幕間:~女王と猟兵~
夜のとばりが降り、眠りについた街。
まばゆい軌跡を残しながら、住宅街を疾走していく影があった。
それは、黄金色に輝くオーラをまとった、香染色の髪の少年。
常人離れしたスピードで、無人の道路を駆け抜けていく。
「!」
はっと息を呑み、少年は足を止めた。
察知したのは血のにおい。
軽く首を巡らせて源を探り、こっちかという顔をして歩き出した。
たどり着いたのは、信号機もない、細い道が交錯するだけの交差点。
その真ん中に、血の海が広がっていた。
傍らには、銀髪の少女。身にまとうワンピースの赤い色は、生地そのものの色か、それとも返り血か。
「ご機嫌よう。今晩は良い夜ね」
ゆるくウェーブのかかった銀の髪を夜風になびかせて、少女は少年の方へと振り返った。
「やれやれ、遅かったか。
まさか、灰のひとつまみすら残ってないなんてな」
少年が肩をすくめると、少女は首を傾げてみせる。
「この不届き者に用があったのかしら?
もしそうなら、悪いことをしたわね、ごめんなさい。
ただ、あたしが去る前に辿り着けたのだから、あなたは充分に優秀だと思うわよ」
「そりゃ、どうも」
少女のたおやかな手は、赤い液体でベットリと濡れている。
見目の愛らしさからはかけ離れたその惨状に、少年は思わず顔をしかめた。
「そんなにコレを狩りたかったのかしら?」
「たしかに任務対象ではあったけどさ。
横取りされたことに関しては、この際どうでもいい。
それよりも」
少年は目を細め、少女を睨めつける。
「同族殺しとは、ずいぶんと物騒じゃないか。なあ、吸血鬼のお嬢サンよ」
少年を見つめ返す少女の瞳。それは、赤く剣呑な光を宿していた。
「縄張り意識が強いのは知ってるが、同族相手にそこまでするもんかね?」
「あら。分を弁えないコには、お仕置きが必要じゃない」
少女の赤い唇が、ゆっくりと笑みの形に歪められる。
「ましてや、あたしのカズヤにちょっかいを出そうだなんて。
八つ裂きにしても足りないくらいよ」
「……なるほど」
少年がグッと拳を固く握りしめると、黄金色の雷光が宿った。
「和哉を狙ってた輩を処分してくれたのなら、感謝してやってもいい。
だが、和哉はお嬢サンのモノでもないだろ」
「あら、嫌ね。ここにも血気盛んなコがいたなんて」
茶化すような少女の言葉に、少年は敵愾心もあらわに舌打ちをする。
「和哉は何も知らない一般人なんだ。
悪いけど、吸血鬼に贄としてくれてやるつもりはねぇよ」
「あなたの事情なんて知らないし、知るつもりもないけど。
でも、あたしの恋路を邪魔をするつもりなのは分かったわ」
少女の全身から、業火にも似た深紅のオーラが吹き上がる。
「それなら、こちらも容赦はしない。
―――命が惜しくないなら、かかってきなさい?」