12. 徳川家康
歴史が好きな『モトヤ』と『ソウマ』の何気ない日常。
また『モトヤ』がズレたことを言っているので『ソウマ』が困っています。
こっそり...聞いてみましょう。
【ソウマ】なあモトヤ、さっきからスマホ凝視してどうしたんだよ?
【モトヤ】……シーッ。今、大事な作戦遂行中だから話しかけないで。
【ソウマ】作戦? なんだよ、ゲームでもしてるのか?
【モトヤ】違う違う。これは人生を左右する一大事なんだ。
【ソウマ】人生を左右!? お前また大げさな…。で、何をしてるんだ?
【モトヤ】今、スマホが鳴るのを朝からずっと待ってる。
【ソウマ】スマホが鳴るのを待ってる? ……ってだけ? まさかとは思うけど、誰かからの電話待ちとか?
【モトヤ】その「まさか」なんだよ。実はさ、昨日クラスの結衣ちゃんにLINEでメッセージ送ったんだ。
【ソウマ】結衣ちゃんって、お前が密かに好きだって言ってた子だよな? ついにアプローチしたのか!
【モトヤ】アプローチってほどでもないけど…「おはよう」って送ってみた。
【ソウマ】それアプローチと言わないだろ。ただの挨拶じゃないか。
【モトヤ】でも普段あんまり個別では話さないから、俺にとっては大きな一歩なんだよ! それでね、既読はついたんだけど返信がなくて…。
【ソウマ】ああ、それで電話が来るのを待ってるってわけか?でも返信来てないなら普通はまたメッセージで返ってくるんじゃないのか?
【モトヤ】いや、もしかしたら直接電話で返事くれるかもしれないだろ?
【ソウマ】「おはよう」の返事をわざわざ電話でしてくる人いるか? 普通「おはよう」には「おはよう」ってテキスト返すだけだと思うけど…。
【モトヤ】いや、彼女は特別かもしれない!俺の送った挨拶一つで感激して電話してくる可能性もゼロじゃない。
【ソウマ】いやゼロだと思うぞ…。で、結局昨日からずっと待ってるってわけ?
【モトヤ】そう!スマホが鳴るのを朝から晩までじーっと待機!これぞ忍耐の極致。
【ソウマ】忍耐の極致て…お前まさか徹夜とかしてないよな?
【モトヤ】もちろん。昨夜は寝落ちしないよう目にセロハンテープ貼って眠気を耐えた!
【ソウマ】何してんだよ!そこまでするか普通!?
【モトヤ】戦いは始まってるんだ。ここで寝たら負けだと思ってね。
【ソウマ】何と戦ってるんだお前は…。てかさ、そんなことしてたら体壊すぞ? 電話待つくらい明日にすりゃいいじゃないか。
【モトヤ】ふっふっふ、ソウマ。知らないのか?歴史の教訓を。
【ソウマ】は?歴史?
【モトヤ】徳川家康だよ。ほら、「鳴かぬなら鳴るまで待とうホトトギス」って有名な句があるだろ?
【ソウマ】ああ、戦国武将のあれか。鳴かないホトトギスを待つ…つまり忍耐強く機を待てって意味の。
【モトヤ】そう!俺はいま現代に甦った徳川家康の心境でスマホと向き合っているんだ。
【ソウマ】スマホをホトトギス扱いすな!結衣ちゃんからの返信をホトトギスの鳴き声みたいに言うなよ!
【モトヤ】だって、「鳴かぬなら鳴るまで待とうホトトギス」だよ? スマホが鳴らないなら鳴るまで待とうってこと!
【ソウマ】誰が上手いこと言えと…。確かに言葉遊びとしては合ってるけどさ!
【モトヤ】家康公もびっくりの現代版だよ。鳴らないスマホも待てばいつか鳴る!
【ソウマ】知らんけども!というか家康は戦国の世で天下取るために何年も我慢を重ねたんだぞ。お前のはただ女の子の返信待ってるだけだろうが。
【モトヤ】待つことに変わりはない!俺も我慢して勝利(=返信)を手にする!
【ソウマ】そのカッコ付きがしょぼすぎるわ!天下統一とかじゃなく「返信」て…。
【モトヤ】返信だって俺にとっては天下統一級の大事なんだよ!
【ソウマ】恋に必死なのはわかるけどさ…。でも返信欲しいなら自分からまたメッセージ送るとか、他に方法あるだろ?
【モトヤ】いや、ここで下手に動くのは良くない。下手な追撃は敵に隙を与えるから。
【ソウマ】いつから恋愛が合戦になったんだよ。しかもお前から見て結衣ちゃんは敵なのか?
【モトヤ】あ…今のは例えだよ、例え!とにかくここは焦らず時を待つべきなんだ。家康もじっと動かずに好機を待っただろ?
【ソウマ】まあ確かに家康は時の運が来るのを待つとか言うけどさ…現代の女子高生相手に戦国戦術は通用しねぇと思うぞ。
【モトヤ】大丈夫!俺は忍耐強さには定評があるんだ。どれだけ待つことになっても耐えてみせる。
【ソウマ】そこに定評あっても困るけどな…。仮に結衣ちゃんが返信忘れてたら一生来ない可能性もあるんだぞ?
【モトヤ】その時は…その時だ!
【ソウマ】いや「その時」じゃねえよ!お前の青春終了してるわ!
【モトヤ】青春という名の戦、俺は最後まで戦い抜く覚悟だ。
【ソウマ】だから何と戦ってんだって!誰とも戦ってないから! 【ソウマ】モトヤ、お前さ…最近何でもかんでも待てばいいって考えてないか?
【モトヤ】そうかな?まあ待つのは嫌いじゃないけど。
【ソウマ】思い当たる節ない?例えば昨日の数学テスト…。
【モトヤ】お、おう…。あれはその…。
【ソウマ】お前、最後の大問解けなかったからって、ずっと問題用紙を睨んでただろ?時間ギリギリまで。
【モトヤ】あれは答えがひらめくのを待ってたんだよ!下手に焦って間違った答え書くより、天から降りてくるのを待とうと思って。
【ソウマ】答えの神様でも降臨するの待ってたのかよ!?
【モトヤ】そうそう!ワンチャン天から知恵が舞い降りるかなって。
【ソウマ】降りてこなかったから白紙提出だったじゃねーか!結果0点だぞ0点!
【モトヤ】0点でも次につながるかもしれないだろ?
【ソウマ】どうつながるんだよ!補習直行だわ!
【モトヤ】いや、先生が不憫に思って点をくれる可能性が…。
【ソウマ】ねぇよ!神頼み通り越して先生頼みか!待っても先生の慈悲は降ってこなかったな。
【モトヤ】待ってれば何とかなるかなって…甘かったか。
【ソウマ】甘いわ!勉強は待っててもできるようにならないの!自分で解かなきゃダメだろ!
【モトヤ】でも待つのも立派な作戦だと思うんだけどなあ…。
【ソウマ】作戦って言えば聞こえはいいけど、何もしてないだけだからな? 【ソウマ】それで言うとさ、そのテスト0点の件でお前のお母さん相当怒ってただろ?
【モトヤ】う…鋭いね、情報早いな。
【ソウマ】お前が朝、「昨日めっちゃ怒られた…」って落ち込んでたからな。どうせまた待つ作戦使ったんだろ?
【モトヤ】正解。昨日家に帰ったら案の定お袋がブチ切れてさ。「あんた勉強しないからでしょ!」って説教モード突入。
【ソウマ】まあ親としては当然だな。
【モトヤ】俺は正座してひたすら耐えたよ。怒りのホトトギスが鳴き止むまで待とう作戦!
【ソウマ】お母さんをホトトギス扱いするな!確かに鳴いてたけども!ていうか鳴き止むの待つとか逆に火に油注いでない?
【モトヤ】下手に言い訳しても長引くだけだし、ここはじっと我慢が吉かなと。
【ソウマ】で、どうなった?
【モトヤ】1時間くらいしたら流石にお袋も疲れたみたいで、「もういい!」って解放された。
【ソウマ】長ぇよ!よく黙って耐えたなお前も。それ勝ったって言えるのか?
【モトヤ】母上の攻撃をしのいだんだから俺の勝利さ。家康だって関ヶ原で初めは様子見して耐えて、最後に勝ったんだし。
【ソウマ】そこで関ヶ原持ち出すな!スケール違いすぎるわ!お前ん家の茶の間で関ヶ原やるな!
【モトヤ】我慢比べって意味では似たようなもんだよ。
【ソウマ】家康もびっくりの家庭内忍耐戦争だな…。(ため息)でもさ、それで本当に解決したのか?
【モトヤ】解決って?
【ソウマ】お母さんの怒りはちゃんと収まったのかよ。なんか単に疲れて中断しただけな気が…。
【モトヤ】細かいことはいいんだよ。とにかく耐え抜いてピンチをしのいだ、それでよし!
【ソウマ】また都合よく解釈してるし…。忍耐強いのは立派だけどさ、何でも我慢すりゃいいってもんじゃないだろ。
【モトヤ】でも家康だって何年も耐えて天下取ったんだし、やっぱ我慢は大事だよ。
【ソウマ】そりゃ状況によるわ!全部が全部待てばいいって話じゃない! 【ソウマ】それにしても結衣ちゃんの返信、まだ来ないのか?既読ついたまま?
【モトヤ】(スマホを確認しつつ)うーん…あっ!本当だ、返信来てる!!
【ソウマ】は? 来てるのかよ!早く気づけよ!なんて?
【モトヤ】「おはよう」だって…。送ったのと同じだ。
【ソウマ】そりゃそうだ、お前が送ったのがそれだし。当たり前の返信だな。いつ来てたんだ?
【モトヤ】えーっと、送信時間…昨日の夜9時!?俺、ずっと気づかずに待ってたのか…!
【ソウマ】ほら見ろ、無駄に徹夜しちゃって。自業自得だ。
【モトヤ】な、なんてこった…。
【ソウマ】安心しただろ? ちゃんと返信来てたんだから、これでひとまず解決だな。
【モトヤ】…いや、まだだ!電話は鳴ってない。もしかしたらこれから電話も来るかもだし!
【ソウマ】もういいって!返信あったならそれで十分だろ!
【モトヤ】いや、ここまで待ったんだ。彼女から電話で直接話せたら…それが真の勝利だ!
【ソウマ】また訳のわからん欲張りを…。普通に返信返しとけよ。「おはよう」の返事ありがとうって。
【モトヤ】うーん、でも今返信したら既読無視してたのバレるし…もう少し経ってからにしようかな。
【ソウマ】今度は何待ちだよ!早く返せ! (突然スマホの着信音が鳴る)
【モトヤ】お、おおっ!電話鳴った!ほら来た!
【ソウマ】マジで!?結衣ちゃんから?タイミング良すぎだろ!
【モトヤ】……って、母さん!? 自宅からだ…。
【ソウマ】はぁ!?お母さん!?
【モトヤ】やばい、もしかして昨日の説教、まだ続きがあるのかも。
【ソウマ】待って耐えたと思ったら、容赦なく第二ラウンド来たな…。
【モトヤ】ど、どうしよう。出たらまた怒られる…絶対やばい。
【ソウマ】どうしようじゃねえよ!素直に出て謝れって。
【モトヤ】い、いや…ここは…
【ソウマ】まさか出ないでまた待つ気じゃ…?
【モトヤ】…鳴らぬなら鳴らなくなるまで待とう…母の電話。
【ソウマ】出ろ!それは出ろ!ホトトギス精神使うな!
【モトヤ】でも怖いよ…絶対怒ってるもん。
【ソウマ】だからって無視はもっと怒らせるだけだって!
【モトヤ】もう少し待てば諦めるかもしれない…。
【ソウマ】お母さんを諦めさせるなよ!余計こじれるわ!
【モトヤ】ソ、ソウマ…ここは君に代理で出てもらえないだろうか?
【ソウマ】なんで俺が家臣みたいなことしなきゃなんねぇんだ!自分で出ろ!
【モトヤ】いや、電話越しの雷は直撃するとダメージがでかいんだ…君が防波堤に…!
【ソウマ】知らんわ!自分の尻拭いは自分でしろ!戦国だろうが現代だろうが常識だ!
【モトヤ】…あ、切れた。鳴り止んだぞ。ほら、待ってたらなんとか…
【ソウマ】なるか!後で絶対倍返しで怒られるわ!
【モトヤ】でも俺は電話に出ずに済んだ…ある意味勝利…!
【ソウマ】ポジティブ通り越して現実逃避だなお前…。 【ソウマ】なあモトヤ、お前のそのホトトギス作戦のせいでさ、結衣ちゃんの返信は見逃すわテストは0点だわお母さんは激怒するわ、踏んだり蹴ったりじゃないか!どこに勝利があるんだよ!?
【モトヤ】ま、まだこれから巻き返せるもん!家康公だって最初は苦労したけど最後に勝ったし!
【ソウマ】いやもう家康もお前には呆れて鳴かぬわ!いい加減にしとけ!
【モトヤ】え、家康公が鳴かないってそれホトトギスじゃなくて…。
【ソウマ】突っ込むとこそこじゃねえ!もう知らん!勝手にしろ!
【モトヤ】ちょ、ソウマ置いていかないでよ!一緒に待っててくれてもいいじゃん!
【ソウマ】俺まで巻き込むな!お前一人で存分に待ってろ!じゃあな!
【モトヤ】(去っていくソウマを見送りながら)行っちゃったし…。まあいい、俺は待つさ…みんなが呆れて去っても…鳴るまで待とう、俺のホトトギス…。
ありがとうございましたー!!!!
残念ながら元気になれなかった方は次のエピソードにお進みください。
元気になれた方はまた来てくださいね。(๑•̀ - •́)و✧
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では、また明日!




