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第67話 俺の獲物だ

(うそ、だろ。おい)


「グゥゥゥ……」


背後に現れたモンスターは……なんともう一体の鬼熊。


実はギールが討伐した鬼熊は雄であり、番である雌と一緒に行動していた。

そんな情報、全くなかった。


しかし、それに関しては鬼熊が四六時中一緒に行動しないという習性がある為、ギールが予測できなかったのも無理はない。


問題は……もう体力と魔力が底を尽きそうという現状。

加えて、雌であろうが自身の番を殺した相手を恐れて逃げ出す程、甘い存在ではない。


(クソっ、たれが)


両手に再度竜戦斧を握りしめるも、先程までと比べて全く力が入っていなかった。


もう駄目だと体と心も悟った瞬間……ギールと鬼熊の間に一つの影が割って入る。


「へぇ~~、番で行動してたのか」


現れた救世主は豹人族の男性冒険者。


鑑定など使う余裕がないギールだが、それでも一目で解る。

目の前の人物の戦闘力は並ではない。


「片方は既に事切れているな。そちらの少年が倒したという訳か……天晴だ」


「そうね……周囲に人がいないことを考えると、本当に一人で倒したようね」


「天晴天晴だね」


豹人族の男性冒険者の仲間であろう人物の背丈、顔を見て……どこか見覚えがあると感じる。


何はともあれ、自分は助かった……そう思っている筈のギールは……無意識に魔力回復のポーションを飲んでいた。


(これで助かる……助かる? 俺は、何……甘えてるんだ?)


甘えてなどおらず、今再び体力全快の鬼熊と戦えば、死ぬ可能性の方が圧倒的に高い。


運良くギルドの方から頼み事を受けていた冒険者が到着し、九死に一生を得た

状態。

彼らとしても一人で鬼熊倒したギールに感嘆しており、絶対に守ってやるという気持ちが芽生えていた。


「安心しろ。こいつは俺らが「……け」ん? どうし、た」


豹人族の男性冒険者が呟きを確認するよりも先に、竜戦斧に雷を纏い、鬼をもビビらせる形相で駆け出していた。


「こいつはっ!!! 俺の得物だぁああああアアアアアアアアアッ!!!!!」


間一髪のところで間に入り、助けてくれたメシアを相手になんて言い草。

ギルドから頼み事をされていた彼らは呆気に取られ……ダークエルフの女性冒険者は若干頬を膨らませていた。


「何あれ、ちょっと生意気じゃない? せっかくレパードが必死に走って助けたってのに」


「ふむ……状況としてはドラゴンに睨まれたスライムであったな」


ダークエルフの女性冒険者、カーラの言葉に竜人族の巨漢冒険者、インドラはその通りだったと口にするも……目の前の光景を見て、考えを改める。


「頑張ってるけど、危ない状況であることに変わりはないわ。彼の意志を無視してでも、助けた方が良い筈よ」


エロエロオーラ前回の魔女スタイルの女性冒険者、レイチェルは無理矢理にでも共同戦線にして鬼熊を討伐した方が良いと進言。


ギールが生意気であるという点に関してはどうでもよく、寧ろ鬼熊をソロで倒すことが出来るほどの戦闘力を有している後輩を死なせる訳にはいかないという、ギールでなければ無理だと解っていてもうっかり惚れてしまう先輩心。


しかし……パーティー名、赫き誓いのリーダーであるレパードはレイチェルの提案を却下した。


「……いや、あのガキの戦いを見守る」


「レパード、私もあの子が万全の状態であれば観戦に賛成よ。でも、あの子は鬼熊との一戦を終えて満身創痍だったじゃない」


「じゃぁ、逆に聞くけどよ……あれが満身創痍の奴の動きに見えるか?」


視線の先には……吼えることを止めないギールが怒り狂う鬼熊を相手に互角の勝負を繰り広げていた。


この時、ギールは癖で既にオルディ・パイプライブを発動中。

縛りの内容は先程の一戦と変わらず、スキルの使用は五つまで。

そして使用しているスキルは身体強化、剛腕、疾風、雷魔法、斧技の五つ。


疲労によって出力は落ちているものの、その暴れっぷりは番を殺されて怒り狂って仇を仕留めようとする鬼熊に負けていない。


「ガキが雄を……男を魅せてんだ。黙って見届けるのが筋ってもんだろ」


「……インドラ」


「俺もレパードと同じ考えだ。もはやこれはあの少年の戦い。俺たちが割って入れば、それはただの邪魔になる」


「それなら、二人はあの子が絶対に鬼熊に勝てると思うの?」


「物事に絶対はない。だからこそ、挑む価値があるとあの少年も本能的に感じ取ったのだろう」


「もぅ……私は準備だけしとくわ」


レイチェルは後衛としてギールをサポートしようとはしなかったが、万が一の状況が訪れた場合、確実にギールを助けられるように攻撃魔法を準備。


(確かに互角であるのは認めるけど……あぁいった気迫はいつまでも続かないのよ)


相手が鬼熊の様なBランクモンスターであれば話は別だが、体力も魔力も満タン状態の怪物。

再度考えても、ギールが不利なのは一目瞭然。


しかし、それは表面的な話。

メンタル的には……ややギールが有利だった。


鬼熊は番が殺されたことによる怒りで、普段よりも動きが大雑把であり、攻撃だけに意識が殆ど向いている。


それに対し、ギールの闘争心は激しく燃えているものの、冷静さは失われていない。

心はホットに頭はクールに、と言えるほど完璧ではないが、鬼熊の大雑把な動きに対応出来るだけの冷静さは残っていた。


「うぉらあああああっ!!!!!!」


「ッ!!!!???? ゴ、バっ!!!???」


疾風の蹴りで鬼熊の火爪が振り下ろされる前に弾き、不格好な体勢で放たれるは斧技によるクロスアックス。


二振りの竜戦斧によって放たれたX字の雷線は見事鬼熊の分厚い毛皮を斬り裂き、内臓をズタズタに引き裂いた。


両肺、心臓が斬り裂かれたことで、タフネスな鬼熊も……さすがにノックダウン。

最後の最後に火爪を振り下ろそうとしたものの、途中で完全に力尽き、地面に倒れ伏した。


「っ……しゃ」


そして数秒後、激戦の後に殆ど自身をケアせず再び激戦に身を投じたギールも、そのまま地面にぶっ倒れた。


「良いもの観せてもらったぜ、少年」


レパードは最終的に訪れた危機を自らの手で叩き潰したギールに賞賛を送りながら、パーティーメンバーに指示を出し、ギールをライブスまで背負って帰った。


そしてライブスに到着してから数時間後、ギールが目を覚ました場所はギルドの医務室だった。

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