第68話 早ければ早いほど良い
「……ここは、どこだ」
見覚えがない天井。
しかし周囲の匂いは鼻が覚えている。
(ここは……ギルドの医務室か?)
無理矢理体を起こすと、視界に一人の女性が映る。
「あら、もう起きたの? もう少し眠ってると思ったのだけど、回復が速いのね」
「俺は、ぶっ倒れたのか」
「そうよ。鬼熊と二連戦してぶっ倒れたらしいわよ。ルーキーなのに随分と無茶なことをするわね」
「は、ははは。まぁ、そうですよね」
自分でもアホな事したという自覚はある。
とはいえ……何故かあの場面で、譲れない何かが爆発した。
「ッ! そ、そういえば……俺を、助けようとしてくれた人たちは?」
「その人たちがあなたをギルドまで運んでくれたのよ。後でお礼を言っときなさい」
「はい……ところで、その人たちって、その……結構強い方たち、ですよね」
「あら、それは解ってたのね。でも……あなた、そういう人たちに向かって俺の獲物だ、って叫んだらしいわよ」
「…………」
両手で顔を覆い、恥ずかしさが爆発しそうになるのを抑える。
(やべぇ……やべぇ、やっちまった)
まさにその通り。やってしまったという言葉が相応しい。
結果としてギールはギリギリ鬼熊を討伐することが出来たものの、本当にギリギリの勝利。
そして本人が覚えている通り、勝利した後……ギールはその場でぶっ倒れてしまった。
彼らが……レパードたちがいなければ、ギールは血の匂いに惹かれたモンスターたちに襲われ、殺されていたかもしれない。
「先に教えといてあげるけど、あなたを救おうとしてくれた冒険者たちのパーティー名は赫き誓いよ。冒険者をやってるな、名前ぐらいは聞いたことあるわよね?」
「ッ!!!??? ま、マジ……です、か?」
「大マジよ。Aランクに最も近いパーティーである彼らのことは知ってたみたいね」
「は、はい。そりゃ勿論」
ギール(タレン)にとってアミーディオやガリウたちが大先輩であるならば、赫き誓いのパーティーリーダーであるレパードたちは、距離の近い先輩。
舎弟……などではないが、中々頭の上がらない先輩と言っても過言ではない。
(ど、どこか懐かしい感じがすると思ったら……れ、レパード先輩たち、だったのかよ)
当然のことながら、竜魂の実を食べて生まれ変わったとはいえ、そういった根っこの部分は変わっていない。
「彼らは今、棍棒亭で夕食を食べてるらしいわよ」
「……ありがとうございます」
これまでの経験から、先輩への謝罪は早ければ早いほど良いと解っている。
その為、本当にもう動いても大丈夫なのか軽い診断だけ受け、鬼熊の素材をどうするかは明日に回すと決め、棍棒亭へ直行。
足取りはかなり重いものの、向かわなければならないという謎の使命感に突き動かされ、ようやく棍棒亭へと到着。
(あ、あそこだ)
印象が強く残っている先輩の姿を忘れる訳がなく、迷うことなくそのテーブルへと向かう。
「ん? おっ、起きたのかお前!!」
「ど、どうも。お陰様で」
「別に良いって、気にすんな!! ほら、座れ座れ。一緒に飯食おうぜ!!」
「う、うっす」
レパードに促されるままに椅子へと座る。
適当にレパードが注文を頼んでいる間に他の三人の表情を確認。
(うっ、インドラさんはあまり怒ってないっぽいけど、レイチェルさんとカーラさんは少々怒ってらっしゃる)
これは不味いと思い、一つ深呼吸をし……深く頭を下げた。
「さ、さっきは生意気な言葉を吐いて、本当にすいませんでした」
「「……」」
冒険者歴的には後輩であろう人物の第一声が謝罪だったことに、二人は驚き固まる。
次会った時に言ってやろうと考えていた内容があったのだが、こうも素直に謝られてしまっては、先輩として下手に怒鳴ったり小言を言うわけにはいかなくなった。
「ふっふっふ、やはり根は真面目な少年だったようだな」
「みてぇだな。ってな訳で、賭けは俺とインドラの勝ちだ」
パーティー内で自分たちの助けを押しのけて鬼熊に挑んだ生意気な少年。
その根っこの部分は自分たちが見た場面通り生意気なのか、それともあの時はテンションが爆上がりしていて少しおかしかっただけで、根は真面目なのかを賭けていた。
結果として根は初めだったことが解かり、二人は素直に負けを認めて金貨一枚を放り投げた。
「いやぁ~~、にしても良いバトルだったぜ。こう……見てるだけ毛が逆立つ内容だった」
「うむ、まさに漢が命を懸けて戦った、非常に熱い内容だった」
「……そう、ね。確かに、君の……ギール君の戦いは良い意味で命懸けだった。あそこで冷静さも残っていたのだから、小言を言う必要はないわね」
「まっ、二連戦であいつを倒したって事実を考えれば、素直に褒めないと駄目よね~」
「あ、ありがとうございます」
敬意と畏怖を持つ先輩たちに絶賛されるという状況に嬉しさと困惑の両方を感じ、全く料理の味が解らない。
「……ねぇ、一つ聞いても良いかしら」
「は、はい。なんでしょうか」
Gカップの金髪エロエロお姉さんにジッと見つめられ、先輩という関係性もあってガチガチに固まるギール。
「ギール君は、死にたがりなの?」
「えっ?」
レイチェルは既にギルドからギールがまだDランクであり、十七歳という情報を得ていた。
当たり前だが、十七歳というのはまだまだ非常に若い。
Bランクという化け物に挑むには、圧倒的に多くの要素が足りない。
「前に進もうとする冒険者たちは、皆総じて死にたがりかもしれないけど、ギール君の場合は少し行き過ぎてる」
「そうね~~。私たちもそれなりに無茶してきたけどぉ~、さすがにちょっと頑張り過ぎって言うか、命懸け過ぎじゃないって感じ」
「その……色々と目標があって、そのためには無理して頑張らないといけないって気持ちがあって」
ギールの言葉を聞いて、なるほどなるほど……とはならない。
丸っと納得は出来ないが、それなりに冒険者として経験を積んできているため、あまり深く踏み込んではいけない領域だと察せる。
それでも面白い後輩を捕まえたという事実は変わらないため、ギールは夕食を食べ終えてから解放されることはなく、そのまま二次会へと連れていかれ……最終的にはインドラと一緒に酔い潰れた三人を宿へ運ぶことになった。




