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【5】幸せな本

数学の補習が終わって、少し長めの休憩時間がある。

夏休みの補習中は、こう言う変則的な時間割になるみたいだ。

個人的には、休憩なんかしなくても良いから、

とっとと終わらせてコントローラーを握っている時間を増やしたい。


ふと、隣に座るギャルさんを意識する。


視界の端っこ、見えているけど、見えていない部分で、

ギャルさんを見ると、錯覚なのか、こちらを凝視している様に感じる。


こう言うのはよくある事で、勘違いして視線を返すと

大抵は、全くこちらを見ていない。


そう思い、ちょこっと目線をずらしてみる。


鋭くて、綺麗な目がこちらを見ていた。

ギャルさんは、僕が目線を合わせると、

また目と口を曲げてニッコリと笑った。


くそ。なんだよ。一体どう言うつもりなんだ?

昨日、変な男と車に乗って、何処か行ってた癖にさ。

どうせ、また僕をからかって、暇つぶしをするつもりなんだろう?

もう良いよ。


「…………」


僕は、プイッと首を曲げてギャルさんの視線から逃げる。

なんだか、してやられているばかりで、さすがに面白くない。


まぁ、気にしない様にしよう。

僕には攻略計画という、大きな課題があるんだ。

それに集中しようじゃないか。


僕は、再び攻略本を取り出して情報を整理する。


さて、武装はどうしようか。

ここは、ファンの間でも意見が分かれるところで、

ボス戦の前に拾える『グリンフォクスの剣』を使うべきか、

ダンジョンの前にアルハイドの娘からもらえる『サワグレプの大剣』を使うべきか、

どちらもバックストーリーがボスに続きそうなんだけど、問題は正規ストーリーの解釈が……


「真響君。何読んでるの?」


僕の悪癖をこじ開けて、ギャルさんが話しかけてきた。


そういえば、違和感のひとつに『呼び方』がある。

昨日まで、僕のことを『オタク君』と呼んでいた。

本当の名前なんて知らないんだろうと思っていたのに、

今更、苗字で呼ぶなんて、何か必ず裏があるはず。


「こ……攻略本」


疑心暗鬼になりながらも、僕はギャルさんを冷たく突っぱねる事が出来ない。

僕は、自分のこういうアヤフヤな性格が嫌いだ。


ふと、自分の手にある攻略本を意識した。


ギャルさんの眼前にあると思うと、

いつも目にしている攻略本が、いつもとは違う様子に見えた。


ウジャウジャと付箋の生えた、

角の潰れた手垢まみれの本。


ソレが酷く、汚らしいものに見えて、

自分が後生大事にソレを読んでいる事が、

この上なく恥ずかしい事に感じた。


僕は、冷や汗をかきながら、赤くなり、

机の中にソレを隠してしまいたかった。


でも、ギャルさんは、ソレをそっと掴んで僕の手から取り上げた。


「あ……か……返してよ」


「ふ〜ん。ゲームの本?」


ギャルさんは、汚いソレをペラペラとめくりながら、

鋭い目を細くして、じっくりと何かを確認している。


僕は生まれつきの糸目を、グネグネと曲げて

居ても立っても居られない気持ちになる。


あの攻略本には、ゲームに登場するキャラクターのイラストが載っている。

その中でもメインヒロインである、エルフのナリリは、

結構きわどいキャラデザだから、変な勘違いをされたら非常に困る。


僕は、決してそういうスケベ心でゲームをプレイしているのではなくて、

ゲーム性とストーリー性が好きでプレイしている。

確かにナリリの衣装デザインは、好きだけど、

でもそれは、優秀なキャラデザという意味であって、

決して萌え要素的な視点で見ているわけじゃなく。


「この本は……幸せな本だね」


ギャルさんは、汚い攻略本を丁寧に閉じて、

ゆっくりと机の上に置いてから、そう言った。


「いや。それは………え?幸せ?」


「うん。こんなに熱心に読んで貰えたらさ、嬉しいよ。

 私が本なら、きっと嬉しい」


「そっ……そうかな?」


「うん。私はそう思う」


思ってもみない返答に、返す言葉が見つからない。

返答用の言葉一覧に全く用意がない。

というか、もしかして褒められたのかな?


先ほどとは違う意味で顔が赤くなる。

一体どういうつもりなんだろう。

ギャルさんが僕を褒めて何か意味があるのかな?

何か……とんでもない要求をしてくるつもり?

こ……怖い!!


「ねぇねぇ」


「う…うん?」


「このゲーム面白いの?」


「き…興味あるの?」


「うーん……」


え?どっち!?

何に悩んでるの?


「このゲームは、君が一番好きなゲームなのかな?」


好きか。だって?

僕に対して、サーキュラーシンボルが好きかどうかだって?

そんなもの、好きとかどうとか言う次元じゃない。


「サーキュラーシンボルはね、最近4が出たんだ。

 それよりも前の作品は、僕は中学生の頃からやってて、

 その思い入れを語るには、好きなんて言葉じゃ足りないんだ。

 特に好きなポイントはね、作品数が増える度に、前作のキャラ配置を……」


う。


うわぁ。


語っちゃった!!ものすごい早口で!!


いつもの悪癖が言葉にして出てきたのは初めての事だ。

いや、野田と喋るときには、いつもこんな感じなんだけど

まさかそれをギャルさんに見せてしまうなんて!!


絶望だ。今後の人生で、一生恥部として思い出すんだ!

きっとそうだ!!夜中に布団の中で悲鳴を上げるんだ!!


うわぁあああ!!今ここで消滅したい!!


「へへ……好きなんだ?」


「え?」


ギャルさんは、嬉しそうに笑った。

まるで全てを許容する聖母の様だった。


「すごい語るじゃん。好きなんでしょ?」


「う……うん」


「じゃあ。興味あるかな?」


え………じゃあ?じゃあってどう言う事!?


じゃあって!?


「えっえっえっ!」


その時、教室の扉が勢いよく開く音がした。


「うぅ〜い。全員席つけよぉ〜楽しい楽しい古文の時間だ。

 いとわろし、いとわろし」


豪快な語り口で有名な、崎元先生が、丸めた教科書を叩きながら登場した。

そのインパクトのせいで、ギャルさんとの会話が中断された。

でも、ギャルさんは「また後で話そ」と、耳打ちした。


ど……どう言う事なんだ!?

もしかして、ギャルさん……本当に僕の事を!?

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