ユイさんに相談へ
カリンさんにショップを追い出されてしまいました。
私はユイさんへ相談に伺います。
「というわけなんです」
カリンさんから指輪のことを聞いてくれていたようです。
新たに得た理力の杖のことを説明すると、最初は驚いた顔を見せておられました。
その後に少しだけ考える素振りを見せてから提案してくれました。
「ヒデオさんは有名になりたいですか?」
「いえいえ、全然なりたくないです」
「そうですよね。ミズモチさんと静かに暮らしたいって言っていましたからね。わかりました。カリンが鑑定をしましたので書類の作成は必要になります。それを少しだけ文章を変えておきます」
「えっ、それはユイさんに迷惑がかかりませんか?」
「いえ、改竄はしません。少しだけ変えるだけです」
「えっ?」
私も同じ事務仕事をしている身として心配です。
ユイさんが危険なことをしているのではないかと不安になります。
その態度が気になった様子で、ユイさんが一枚の紙を取り出しました。
「これは私たちが使う報告書です。カリンが鑑定した判子は後で押して貰います。
専属魔法の発見。
材質不明なところまでそのまま提出します。
所有者の登録もヒデオさんでさせて頂きます。
ですが、この一点だけは消去します」
そう言ってユイさんが変えたのは、伝説級とカリンさんが書いていた部分を消去しました。
「えっ?いいのですか?」
「ええ、材質や品質のところは不明としておけばいいのです。ウソはついていません」
確かに伝説級でも不明と一緒ですからね。
でも、この程度の変化なら大丈夫かなって私も思います。
「人って、特別な物に心引かれてしまうんです」
「えっ?」
「限定品とか、期間限定です。この場合なら専用武器と伝説級の二点だと思います。ですが、専用武器に関しては今までも発見されていますので、珍しくはありますが誤魔化すことはできます。ですが、初めて見る伝説級にこそ人は注目すると思います」
ユイさんがしている行為は、ルールのギリギリダメな方ですね。
「ユイさん。やっぱりそれはいけません。もしも、バレてユイさんに迷惑がかかる方が私はいやです」
「あっ………すみません」
「私のためにしてくれようとしたのは嬉しいです。ですが、他の方法がないかギルドマスターに聞きに行くのを一緒にきて頂けませんか?」
「………はい。こんな私でもよければ」
ユイさんとの間に気まずい雰囲気が流れていると、鞄の中からミズモチさんが出てきました。
ミズモチさんが何をするのだろうと観察していると、気落ちしたユイさんの手に乗りました。
【進化ミズモチさん】《ドンマイ~》
意外なミズモチさんの行動に私は笑ってしまいました。
「えっえっ?ミズモチさんどうしたんですか?」
「あっ、すいません」
念話さんは私にしか聞こえないんでした。
「ミズモチさんが、ドンマイと言われています」
「あ~慰めてくれていたんですね」
「はい。ユイさんにはいつもお世話になっています。こんなことで気まずい雰囲気になるのは嫌です。ミズモチさんも仲良くしてほしいと思っているみたいです」
「そうですね。ミズモチさんにまで迷惑をかけてしまいました」
――パン!
ユイさんは両手で自分の頬を叩かれました。
「すみません。少し気が動転していたのだと思います。私も自分の仕事に誇りを持っているので、ちゃんとします。ギルドマスターのところへ行きましょう。私では判断ができません」
「はい。よろしくお願いします」
専属受付として、ユイさんは泥を被る覚悟で改竄をしようとしてくれていました。
それだけ私は大切にされているのでしょう。
私たちはスキンヘッド受付こと、ギルドマスターに今回の経緯を説明して有名になりたくないことまで説明しました。
すると、ギルドマスターは一枚の紙を渡してくれます。
「秘匿誓約書?」
「あっ!その手がありましたか?!」
「えっ?なんですこれ?」
「冒険者にはギルドへ、新しい事象についてや、ダンジョンでの新発見への報告義務があるんです。報告したあとに冒険者様が秘匿にするのか、公開するのか選べるんです。どうしても秘匿にしたい際には冒険者ギルド側は一切公開しませんという誓約書を書きます。冒険者の方が公開に変更したいと言えば変更は可能です」
やっぱりついてきてもらってよかったです。
ギルドマスター、紙を出した後から一切説明していません。
「それでは、私の専属武器は秘匿でお願いします」
私の言葉にギルドマスターが頷かれました。
ユイさんもホッとした顔をしてくれたので、私は安心してサインが出来ます。
大人は制約や契約など、守らなければいけないルールがたくさんで大変ですね。
帰ったらミズモチさんに、いっぱい癒してもらおうと思います。




