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開拓

作者: 雉白書屋

 よお、あんた。大丈夫かい? 昼間もそんなふうに倒れていたよな。ん? そうだよ、おれたち同じ班だ。まあ、人数が多いから覚えられないよな。それとも飲みすぎか? ははは、今夜はもう酒は控えたほうがいいぞ。え? いやいや、酒はあるよ。本当さ。

 いやあ、しかしここはひどい星だねえ。火星を思い出すよ。ん? ああ、そうだよ。おれは昔、火星の開拓に参加してたんだ。そう、ずいぶん昔の話さ……。ろくに毛も生えていないガキの頃に親に売られてさ。

 きつかったよ。物資は足りないのに、労働者だけはどんどん送り込まれるんだ。ははは、あの頃の地球は人口がすごかったからねえ。そのせいで、いろんな意味で空気も悪かったらしいよ。だから、火星の開拓を急いだんだろうな。まあ、口減らしも兼ねてたんだろうがね。人間だけは畑から生えてくるようにどんどん増えてたからなあ。 

 でも、火星には本当に何もなかった。開発で空気はあったが、薄いし寒いんだ。昔の火星の写真を見たことあるかい? そうそう、赤茶けた大地だ。暑そうに見えるかもしれないが、実際はかなり冷えるんだ。まいったよ、ほんと。骨身に染みる寒さだ。

 重力は地球より軽かった。いやあ、あれには困ったね。軽いから楽だと思うだろ? 楽に感じるのは最初だけ。慣れると筋肉が縮んで、結局あまり変わらなくなるんだ。重い資材を肩に担いで運ぶのは大変だったよ。

 え? そうそう、車なんてないよ。ここと同じ。燃料がもったいないんだとさ! ははは! それで毎日毎日働かされて、労働者は次々に倒れていった。

 おれは子供だったから、子供好きな人が目をかけてくれてね。食べ物をくれたり、いろいろと優しくしてもらったおかげで死なずには済んだが、知り合いがバタバタ死んでいくのはきつかったなあ……。

 え? ああ、よく知っているね。そうなんだよ。開拓が終わって富裕層や一般人が火星に移住し始めた頃、開拓民たちが集団訴訟を起こしたんだ。劣悪な労働環境がどうの、人権侵害がなんたらとか……まあ、その辺は弁護士任せだったからよくわからないけどね。結果として、かなりの賠償金が手に入ったんだ。

 何? ああ、金持ちのくせにどうしてまた星の開拓に参加したかって? はははははは! まあ、それは想像に任せるよ。いやいや、嘘じゃないって。ん……ああ、そうだね。ここで生き残れば、また訴訟で賠償金が手に入るかもしれないね。

 だから元気出すために、ほら、飲みなよ。そうそう、ぐいっと。ああ、そうだよ。酒だ。ははは、だから酒はあると言っただろう。調達屋に金を払えば買えるんだよ。まあ、割高だけどね。どうだ、うまいだろ? おー、いい飲みっぷりだ。まだあるからどんどん飲みな。そうそう……遠慮しないで、ほら、もっともっと……まだまだ……入らないな……もう少し……よし、こんなもんかな。お疲れさん。

 ……火星でも、死にゆく奴らには酒を振る舞ったもんだ。みんなで持ち寄ってね。優しさもあったけど、それだけじゃない。

 ふふふ。火星は本当に物資が少なかった。だから、死んだ人間はリサイクル機にかけられるんだ。で、その人間がいた班に優先して振る舞われるんだよ。だから酒を飲ませておくと、リサイクルされたあと、いい味になるんだよお。

 ああ、今までいろんなものを食ったけど、あれが一番うまかったなあ……。


 だから、おれはここに来たってわけさ。

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