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浮気者

さくっと読める長さです。

全三話、まとめて投稿済みです。

花の咲き誇る中庭は、恋人達の集う場所だ。

十五歳から十八歳の三年間を過ごす学園生活の中、僅かな期間を楽しむが如く恋に溺れる者は多数いるのだ。


聖ルベリア学園の教えは、愛に真摯に、愛に偽り無く。

ルベリア学園の設立者である、女神ルルベリアーナは愛を司っていたと言う。

学園に聳え立つ女神ルルベリアーナは石像とは思えぬほど荘厳で、美しく、慈愛に満ちた眼差しで生徒を見守っている。


中庭がよく見える窓の側に立って下を見つめている少女が一人。

赤茶の髪を三つ編みお下げにして背中に垂らし、顔が小さいのか、眼鏡が大きいのか、顔の半分が眼鏡に隠れている。

顎は小さく、頬はなだらかな丸みを帯び、唇は下唇がぷるんとしており、小動物を思わせる。

度入りの瓶底眼鏡は彼女の瞳を周りからも隠してしまっている。

前髪は短すぎず、長すぎず。ともあれ、彼女は一言で表すならば地味。それに尽きる。

ちなみに、背も小さく同級生の中にすぐに紛れ込んでしまう。

そんな彼女の名はニカ・レッティ。


生徒は富裕層か、貴族の二択である。

なにしろ、聖ルベリア学園の学費は随分と高額だ。聖ルベリア学園の卒業者と言うだけで箔がつき、卒業後は引くて数多となる。

国境を三つ跨ぐ場所に構えられた学園に、挙って自分の子供を送り込む親は多い。


ニカは貴族の出である。

聖ルベリア学園は火を司るエン王国、水を司るスイ王国、草木を司るソウモク王国の三国の国境が交わる場所にある。

ニカはエン王国の出身だ。


そして、ニカは同じエン王国の出身である婚約者がいる。いる筈なのだが、その婚約者はニカの視線の先、中庭でニカではない女生徒と肩を寄せ合い、昼食をとっている。


ニカは窓の外、知らない女生徒と肩を寄せ合う己の婚約者であろう男を分厚い眼鏡のレンズ越しに睨む。

親同士が仲が良く、生まれた時から勝手に結ばれた婚約者なのだが、お互いの意思はまるで無視されている。

婚約者、名はルキ・ラティエ。ルキはニカを頻繁にニカを追いかけ回した。

小さなニカは背の高いルキからは逃げ切る事など出来ない。毎度捕まっては嫌がるのを無視して引き摺り回した。それは街中であったり、野山であったり、様々な場所だ。

ニカの小さな手首をルキの大きな掌でがっしりと捕まえ、何処にも行かないようにした上で歩き回った。歩幅はまるで違うのに配慮してくれないルキ。転けそうになると、「鈍臭いな」と鼻で笑いながら軽々とニカを抱き上げるのだ。


いつも、そうだった。

なのに、学園に入ってからルキはニカと距離を取り始めた。

婚約者でもない女生徒と仲良く中庭で昼食を取るのだ。


愛に真摯に、愛に偽り無く。

つまりはルキは教えに則り、ニカを蔑ろにしている。つまりは、ニカとの間に愛は無いと無言の主張をしているに違いない。


ルキは、背が高い。

ニカと並ぶとまるで親子。

いつからか体を鍛え始めたルキはそれなりに筋肉も蓄えたので、より親子に見える。

ニカは背も低く、体も薄っぺらい。

食に関心が無く、きのみをひとつ、ふたつ口に放り込んで食事をしたと満足気にしてはルキに無理矢理食べ物を詰め込まれると言う事も今まであった。


暗赤色の髪も、燃えるような緋色の瞳も、ルキの男らしさを際立たせる。

しなやかな筋肉に包まれ、上背もあり、眉毛は凛々しい。

だが、大きな口を豪快に開けて笑う姿はどこか犬の様で。

彼の周りには自然と人が集まる。


教室の隅でちんまりと座っているニカと対照的だ。


ニカとルキの婚約は周りも知っているが、ルキに対して同情的な声が多い。

「婚約を解消して差し上げたら?」と直接言われた事もあるが、親の決めた事、とニカは答えるしかなかった。

私だって意地悪なルキは嫌だ、と口に出したかったニカだが、何も言わなかった。少し離れたところからじっと見つめるルキの視線が怖かった。下手なことを言うと何処かに引き摺られて行きそうだった。


「浮気者」


ぽつりと呟いたニカの言葉は、聞こえない。


と、思っていたのだが。


醜い嫉妬をするな→美しい嫉妬をすればいい

というメモから、勢いだけで書いてます。

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