幕間:~赤の女王~
ショッピングモールの屋上。室外機が整然と並んだ、立ち入り禁止エリア。
人知れず瞬時にそこまで跳躍したマリナは、呆れたようにため息を漏らす。
「最近は話の分かる良いコが増えて、あたしとしては嬉しかったのだけれど。
まだこんな血気盛んなコもいたのね」
彼女の目の前には、漆黒の化け物。マリナに対して、威嚇のうなり声をあげている。
「あたしが誰なのか、知らないわけがないわよね?
―――分を弁えなさい、無礼者が。
そうすれば、今回は見逃してあげるわ」
銀の髪を風になびかせながら、マリナは化け物に対して鼻で笑ってみせる。
「面白いモノを見つけて、せっかく良い気分だったのに……。
あたしの楽しみに、水を差さないでくれる?」
マリナの冷たい視線を受けると、化け物は身を低くし、いつでも飛びかかれるような体勢を取った。
「そう、あくまで反抗するの」
マリナのたおやかな手に、紅い光が宿る。紅蓮の炎にも似た深紅の揺らめきが、彼女の全身に広がっていく。
化け物は短く吠えると、大口を開けてマリナに飛びかかった。
「不届き者には、お仕置きが必要ね」
飛びかかってきた化け物に対して、虫でも追い払うかのように、マリナは軽く手を振った。
そのひと払いで、化け物は派手に吹き飛び、室外機にぶつかって地面に倒れ伏した。
硬質な靴音を響かせ、マリナは悠然と化け物へと歩み寄る。
「いい? あなたの主人に伝えなさい。
―――次はない、とね」
マリナは整った顔に侮蔑の色を宿しながら、ヒールで化け物の胸部を踏みつけた。
全体重をそのヒールに乗せ、苦痛にあえいでいる化け物を睥睨する。
「たかが新参者の従属種風情が、調子に乗るんじゃないわよ。
アレはあたしのモノ。お前ごときが触れていいモノではないと、肝に銘じておきなさい?」