹部に杖を突き落としました。


「ギャッ!」


 ゴブリンは杖を突き立てただけで魔石へと変わってしまいました。


「あれ?倒せてしまいました」


 ミズモチさんがプルプルと「よくやった」と言ってくれました。


 物凄く拍子抜けしましたが、どうやらゴブリンは一定のダメージを受けると魔石に変わってしまうようです。

 さすがはスライムに並ぶ弱小魔物……初心者の私には丁度良い相手でした。


「あれ?レベルアップ音がしました。どうやらレベル2になったようですね。まぁレベルアップと言っても身体能力が上がるわけではないので実感があまりありませんね」


 本日も魔石を破壊して魔力を吸収してダンジョンを後にしました。


 ミズモチさんが「よくやったな」と親指を立てている気がします。

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